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旅立ち2

 遅れてしまったガイネが追い付くのをゆっくり歩いて待ちながら、ブラッチェは南に行く道順の事を考えた。


 ひたすら南を目指すのであれば、わき目もふらずに移動し続けたうえで、最短距離で2か月程度だろうか。だが出来るだけレベルも上げたいし、南の国の情報も得たい。

 国を出るには1年の猶予が与えられているのだから、多少回り道をしてでも出来る限り準備を整えてから向かうべきだろう。

 とりあえず今日はもう日が傾いてきている。もう少し進んだ森で野宿だな。


 そう考えながらふとガイネを振り返って見れば、少し離れた路の端でこちらに背を向けてしゃがみこんでいた。


「おい! 何を休んでいるんだお前は!」

「いてっ」


 バシイと後ろ頭を叩いてやれば、恨めしそうに振り返るガイネ。その手に何かを持っている。


「……なんだそれ?」


手元をのぞき込めば、それはボロボロのスライムだった。通りすがりの子供にでも狩られたのだろうか。瀕死の状態だ。それにガイネは回復魔法をかけているのを見て、思わず張り倒してしまった。


「痛いじゃないか!」


 その衝撃で魔法は中断したが、両手で大切そうにボロボロスライムを持ったまま、ガイネはブラッチェを涙目で振り仰いだ。


「そんなの回復してどうするんだ! さっさと進まないと日も暮れるし、それよりもとどめを刺せば経験値が手に入るだろうが!」

「この状態のスライムを狩った所で、足しにもならない経験値しか入らないじゃないか。それに僕もお前も、スライム狩りのクエストを受けていないのだから無用の殺生は避けるべきだ」


 スライム狩りは、剣を学ぶものが必ず受ける初心者用依頼で、ほぼ子供用のクエストとなる。ガイネもブラッチェもそのクエストを学園に入る前に受けていた。


 スライムはこの大陸のどこにでもいるプヨプヨとした魔物の一種だ。普段はその辺に居ても害にもならないのだが、ひとたび畑に入り込むと害獣になってしまう。


 というのも、スライムは草食が中心の雑食性なのだが、野生でいればそんなに増えないものの、栄養分たっぷりの野菜を食べるとでっぷり太ったうえに、一気に増殖する。増殖すればまたそれが野菜を食べて増える。一匹二匹ならとまあいいかと油断していると、ある朝来てみたら大群になっていてすでに野菜を食い荒らされていた、などという事が起きてしまう。しかも数が少なければ簡単に退治もできるが、多くなると厄介だ。少しでも無事な野菜を確保しないといけないのに、スライム退治に追われていたら、気が付けば多くのスライムに逃げられ、さらに野菜は全滅などという事になりかねない。

 そこで被害を受けた農家が冒険者協会にスライム退治の依頼をだす。そうすれば経験値を手に入れたい幼い剣士や駆け出し勇者が駆け付けてくれるというわけだ。


 ガイネとブラッチェも幼少期にその依頼を受けてスライム殲滅をしたことがある。その時に夢中になったガイネが周りに散り散りに逃げたスライムを追いかけて撲滅した。

 ガイネにはまったく悪意はなかった。ただ夢中になってスライムを追い回していただけなのだ。子供にはよくあることだ。だが付き添いで来ていた剣の師匠である、騎士隊の当時の隊長にいきなり頬を張り飛ばされたうえに、眼前に剣を突き付けられた。


「必要のない殺生はするな! スライムはただ生きているだけだ! ただそこに畑があり、作物に害をなすから討伐対象になっているだけで、スライムが悪いわけではない! お前がいま追いかけまわして殺したその貧弱なスライムは畑を荒らした固体か? 違うだろう。それは全く必要のない殺しだ! お前は必要のない殺生をしていいほどに偉い存在なのか? 国王の息子だろうとそんな権利はない! もしそう思い上がっているのなら、お前は将来、民に害なす存在とみなして、私がここで成敗してくれるわ!」


 恐怖でガタガタと震えながら、ガイネは泣いて騎士隊長にあやまり、それ以来、依頼のない魔物に刃を向けたことはない。


「それはわかるけれど、それはもう死にかけで、お前は少しでも経験値を稼がなくてはいけないんだぞ」

「いまさら経験値のカケラ1を手に入れたところでレベルはあがらないさ。……よし、治ったぞ。もう草原にでてくるなよ」


 先ほどまでぐったりとしていて、崩れたゼリーのようにぶよぶよで、形の崩れていたスライムが、あっという間にプヨンプヨンになって正面についている顔っぽいものもニッコニコになって、放たれたガイネの足元あたりをプヨンプヨンと飛び跳ねている。


「……お前、回復魔法のレベル、上がったな」

「どうかな。スライム相手にレベルも何もないだろう。さて遅くなる前に行くか」


 プヨンプヨンと嬉しそうに跳ねているスライムに手を振って、ガイネは歩き始めた。


「お前がのんびりしているんだろうが!」

「いてっ! そう何度も叩くなよ!」

「叩かれたくなかったら、さっさと歩け!」




 この国での魔物を狩ると、その種類と強さに応じて核が落ちる。これをカケラと呼んでいて、スライムなら1個を落とす。これを拾い集めて冒険者協会に持っていくと、その数を登録したカードを貰える。この数によってレベルを認定してもらえるのだ。


 ちなみにカケラ自体は、ある程度の個数や大きさが集まると、魔法協会に属する、錬金を得意とする魔術師たちによって、アミュレットなどの魔法力を蓄えられる石に作り替えることが出来る。

