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11 引き籠り姫は動き出す

 ティーゼリラは瞳を閉じた状態で、ドキドキしながらディーディラインの口づけを待っていたが、いくら待っても唇に触れる感触はしなかった。

 そこで、もしかしてキスをされると思っていたのはティーゼリラの勘違いだったのかと思い至り残念に思う。

 自分の勘違いを恥ずかしく思いながらも、どんなに見た目が変わっても、ティーゼリラが好きだった優しいところは全く変わっていないと気づき、ディーディラインをやっぱり好きなのだとしみじみと思う。

 怠惰なニートになった今の自分が恥ずかしくて逃げていたティーゼリラだったが、自分の気持ちがはっきりと分かった今は、憑き物が落ちたような気分だった。

 恥ずかしい自分を見られたくないのなら変わればいいのだと。

 いつまでもうじうじするだけでは、格好よくなったディーディラインを他の誰かに取られてしまうかもしれないと。

 腹の決まったティーゼリラは瞑っていた目を開けていた。

 目の前には顔を赤らめたディーディラインがいた。

 瞳が合うと、またしてもドキリと胸が鳴った。

 改めて見つめるディーディラインは、眉目秀麗な青年となっていたが、照れている表情は昔と変わらず、ティーゼリラには可愛らしく見えた。

 だからこそ、ディーディラインを苛めてやりたいような気持が湧いたのだろう。

 

 ティーゼリラは、敢えて分かりやすいように頬を膨らませるようにして不機嫌な表情を作っていた。 そして、上目遣いでディーディラインを見て言ったのだ。

 

「ディーの意気地なし」


 そう不機嫌な声音で言うと、ディーディラインが慌てふためくのが分かった。

 内心、してやったりと思いながらディーディラインが何かを言う前に顔を近づけて軽く唇を合わす。

 そして、驚くディーディラインににっこりと微笑み掛けた後にティーゼリラは、軽い身のこなしでディーディラインから距離を取り、こう言ったのだ。

 

「ディー。覚悟してね。こうなったのは、ディーの所為なんだから。今日のところは、これで勘弁してあげるけど、明日からは……。ふふふ」


 自分の言いたいことだけ言って、ティーゼリラは、ひらりとした軽い足取りでその場を後にしたのだ。

 その場に残されたディーディラインは、呆然としながらティーゼリラの柔らかい唇の感触を確かめるように、自身の唇に触れていた。

 

 

 一方、図書室を出たティーゼリラは、私室に向かって全力疾走していた。

 そして、自室につくなり自分の大胆な行動に全身から火が出るのではないかというほど、体中を真っ赤に染めたのだ。

 そして、熱くなった顔を両手で覆って。その場にしゃがみ込む。

 

「うきゃー! やってしまったわ!! とうとう……、でぃ……ディーディラインの唇を奪ってしまったわ!」


 事実確認でもするかのようにそう口にしたティーゼリラは、すくっと立ち上がり思いっきりベッドにダイブしていた。

 そして、ベッドの上をゴロゴロと転がりまわる。

 

「キャーキャー! ディーの真っ赤になって驚く顔……。すごくよかったわ……。それに、ちょっとしか触れなかったけど、温かくて柔らかくて……。はぁ……。もっとディーとキスしたいわ」


 ひとしきりベッドを転がったティーゼリラは、久しく使っていなかったベルを手に取る。

 ベットから身を起こして、ベルを鳴らしたティーゼリラは、背筋を伸ばして部屋に入ってきた侍女に命じていた。

 

「ごめんなさいね。今から、部屋の掃除と湯あみの手伝いをお願いできるかしら?」


 ティーゼリラのその言葉を聞いた侍女は瞳を輝かせて答えていた。


「はい。かしこまりました! すぐにお支度をいたします」


 久しぶりに全身を磨かれたティーゼリラは、世話をしてくれた侍女たちににこりと微笑んで言ったのだ。

 

「ありがとう。明日も朝の鐘がなる前に支度に来てくれる?」


 ティーゼリラのその発言は、引き籠りのニートを止めるという旨のものだった。

 そして、侍女たちもそれを瞬時に理解し、張り切って頷いていた。

 

 ティーゼリラは、ディーディラインを好きだという気持ちを改めて確かめたことで前に進むことができるようになったのだ。

 

 それからティーゼリラは、今までサボっていた分を取り戻すかのように公務や慈善活動に力を入れていくのだった。

 

 

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