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 窓から入る日の光でブラッチェは目を覚まし、同時に枕もとの時計を見ると三つ時半で、慌てて起き上がる。

こんなにゆっくり寝てしまうとは! いくら任務がないとはいえ、のんびり旅行ではないのだ。今日だって予定を立てていたのに!

 ベッドから飛び降りてブーツを履いて、姿見で寝ぐせなどないか確認する。ガイネと違って寝巻に着替えてはいないから、ちょっとよれてしまったシャツとズボンを引っ張って直し、水瓶の水を洗面器に入れて顔を洗う。ガイネならベッドのままで侍女に洗面器を持ってきてもらって顔を洗うのに慣れているが、ブラッチェではどうしても水をこぼす。というかベッドで洗おうというその神経が理解できない。

 

 そうして簡単に身なりを整えて、トイレに行くべく部屋を出ようとドアノブに触れて、はじかれた。

 同時にガイネが飛び起きる。


「……ブラッチェか、びっくりした……!」

「もしかして、防御結界か!? 宿なんだから要らないだろう!?」


 休むのがメインのはずなのに、何をしているのか、と思わず責めるような口調になってしまったが、しかたがないだろう。宿の中で風や防御などの結界を使うのは、密談をしているとか命を狙われているなどの余程の理由がある時だ。

 確かにガイネは元ではあるが皇太子で、狙われる可能性は高いが、普通なら護衛の魔導士が術をかけるので、皇太子自ら掛けるなどと言うことはまずはない。


「いつも掛けているから習慣になっているんだよ。いま解除したよ」


 それが異常なのだが、そのお陰で城での襲撃を防いでいたというし、まったくガイネという元皇太子は、予想もつかない動きをしてくれる。


 ため息をつきながらブラッチェがドアを開けると、廊下には3人の男がひっくり返って気絶していた。

 なんだこれはと呟いて目が点になったブラッチェの肩越しに、起きてきたガイネがそれを見て事も無げに言った。


「物盗りだろう。防御結界にはじかれたんだと思う」

「……お前、おれがさっき触った時は飛び起きたくせに、他には起きなかっただろうが!」

「結界の内側に触られたら起きるけれど、外側の結界なんて気にしないさ」


 なんだか不思議な言葉を聞いた気がする。防御結界に内側と外側があるなど、聞いた事がない。


「内側と外側の説明をしてもらおうか?」

「部屋の内部は普通の防御結界だよ。外側と言うのは、廊下側のドアノブに触れば発動する雷魔法を掛けてあるんだ」

「おいおいおい……。そんな使い方が出来るのか……」

「扉の外側全体に掛けておくと、物盗りだけじゃなくて、店員や他のお客が触る事だってあるだろう? それでいちいち夜中に起こされるのは面倒だから、ドアノブ指定で掛けているんだ。それならドアを掴まなければ発動しない。ドアを掴むと言う事は、物盗りにしろなんにしろ、僕たちに害をなそうという者だから、一撃必殺で撃退したい。でも物盗り程度を殺してはまずいから、気絶する程度の強さにしているんだ」

「……それならドアノブの電撃だけで良いんじゃないか?」

「相手が魔導士だったら解除されてしまうだろう? だから内側入られたら気が付くように、必要なんだよ」


 さらりとガイネは言ったが、そんな事を思いつくという事は、それだけ狙われたことがあったという事だろう。

 何という事だ、とブラッチェは頭を抱えた。

 その二重の防御はこういう宿に泊まった時用なのだろうが、必ず護衛は居たはずなのだ。


 国王命令で、ガイネには依頼を一人でこなさせるようにしているとは、聞いていた。だが必ず護衛は付いていたはずのだ。ただ宿などでは目立たないようにするために、一晩中部屋の外に護衛が立っているという事はないが、隣室で様子を伺っていたはずなのだ。

 

 それなのに自分で防御していたとは。


 護衛の意味!! とブラッチェは歯噛みした。これも報告しなくてはいけない。だがその前に。

 そんな事が出来るとはガイネの魔法は結構な高レベルなのではないだろうか。聞いてみても、ガイネはレベルなんて知らないと答えただけだったが。


「どうせただの物盗りだろう。被害もなかった事だしその辺に放っておけばいいさ。そのうちに目が覚めて勝手に逃げていくだろうから」

「それでいいのか? 警備兵に突き出したほうが良いんじゃないのか?」

「そりゃあそのほうが良いんだろうけれど、目立つし面倒くさい」

 

 本来、王族のいる部屋に入ろうとしただけでも不敬罪だが、今のガイネは色々と微妙な立場だ。しかもわざわざ『ガイネがこの街のこの宿にいる』と知らしめることなど出来るだけ避けたい。


 転がした賊どもを観察しても、訓練された者ではなく、ガイネの言う通りにただの物取りにしか見えない。

 配慮はしているのだが、それでも二人の服装や言動は庶民とは違うから、貴族の坊ちゃんたちが物見遊山にでも来たのだろうと狙われたのだろう。ため息をついてブラッチェはドアの外の男たちを蹴飛ばして廊下の端に追いやった。


 あくびをしながら起きだしてきたガイネは、ドアの外をチラリと見ただけで、ブラッチェが使い終わった水を使用済み用の瓶に流しいれて、新しく水を入れて顔を洗い始めた。


 ブラッチェは部屋を出てトイレに向かいながら思った。自分はついつい音にも気配にも気が付かずぐっすりと眠ってしまった。それはガイネの魔法のせいだったかもしれないが、ガイネは二日連続で防御魔法を一晩中掛けていて、しっかりと身を守っていた。

