第15話 その餅の、なんと美味そうなことか
侵略者が親切顔で支援かよ。そもそもお前らが攻めてこなかったら、俺たちはこんな苦労してないんだよ。
というのがフォリスタの民の心情だ。
前半部分が完全に間違っているが、それを是正したところで意味がない。王都としての機能を失い、立ち寄る商人も激減し、日々の食べ物すら支援物資に頼らないといけないという現実は、まったく動かないから。
苦しさの原因がわかったところで、解決策がなければ民の恨みの矛先はインゴルスタとスペンシルに向いたままだ。
なので、別口に救い主を用意する。
利に聡い商人、というね。
「侵略してきた国が人気取りのためにやっている偽善、というイメージを払拭するわけです。うまみがあるから商売人が動いているんだ、と」
「しかしライオネルさま。フォリスタに物資を持ち込んだとして、現実的なうまみがありますか?」
ランブルが右手を下顎に当てる。
小麦色の髪と瞳には判断保留の色が濃い。
『希望』がもってきた話だからと簡単に飛びつかない慎重さが好ましいね。
「うまみなんかないですよ。そんなものがあるなら、とうの昔に他の商人が動いています」
現時点で、フォリスタに未来なんかない。
人口は減り続けて、いずれ小都市レベルまでスケールダウンするだろう。
だから目端の利く人はとっくに家財一式を抱えて移住している。残っているのは引っ越す金もないか、土着の気風が強いか、そういう人たちだ。
「なので、未来を作ります」
「は?」
「秘密裏にインゴルスタ、スペンシル、ガイリアの三ヶ国がバックアップします。資金は常識の範囲で使い放題です」
潤沢な資金を背景にフォリスタに商業圏を築く。
土地は余るほどあり、空き家となった建物もたくさんあり、失業者という名の労働力も一山いくらで売れるほどある。
さらに、かつて王都だったのだから各地との交易路だって確保されているのだ。
「たとえばスペンシルとインゴルスタを結ぶ交易都市。こんな構想はどうですかね」
「……絵に描いた餅だ……」
両手で顔を覆うランブル。
話がでかくなりすぎて、なかなか整理できないのだろう。
「……しかし、その餅のなんと美味そうなことか」
ぱしんと両手で頬を叩く。
覚悟を決めた目だ。
荒廃し、見捨てられ、忘れ去られていくだけのフォリスタを一大交易都市として蘇らせる大プロジェクト。
たぶんさほど野心的な人物ではないランブルでも、この大いくさには武者震いするだろう。
その中心地に立てるのだから。
「北部地方を束ねてついた天下餅、食ってみたくないかい?」
表面上はひとつの商会の動きでしかないが、三ヶ国が密かにバックアップする。すなわち、無限ともいえる初期投資の資金があるのだ。
スタートラインが他の商会とまったく違う。
「失敗したら、私は自分の商才のなさを嘆いて首をくくりますよ」
「情報面でも、たぶんバックアップできる。修行がてらうちの密偵兵たちに情報工作をやらせてみよう」
ちらっとメグを見れば、力強い頷きが返ってきた。
商売でも軍略でもそうだけど、胆になるのは情報なんだ。
情報はとくに命より重くて、だからこそ命がけで奪い合われる。
そして奪った情報が本当とも限らない。
だから、ランブル商会が、いかに人道的で、義侠心があるのかを宣伝しまくる。それだけならべつに諜報機関なんて必要ない。
さじ加減が大切で、いい情報と悪い情報のブレンドによって世論を操作するのである。
「ガイリア軍情報部にとっては、試金石になる訓練だな」
「盗賊にとっては日常スけどね」
シニカルな笑みを浮かべるメグ。
脅したり鼻薬を嗅がせたりは盗賊たちのお家芸といって良い。
こいつらの仕事って盗みだけじゃなく騙しも含まれるから。
言葉巧みに善良な人々を騙して金品をかすめ取る、なんてことも日常茶飯事だ。
で、そういうテクニックを悪事ではなくて世のため人のために使わせようってことで立ち上げたのがガイリア軍情報部だ。
盗賊ギルドからまわしてもらった人材は、もちろん腕利きもいるけど半人前の子供ばかり。
ナッシュのやつが、盗賊稼業に染まる前にって感じで融通してくれたんだ。
「ライオネルさま、どのような情報を流すおつもりですか?」
「嘘はバレたときのダメージが大きいからですからね。嘘ではないが事実のすべてではない、というあたりが理想でしょう」
にっと笑う。
たとえば、闘神アスカ、大賢者ミリアリア、聖女メイシャの三人を育てたのはメアリー夫人である。
三人の才能を見抜いた彼女が育て上げ、旅立ちに際して『希望』の名を贈った。
もしメアリー夫人がいなければ、三人の英雄はそもそもライオネルと出会っていない。
「そしてなんと、そのメアリー夫人の実の娘がランブル商会の女将であるシーリス。メアリー夫人が娘を託すに足りる男だと見込んだのが商会長のランブル」
「いやいや、私、アスカちゃんたちと面識なかったじゃないですか」
呆れたようにシーリスが反論する。
北部事変のときに初めて知遇を得た。
それまでは、せいぜい手紙に書いてあった程度だろう。
「だから、面識があったなんて一言もいってませんね。実子と養い子たちがともに育ったと誤解するのは、聞いた人の勝手というものです」
これが、嘘ではないが事実のすべてではないという話。
まるでランブル商会が『希望』に知己であるように、志を同じくするように見せる。
でも、そんなこと一言もいっていない。
誤解するのは自由だけどね。
「軍師の口車か……」
「人聞きが悪いですね、ランブルさん」
にい、と、俺は笑みを浮かべた。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




