第13話 『希望』の流儀
「支援なんてしないで、ほっときゃいいんスよ。で、飢えてにっちもさっちもいかなくなったら、相手から勝手にすり寄ってくるス」
ドライなことをいうメグである。
文句が出るのは、まだ余裕があるからだと。
本当に生きるか死ぬかまで追い詰められたら、侵略者の尻だって靴だって舐める。盗賊ギルドに拾われた子供たちは、そうやって上への忠誠心を刻みつけられるのだそうだ。
「メグのいうことは真理だ。人間、飢えてしまえば多少の政治的な自由なんてどうでも良くなる」
だけど、そいつは俺の流儀じゃない。
温王ピリムだって、愛すべき頑固じじいことスペンシル王クリストフだって同じだろう。
憎まれようが疎まれようが、いま困窮している人々に手を差し伸べることを是としている。
ましてグリンウッドの地はガイリアよりずっと北だ。
冬には雪が一間(約二メートル弱)も積もるんだってさ。そんな地域に食べ物もない住むところもないなんて状態でいたら、一晩で死んでしまう。
それも体力のない子供たちからね。
「ネルダンさんは優しいスね。あなたがあと十年早く王様になっていたら、ガイリアのスラムでも死ななかった子供たちがたくさんいたと思うス。それがちょっと悔しいスね」
「十年前だと俺はまだ十五じゃねえか。ただのガキだよ」
寂しげに笑うメグの髪を、冗談めかして撫でてやる。
彼女は俺たちみたいな孤児院育ちより、さらに悪い環境で育った。
改善していこうといま鋭意努力中だが、すでに死んでしまった子供たちを生き返らせることはできない。虚心ではいられないのだろう。
「俺たちの努力で、死んでいく子供が一人でも二人でも減らせるなら、努力しないって選択は存在しないさ」
「そういうと思ったス。情報工作が必要なら、オレの部隊が役に立つスよ」
にやっと笑う。
え?
部隊って?
「盗賊ギルドあがりの密偵兵を十人連れてきてるんスよ」
「マジで!?」
ジークフリート号に乗ってたの? まったく気づかなかったよ。
「気配を消しての要人警護。さすがにアスカの気配読みはごまかせなかったスけどね」
「メグが母ちゃんを守るためにっていってた!」
えっへんと胸を張るアスカ。
そうか……アスカが感じられる気配を、俺は感じられなかったか。そこまで差が付いてしまったんだなぁ。
嬉しいような寂しいような。
そして、やっぱり盗賊ギルドあがりはすごいな。
同じフロートトレイン乗っていたのに、まったく判らなかった。たぶん最後尾の車両とかなんだろうけど。
まず密偵兵たちにはフォリスタの内側を探ってもらうとして、俺たちはスペンシル王に面会することにした。
クリストフにも話を通して、彼からも報酬をふんだくらないとね。
「でましたわね、ネルママの偽悪趣味。素直に愛すべき頑固じじいさまに会いたいっていえばよろしいのに」
「仕方ないよメイ! そこが母ちゃんの良いところ!」
「お前ら、陰口は本人がいないところでしろ」
わいのわいのと騒ぎながらジークフリート号に乗り込む。
こいつがあるから長距離移動がまったく苦にならない。いろんな作戦の胆がこいつだったりする。
紛れもなく『希望』のメンバーだ。
「前にスペンシルいったときは、メアリーさんも一緒だったよね。母ちゃん」
懐かしそうにアスカが目を細める。
そうだったな。
初めてのスペンシル行は、メアリー夫人の娘や孫に会うため……。
ん?
たしか娘婿って商人じゃなかったか?
民間人の協力を得られれば、国が表に出ないやり方があるんじゃない?
んんー?
もしかしたら、良い感じの手があるかもしれないぞ。
「母さんが加速度的に悪い顔になっていってます。なにか思いついたんですね」
「悪い顔いうな。発進」
スペンシル王国、王都スペンシルへ。
「国の名前と王都の名前が一緒って、なんか不思議な感じだよね。母ちゃん」
操縦席からアスカがとりとめない話をした。
不思議か?
ガイリアだって、王都はガイリアシティだけど。
「ロスカンドロス陛下にしても、クリストフ陛下にしても、名より実を重んじるタイプだからね。奇をてらった名前とかはつける気がなかったんじゃないかな」
「わたくしでしたら、すべての町においしそうな名前をつけますのに」
俺の感想にかぶせて、メイシャがひどいことを言った。
ガイリア王国の王都リブロースステーキ、とかになるじゃん。それだと。
交易都市クリームシチューとか、嫌すぎるでしょ。
「うん。メイシャが命名権を持ってなくて良かった」
「なんとなくですが、名前を考えるのが面倒なだけって気もしますけどね。クリストフさまはとくに」
くすくすミリアリアが笑い、メグが大きく頷いた。
たしかに、あの愛すべき頑固じじいが、リーサンサンとか、マルスコイとか、しゃれた名前をつけるわけがない。
建国したとて実態が変わるわけではない、これまで通りの名前でよかろう。くらいの感じだったんじゃないかな。
なんとなく、喋ってるシーンまで想像できて笑ってしまうね。
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