05 幼馴染の帰還
「ティーゼリラ姫、ディーが戻ってくるわ」
その言葉を聞いた瞬間、嬉しさと恐怖が同時にティーゼリラを襲っていた。
表情を曇らせるティーゼリラに気が付いたイクストバルは、そっと近づいてその足元に跪いた。
そして、見上げるようにしてティーゼリラの不安に揺れるハニーブロンドの瞳を覗き込んだ。
何を不安に思っているのか察しがすぐについたイクストバルは、砕けた調子で、ティーゼリラを安心させるように言った。
「大丈夫よ。何も心配することはないわ。ちょっと……驚くことはあると思うけど。大丈夫よ。あたしもいるし、レイン様たちもいるわ」
そう言って、イクストバルは、笑顔を見せた。
昔は、格好つけで調子のいいヤンチャな男だった。そんなイクストバルもいつか運命の相手と結ばれたいと夢見るロマンチストな一面を持っていたことをティーゼリラは知っていた。そして、イクストバルは、紳士的な素敵な男となり、沢山の女性たちから熱い視線を向けられるようになったと思っていた。だが、ある日、何の前触れもなくおねえになっていた、そんな謎に満ちた幼馴染に励まされたティーゼリラは意を決して口を開いていた。
「うん。わかった。わたし、当分部屋にこもるから。ディー……のことは頼んだわよ」
「うん……ん? え? な、なんて? あたしの聞き間違いかしら?」
「ううん。聞き間違いじゃないよ。ディーに会うなんて無理だから!」
そう言ったティーゼリラは、ばっと立ち上がったと思ったら、そのままベッドに潜り込んでしまったのだ。
それを見たイクストバルは、「あらら」と言うだけで、無理にベッドから出そうとはしなかった。
代わりに、優しい言葉を残して、ソフィエラたちを連れて部屋を出て行ったのだ。
「分かったわ。少しだけ時間を作るから、ちゃんと考えるのよ」
誰もいなくなった部屋でティーゼリラは、自分がどうしたいのか考えていた。
もし、可愛らしい彼女をディーディラインが連れてきたら、もし、ディーディラインが今のティーゼリラを見てがっかりした表情を浮かべたら……。
ネガティブなことしか考えられないでいたティーゼリラは、とりあえず身だしなみを整えることから始めることにした。
最近は、一日おきに風呂に入るようになっていたが、寝間着とぼさぼさの頭でだらしない格好に変わりはなかった。
部屋にしつらえられている浴室に向かい、バスタブに湯を溜めながらぼんやりと考える。
ディーディラインが留学先に旅立ってからから五年。
きっと今もぽよぽよで可愛らしいディーディラインなのだろうと想像を膨らます。
ディーディラインなら、今のだらしないティーゼリラを見ても「仕方ないですね」と言って許して受け入れてくれるかもしれないという思いと、だらしない自分を見て呆れて離れて行ってしまうかもしれないと言う考えで頭がぐるぐるになっていった。
それでも、溜まった湯に浸かっているうちに、どうにかなる気がしてきたティーゼリラは、意を決して身支度を開始した。
しかし、今まで寝間着か、それに近いシンプルなドレスしか身に着けていなかったため、いざおめかししようとしても途方に暮れることとなったのだ。