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第62話 火蓋は切られた


「王国軍の先行部隊を発見したス。数は三千ってところス」


 二日間の偵察行から戻ったメグたち斥候隊が、知り得た情報を巨大な軍用地図に書き込んでいく。

 これをもとにして、俺たちライオネル隊の行動指針が決まるわけだ。


「だいたい予想通りだな。王国軍の指揮官は正統的で堅実な用兵をする為人のようだ」


 下顎に右手を当てて呟く。

 三千という数が憎たらしいね。


 少数の兵で奇襲をかけられる兵数じゃない。かといって、対応できる数で動けば当然のように察知される。

 普通に考えたら、こっちも三千から五千の兵力を押し出して正面から戦いを挑むって選択になるだろう。


 というのも、緒戦だからね。

 勝って士気を上げたいんだ。これはどっちの陣営でも同じだけど。


 必勝を期すなら、カイトス将軍が指揮するガイリア軍の本隊一万をぶつけるのが一番いい。


「ただ、いきなりカイトス将軍の本隊っていうカードを切ってしまうのはどうなんでしょう?」


 こてんとミリアリアが小首をかしげる。


 そう。

 そこが問題なのだ。


 いきなり本隊を出すってことは、兵力に余裕がないって事実を敵に知らせることになる。

 もちろん敵は知ってはいるだろうけど、確信を持たせてしまうんだ。


 で、確信を持っちゃったら王国政府はなにをするかっていうと、徹底的な消耗戦ね。


 諸侯の軍をぶつけて、ひたすら損耗を強いる。

 ガイリアの戦力も諸侯の戦力も削れてしまうという素敵な策だ。


 いい加減に疲れたところで王国軍本隊が押し出して、またまた削り合い。

 この段階くらいまで進んでしまうと、ガイリア側にほとんど兵力は残ってないんじゃないかな。


 そして街は王国軍に蹂躙されてしまう。

 こういう事態は、ぜひ避けたいところだ。


「なので、その三千は俺たちで食ってしまおう」


 にやっと、俺は笑って見せた。

 聞いていたアスカが、パチンと拳を手のひらをぶつけた。

 先制攻撃が大好きですからね。あなたは。


「三倍の敵と戦うことになる。本当はこんな策は邪道なんだってことを踏まえた上で、みんな聞いてくれ」


 ライオネル隊千名を束ねる幹部たちを集める。

 ナザル、ジョシュア、ニコル、サリエリという、四人の中隊長だ。

 それぞれ二百名の兵を率いる。


 俺の手元には二百名。貴重な魔法戦力はここに集められており、ミリアリアやメイシャをはじめとした七十一名だ。

 これを守るのがアスカ分隊の百名。護衛といっても、ここぞというときの斬り込み隊を兼ねている。


 残りはメグのような斥候たちだ。

 俺の飛耳長目となって戦場の情報を集めるという、特に重要な役割を担ってもらうことなる。


 本当は、アスカにも中隊を率いてもらいたかったけど、まだまだ経験不足だから、今回は俺の指示を至近で受け取れる場所に配置した。


「邪道ねぇ」

「なんでにやついているんだ? ニコル」

「その邪道を極めてみせるのがネル副団……いや、ネル隊長なんだよなって思っただけですよ。他意はありません」

「不思議だ。他意しか感じられない」


 くだらないやりとりを交えながら、作戦を説明していく。






 三千名というのは一口でいって大軍だ。

 これより人口の少ない村なんていくらでもある。


 で、これだけの数になると複雑な行軍なんてできないから、普通に街道を使って進むしかない。

 あと、宿場町に入りきれないので、宿に泊まるのは幹部だけ。

 一般の兵士たちは天幕での宿泊になる。


 だから、兵士と幹部の連絡が円滑に取り得ない場合が往々にしてあるのだ。


 もちろんそのためにサブリーダー職があるのだが、どうしても上官の指示を仰ぎたがってしまうのは、人間だから仕方がない。

 自分の判断で動くってのは、こわいからね。


 で、その日の夜襲は、まさに幹部不在の間隙を突かれたものだったわけさ。

 なにしろ夕食のときに供された酒で、どういうわけか幹部がみんな深酒してしまって、とても指揮どころじゃなくなってしまったからね。


 東西南北四方向から、同時におこなわれた攻撃によって、王国軍はパニックに陥る。

 しかも、「包囲されている!」とか、「敵は一万以上いる!」とか、「隊長が討ち取られた!」とか、適当なことを叫ぶ奴らがいるもんだから、混乱に拍車がかかるばかりだった。


 本当は、四方向に二百ずつの兵がいるだけなんだけどね。


 混乱の中、幹部を呼びに行った伝令は帰ってこないし、最前線はどう動くべきか指示がないまま、次々に暗闇から飛来する矢に射抜かれて息絶えていく。

 そして、ついにガイリア軍が突入してきたとき、まともに防御戦を展開できる部隊は存在しなかった。


 まずは西からニコル中隊が、東からはジョシュア中隊が同時に突入して散々に王国軍を蹂躙した後、反対方向に抜ける。

 そのタイミングを見計らい、今度は北からにナザル中隊が、南からサリエリ中隊が突撃を敢行する。


 で、こいつらが反対側に抜けたら、今度は西からジョシュア中隊、東からニコル中隊が突入するのだ。


 これを繰り返すことで、王国軍に俺たちの数を誤断させる。

 あたかも大兵力に包囲されて、なぶられているようにね。


 夜だから使えるトリックさ。

 昼間だったら、同じ部隊が何回も攻めてきてるってバレてしまうから。


 ともあれ、半刻(一時間)弱の戦闘で、王国軍は三割ほどの兵力とほとんどの糧食を失ってしまった。


 しかも夜が明けたときには、宿場町の人は一人も残っておらず、攻め込んできたガイリア軍の死体すら、一つもなかったっておまけ付き。


 ちょっとした怪談だろ?


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― 新着の感想 ―
[良い点] ちっともちょっとしてない怪談であるw [一言] ここまで鮮やかだと本当は宿場町の住人なんて最初から居なかったのでは…?とかもっと怖い話になりえますなw
[気になる点] 何故ガイリア側が野戦をしようとするのでしょうか? 主力は城塞、あるいは適した地形に野戦陣地を設け防衛戦に徹し、ママさん部隊は遊撃戦を展開していれば充分かと。 城攻めは守備側の3倍の戦力…
[一言] 多分ですけど タイトルの「火蓋」は切られるものです 切って落とされるのは幕 わざとかもしれませんが
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