12 レインの心配事
それから、今までサボっていた分を取り戻すかのように公務に励むティーゼリラの姿があった。
勉強については、引き籠る際に図書室の本を持ち出し片っ端から読み漁っていたので、ティーゼリラに足りないのは実践だけだった。
知識はあってもそれを実際にどう活用するかは、経験がものをいうところがあった。
持っている意識を生かすために、宰相に何くれとなく相談に向かう毎日。
ただし、ディーディラインを構うことを敢えてしないティーゼリラだった。
ディーディラインに宣戦布告をしたとティーゼリラから聞かされていたソフィエラとレインは、行動を起こそうとしないティーゼリラに首を傾げていた。
そんなある日、レインがお茶会を開いた。
王太子妃と第二王女として日々公務に励む二人と違い、スイーティオの婚約者という肩書しかないレインは、二人に比べると時間的余裕があった。
そのため、三人でするお茶会の準備は、レインの当番となりつつあった。
レインは一時期、こことは違う異世界いたことがあった。
その時に、家事全般を一通りできるようになっていたのだ。
そのため、こちらの世界に戻ってきても時間があれば、向こうのお菓子を作っては振舞っていたのだ。
特に、この世界にはないお菓子をティーゼリラもソフィエラも気に入っていて、レインからのお茶会の誘いは喜んで参加していたのだ。
その日は、サツマイモを使ったケーキとジャガイモを使った揚げ菓子が用意されていた。
レインが戻ってくる前まで、サツマイモは平民の食べ物、ジャガイモは毒物として考えられていた。
しかし、レインがそれらで料理を作ったことで人々の認識が変わったのだ。
レインの作ったお菓子を食べながら話に花を咲かせる三人だったが、レインにはどうしても気になることがあったのだ。
だからこそ、今回のお茶会を開いたというのもある。
紅茶を飲んで喉を潤したレインは思い切ってティーゼリラに質問をしていた。
「あのね、ティーゼリラちゃん……。ディーディラインさんのことなんだけど……」
ためらいながらそう言ったレインにティーゼリラは、数度瞬きした後、あっけらかんとした表情で言ったのだ。
「それなら大丈夫です。これは作戦なの。敢えてそっけなくして、ディーからキスしたくて堪らなくするための作戦なの!」
まさかの返答にレインが呆気に取られていると、ソフィエラが顔を赤くしてオロオロとしだした。
「ティーゼリラちゃん……。それは、危険だと思うのだけど……」
「大丈夫! この前私からディーにキスをしたから、今度はディーから私にキスして欲しいの。だから、ディーを焦らして、向こうからキスさせるという完璧な作戦なの! それに、敢えて素っ気なくすると、ディーが泣きそうな表情をするのが堪らなくて」
ティーゼリラの発言にソフィエラは、「ティーゼリラちゃんは積極的ね」とほんわかしたことを考えていたのに対して、レインの感想は違った。
流石、スイーティオやカウレスと同じ血筋だけはあると思ったのだ。
ただし、二人の兄とは違って、なんとなくティーゼリラの方が最後に泣きを見る気がしてならないレインだった。
だからこそ、経験者として忠告しなくてはならなかった。
「ティーゼリラちゃん。どんなに奥手な方でも、男性は男性なのよ」
そんなレインの言葉に、ティーゼリラだけではなく、同じ境遇のはずのソフィエラまで首を傾げていることにレインは言葉を失っていた。
スイーティオの嫉妬深さと執念深さは相当だが、カウレスも相当なものだと知っていたからだ。
そんな、カウレスに全身全霊をもって愛されているソフィエラなら、同じようにスイーティオからこれでもかと愛されているレインの経験からくる懸念を理解してくれると思っていたのだ。
それなのに、ソフィエラの全く理解していないような反応にレインは、「ソフィエラお義姉様だから仕方ないわね」と納得するしかなかった。
そんなレインの心配は、この後見事的中することとなるのだった。




