01 お姫様と幼馴染
レオニルテーゼ大陸にあるアメジシスト王国は、周辺諸国から精霊王国と呼ばれていた。
その、アメジシスト王国の第二王女として生を受けたティーゼリラ・エレメントゥム・アメジシストは、恋をしていた。
ティーゼリラは、月を思わせる銀の美しい髪と王家特有のハチミツを溶かしたような金の瞳の美しい少女だった。
同年代の少女に比べて手足の長いその身は、すらりとしていて、脆く儚い印象を与えた。
ただ、ティーゼリラは、思ったことをそのまま口にするような少女だったため、彼女を知る者は、見た目詐欺だということをよく知っていた。
そんな、ティーゼリラは四つ年上の兄、スイーティオ・エレメントゥム・アメジシストの親友に恋をしていたのだ。
兄のスイーティオは、無口ながらも青銀の髪と金の瞳の美青年として知られていた。
兄をよく知るティーゼリラとしては、無口というよりも口下手の朴念仁だという印象を兄に持っていた。
そんな兄には、二人の親友がいた。
一人は、伯爵家の長男で、将来国を背負って立つ立派な騎士になるだろう、イクストバル・ハートラインだ。イクストバルは、アメジシスト王国では珍しい漆黒の髪と海を思わせる深い青の瞳の美青年だった。
ただし、イクストバルをよく知るティーゼリラには、ヤンチャなバカという印象だったが。
そしてもう一人が、ティーゼリラが思いを寄せる相手だ。その人は、伯爵家の長男でディーディライン・ソフオウルと言った。
彼は、柔らかそうな栗色の髪と緑の瞳の少年だった。性格は優しく穏やかで、駄目な兄とその親友を支え時には諭す、芯の強さを持っていた。ただ、見目麗しい二人に比べると見劣りする容姿だった。
スイーティオとイクストバルは、たいして気にしていなかったが、ディーディラインは、周囲からの声を聞いては落ち込んだものだった。
ディーディラインは、よく言えは地味で平凡なぽっちゃり少年。悪く言えば、どこにでもるような大したことのない容姿とデブなだけが取り柄の少年だった。
ただし、それは見た目がそうという話で、実際のディーディラインは、頭脳明晰で心根の優しいできた少年だった。
それを知っているからこそ、姿など関係ないとばかりに、スイーティオもイクストバルもディーディラインと親友でいたのだ。
そして、それはティーゼリラも同じだった。
小動物を思わせるような柔らかい栗色の髪と優しい眼差し。
抱き着けば雲のような柔らかさを知っているからこそ、彼を好きだということは憚らず公言していたのだ。
ディーディラインと会うたびに、ティーゼリラは、そのモチモチの体に抱き着き「ディー、好きよ。結婚しましょう」と言って、ディーディラインを困らせたのだった。
ただし、ディーディラインも満更ではなかった。というよりも、内心飛び上がってそれを喜んでいたのだが、それを表に出すことはなかったのだ。
心の中では喜んでいても、口に出すのは「姫様、おやめ下さい」というつれない言葉だった。
それはそうだろう、相手はこの国の姫なのだから。
どう見ても釣り合わないと自覚していたのだ。
美しい姫と地味でデブな自分。
毎日、イクストバルに付き合って体を動かし、食事内容にも気を使っているのに体重に変化はなかった。
そうこうしているうちに、ディーディラインに取っての転機が訪れたのだ。
それは、イクストバルが、第一王女の従者として他国に短期留学から帰ってきたことだった。
留学前からイクストバルは、強く凛々しいまさに王子様のような人物だった。
それが、留学から帰ってきたときには、さらに輝きが増し、それまでただのヤンチャな少年だったのに、紳士的な要素も身に着けていたのだ。
貴族令嬢だけではなく、王都中の女性たちが帰国したイクストバルに熱波を送るほどだった。
それを見たディーディラインは、単純にもこう考えたのだ。
「僕が変わるにはこれしかない」と。