第16話 工作開始
フォリスタの街に奇妙な噂が流れ始めた。
曰く、住民への支援をおこなっていたインゴルスタ王国とスペンシル王国が手を引く、と。
この噂に鼻白んだのは、もちろんの当事者であるフォリスタの住人たちである。
「支援は偽善だの人気取りだのいってたくせに、今度は非人道的だとか騒いでるス。勝手なもんスよ」
そう言ってメグが鼻で笑った。
フォリスタの街の一角。根拠地として借りている一軒家である。
ガイリアの名前も『希望』の名前もいっさい出ていない。すべてランブル商会の手配だ。
俺たちはここに陣取り、メグ配下の密偵兵たちに様々に指示を出している。
最初は顔を出さない方が良いかなって思ってたんだけど、意外と単身やツーマンセルくらいだと『希望』だって気づかれない。
まあ、武勇伝は知れわたっていても、顔なんて絵入り新聞くらいでしか知らないだろうからね。
あれはもう、実物より六割くらい格好いいから。
協力者がいるというのも大きいね。
前にお世話になったサイリウス司祭さまだ。
情報の提供や、有力者へのパイプ役として、なにくれとなく助けてくれている。
「騒いでいるだけか? メグ」
「日ごとに立場が悪くなってるスね。どんどん孤立しているス」
「よしよし。順調だな」
国でも組織でも良いけど、大きいところがなにかをやろうとすると必ず反対する人がいる。
そういう存在そのものは必要なんだけどね。みんなが心を一つにして目標に進むって構図は美しいけど、間違うときは全員で間違ってしまうから。
俺だって、会議のときにはつ常に別案を一つ二つは考えて考えてる。
とはいえ、慎重論を唱える人って孤立しがちなんだよ。
だってトップがAって言ったら、必ずBの方が良いんじゃないかって主張するんだよ? うざいでしょ?
だから、使う方にも度量と識見が要求される。
「で、いまのフォリスタの民に度量や識見があるのかって話だな」
「悪辣スね。相変わらずネルダンさんは。オレたちの子供が悪辣に育たないか、いまから心配スよ」
「そこは良い子に育つよう、メグが頑張ってくれ」
にっと笑ってやると、すぐに真っ赤になる。
偽悪的にきわどいネタを使っても、じつはかなりウブなのだということを、結婚してから知った。
ともあれ、フォリスタは他国の支援がなければ立ち行かない。
手を引かれたら数日のうちに飢餓が発生してしまう。
これは住民のほとんどが知っていることだろう。認めたくないというだけでね。
で、本当に手を引くらしいって噂が流れ出した。
「誰のせいだと思う?」
「文句ばっかり言ってた奴のせいだって、わたくしなら思いますわね」
サイリウス司祭さまの手伝いを終えたメイシャが司令室代わりの居間に入ってきた。
「ホントは、そいつらのせいだって噂も流そうとしたんスけどね。邪悪なネルダンさんに止められたス」
「そうなんですの?」
「噂はきっかけでいいんだ。ディテールを凝りすぎると、かえって細工臭さが目立ってしまうからな」
この際は、インゴルスタとスペンシルが手を引くってだけで、充分に恐怖をあおれるからね。
誰のせいだ、なんて犯人捜しは自分たちで勝手にやれば良い。
「母ちゃん大変! 囲まれてボコられてる人いる!」
翌日のことだ。
偵察に出ていたアスカが駆け戻ってきた。
彼女の性格を考えれば、弱い者いじめだと判断して無条件で助けに入っても不思議ではない。
そうならなかったのは、ボコられているとかいう人に正義を見いだせなくて、判断できなかったんだろう。
「わかった。メグはランブルさんに頃合い良しと連絡してくれ。アスカとミリアリアは俺と一緒に場を収めに行くぞ」
矢継ぎ早に指示を出す。
ただ、『七宝聖剣』や『フェンリルの杖』は置いていく。さすがに有名すぎる武器だからね。一発でバレちゃう。
「わたくしは?」
「怪我人が出たらサイリウスさまのところに運ぶから、その手伝いを頼む」
「わかりましたわ」
ちょっとだけ不満そうなメイシャだ。
けどね、あなた目立ちすぎるのよ。
絶世の美女だってのにプラスして、悩殺わがままボディだもの。
道行く男の十人に十人は振り返るんだから、すぐに聖女メイシャだってバレてしまう。
「歩きながら説明してくれ、どんな様子だった? アスカ」
「陰謀だとか兵糧攻めだとかわめいていたんだよね。でも町の人たちがすごい怒ってた」
アスカの説明はいつも通り要領を得ないが、だいたいは予想通りだ。
ようするに住民たちは嫌気がさしたのである。
声ばかり大きな反体制論者に。
明日食べるものがないかもって状況で、大国のやり方が云々なんて話、誰も聞く耳を持たない。
援助してくださってるインゴルスタとスペンシルを、お前らが追い払ったんだろう。子供が腹減らして泣いてるんだ。どうしてくれるんだよ。
と、戯画化すればこんな感じになる。
「くださってる、ですか? 母さん」
「気づいたな、ミリアリア。援助はありがたいことなんだって再認識させるのが、この情報戦の胆なんだ」
笑った俺に、小柄な大魔法使いさまも薄い笑みを浮かべた。
「では、陰謀だと叫んでいる人たちは、正鵠を射ていますね」
その通り、こいつは陰謀さ。
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