 冒険者協会が集めた欠片を魔法協会に売る事で、彼らは友好関係を保っているのだ。


 ついでに、錬金が出来れば魔術師ならだれでも石に帰られるが、手法が魔法協会の秘密になっているため、属さないと教えてもらえない。さらに魔法協会を通さないと安く買いたたかれるので、個人で使うだけならば作る魔導士もいるが、個人では商売にはできないようにできている。


 騎士になるにはレベルが最低でも40は無くてはいけない。剣士ならば20を超えていれば十分で、ほとんどの者は、剣士として護衛団などに所属して、仕事と同時に経験を積んで、騎士を目指すのだ。

 ブラッチェは学園の小学部に通いながら、暇さえあれば冒険者協会に出向いて依頼を受けて、小学部卒業時には20レベルまで上げていた。10歳程度でそのレベルに到達する者は殆どいない。それゆえその能力を見込まれて、レベルには達していないが、騎士団へのスカウトが来ていたのだ。


 ガイネも小学部時代には一緒になって依頼を受けていたので、そこそこに強い。ただブラッチェにスカウトが来てからは、ブラッチェは騎士団の任務に見習いとして同行させてもらってレベルを上げていたので確実に差は開いているし、それ以降のガイネのレベルに関してはブラッチェは把握していない。


 ガイネは剣もだが魔法も使える。

 この国には剣術に特化したブラッチェのような騎士もしくは剣士、魔法と剣の両方が使える魔法剣士、そして魔法のみの魔導士の三種類がいる。そしてガイネは魔法剣士に属している。


 魔法は、呪文を唱えることによって自分の気を集めて自然の持つ力に干渉し、その力を借りるというものになる。ブラッチェも初級の回復魔法と明かりの魔法、たき火の火をつける程度の火の魔法は使えるが、大きな魔法は使えなかった。

 それに比べてガイネは攻撃魔法も使えた。前述のスライムをボコって騎士団長に叱られてから、しばらくの間は回復魔法に熱中していた。その後もブラッチェと依頼をこなす際に、遠距離魔法でブラッチェの援護をする形で攻撃に参加するようになり、その腕を磨いていった。


 魔法も剣術も、基本的に何度も戦っていくことでその腕が上がる。カケラを集めるのは目に見える進捗状況というわけだ。レベルが上がっていけば討伐対象も強い魔物となり、落とすカケラの数も増えていく。そしてその買い取りで資金も集まるし、経験値という形で成果も手に入る。

 取得した技は訓練を重ねることで少ない力で発動し、さらに難しい技が使えるようになる。一石二鳥だ。


 騎士団の入団レベルも目安であって、必ずそのレベルに達していなければいけないという事でもない。何より一人二人では狩れる魔物も限定されており、騎士団や魔法師団のように隊を組まなければ戦えない魔物もいる。ブラッチェも高レベルの騎士団員と共に強い魔物の狩りに同行したのもあり、早くレベルを上げることが出来たのだ。


 一般的に勇者と言われる冒険者たちは、この国では騎士など国に雇われた者たちではなく、個人で活動している者たちを指す。そうはいってもソロでは活動範囲が狭くなるので、基本パーティと呼ばれる隊を組んで、協力してレベルを上げていく。


 しかしガイネのように一国の王子をパーティに加えてやろうという集団は、まずない。万が一にでも王子に怪我でも負わせたら大変な事になってしまうからだ。王国騎士団などが王子と組んでも良いが、それだと隊と王子のレベル差がありすぎる。それこそ高レベルの者がスライムを狩ってもうまみはないし、それすら狩れない王子にそのカケラを与えたのでは詐欺だ。何よりそのような特別扱いを国王が許さなかった。


 だからガイネは基本的にレベルが近くて唯一組んでくれるブラッチェと依頼を受けるか、ひとりで狩りに出るしかなかったし、国王からの命で、それで怪我をしても、命を落としても、文句は言わないという書類にサインまでさせられていた。

 その影響か、護衛の騎士はよほどのことが無ければガイネに手を貸さなかった。ただ致命傷を負わないように見張っているだけだった。


 ちなみに共同で魔物を倒した時の経験値の分け方はいろいろある。同レベル同士なら公平に分けるか、活躍度合いによって分ける。何もせずにただ見ていただけの者に等分に分けたのでは、活躍した方が怒るからだ。レベルの違うもの同士では事前に話し合って分ける。

 ガイネのように後方支援をメインとするものは、分けられるカケラが少ない傾向にある。皆、命を懸けて狩りをしているのだから。


 ついでに言えばガイネは優しかった。スライムをボコり過ぎたのは、子供だったからだ。熱中しすぎて周りが見えなくなっていた。だがそれで叱られてからは慎重になったし、生来の優しさで、必要のない狩りは一切しなかったし、今のように怪我をしている魔物がいれば回復魔法をかけた。

 そのせいで、狂暴な相手には治したとたんに攻撃されたこともあったけれど。


 余計な狩りをしない分、カケラは集まらず、経験も積めなかった。



 そろそろ日が傾き始めた。もう王都は見えない距離の森まで来ている。この辺には川も流れていたはずだ。今日はここで野宿にしようと、ブラッチェはガイネに提案し、街道を離れて森の中へと進んでいった。 


明けましておめでとうございます。今年ものんびりかいていこうとおもっております。どうぞよろしくお願いいたします。


寒くて指先がかじかんでキーボードが打てませんでした(笑)。指先の出る手袋を購入したのでこれで何とか頑張ってみたいと思います!

 次の更新は今週中には・・・!


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