 それはいい。それは良いのだが。


 それでは俺が付いてきた意味、護衛の意味とは! と。

 

「俺、これでも騎士団の中でも、近衛としても優秀だと言われていたんだけどなあ……」


 背中に哀愁を漂わせながら、ブラッチェはよろよろとトイレに向かったのであった。




**


 気分も切り替えてブラッチェが用をすませて部屋に戻ると、着替え終わっていたガイネが、お前遅い! と入れ違いでトイレに駆けて行った。

 どうやらガイネも行きたかったようだが、部屋を空にするわけにはいかないと待っていたようだ。悪い事をしたなと苦笑した。ついでに盗人たちはまだ廊下で伸びていた。

 ブラッチェには早くない時間なのだが、この国では仕事が始まるのは早くても四つ時半で、余程急いで出かける旅人でなければ、まだのんびりしている時間帯だ。だから同じ階に泊まっている者たちもまだ起きだしてこないから、盗人たちもそのまま捨て置かれているのだろう。周りが起きだしてからが面白そうだと苦笑しながら、ドアを閉める。


 すぐに洗濯物を部屋に備え付けてあるかごに入れた。すでにガイネの分は入っている。先ほどまで着ていた寝巻まで入っている。朝いちばんの予約と言っていたが、何時の事だろう。洗濯は宿の者たちは関わらないから、四つ時よりも早いかもしれない。受付に聞きに行こうかと思ったが、盗人が廊下にいる状態で部屋をでる気にはなれず、なるほどだからガイネも待っていたのか、と思い当たった。


 ちなみに冒険者協会と魔法協会は4つ時には開く。これは利用するのが冒険者たちなのと、依頼内容によっては夜明けや夜更けのものがあり、その依頼で万一問題が起きた時に対処できるようにするためだ。

 もともと夜勤がいて、何かあった時はいつでも報告できるようにはなっているが。


 予定からすると、洗濯をして朝食を取る。それからブラッチェは買い物に、ガイネは協会に出かければちょうど良い時間だろう。そして用事が済み次第、この街を出る。


 とにかく王都から離れたい。ガイネの事は遅かれ早かれ国中に広まるはずだ。王都に近ければ近いほど、ガイネの顔も知られている。今のところ『まさかこんなところに旅装束の王太子がいるはずがない』という思い込みで、ガイネだとばれていないが、話が伝われば別だ。色々な意味でガイネに人が群がってくるのは想像に難くない。

 だからその前に早く南下してしまいたい。王都から離れればガイネの顔を知る者も少なくなる。

 そのうちに少しずつ変装ではないが、服装なども今の新品同様のものからヨレたものになり、肌と髪がつやつやモチモチな状態から、野宿が中心になればカサカサぼさぼさになるだろう。そうすれば、髪型を少し変えただけでもガイネとは思われないに違いない。

 

 それに王都から離れれば離れるほど、強い魔物も住んでいる。それぞれの領主が頑張ってくれているから、それらは人里と街道からは離れた場所に隔離されている。それらを倒す依頼があれば、ガイネのレベルも上がりやすくなる。


 ブラッチェとしてはまずは東西部分を目指そうと思っている。そこは国のちょうど中央の左右にあたる場所柄から、王国全土の情報が集まりやすく、上記の通り、レベル上げにも適している。

 ガイネが南の国を目指すというのなら、そこで準備をして、きちんと情報を手に入れてからの方が良い。

 

 それにそこなら高レベルの冒険者たちも集まっている。ガイネの仲間になってくれる冒険者がいるかもしれない。


 ガイネの魔法とブラッチェの剣技でも狩りは出来るが、パーティを組むことが出来れば、もっと効率よくレベル上げも出来る。今まで限られた人としか付き合ってこなかったガイネが見分を広めるにもよい機会になるだろう。

 そうして、ガイネが言った通りに南の国に乗り込むとしても、仲間を増やせれば。


 ガイネと共にもう一度王都に、城に戻る。それがブラッチェの役目でもあるのだから。


「それにしてもガイネ、遅いな……」


 てきぱきと部屋を片付けているうちにほぼやることもなくなってしまったのに、まだガイネは帰ってこない。


「野宿だとトイレ問題がなあ。慣れれば問題ないのだけど。ガイネにはキツイかなあ」


 小用は男の場合は木陰でも済ませられるが、大きい方はなかなか難しい。ブラッチェも遠征で慣れたとはいえ、出来ればしたくない。王族のガイネならなおさらだろう。

今頃昨日の分まで頑張っているのだろうか、と下世話な想像をして、ブラッチェは笑い転げた。

ラストちょっと下世話な話になってしまってごめんなさい(汗

さくさく話が進む予定が、ブラッチェさんのせいで停滞していますw 


個人的には、そろそろ3週間、休みが無いんですが。いやメインの仕事の休みの日にダブルワークどころかあれこれやっているだけなんですが。まとまった時間が取りにくくて。土曜にようやくいったん落ち着くので、来週にはもう少し進められると思います。

しかもこれから確定申告の準備ですわーー! 

そのため、多少更新ペースは遅れます。

次話見かけた際には、よろしくお願いいたします。

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