第12話 無茶ぶりクイーン
「フォリスタとその周辺の治安が、ひどいことになっているのです」
「まあ、そうでしょうね」
国の崩壊は前に経験したことがある。
リントライト王国が滅びた後、王都ガラングランはひどい状態になった。グリンウッドの王都だって似たような状態になってもおかしくない。
いや、むしろもっとひどいことになるかな。
ガラングランの場合は『大夜逃げ作戦』を契機に移住した人も多かったから。
ともあれ、国が滅びるとき、とばっちりは最も弱い人々にいくものだ。
王都みたいな国の中枢部でまま起きる現象である。
地方都市みたいなところだと、王様が変わったとか国が滅んだとかあんまり気にしないっていうか、むしろ知らなかったなんてケースも少なくないんだけどね。
「愛すべき頑固じじいどのも、もちろんわたくしも援助を惜しむつもりはないのですが……」
フォリスタの民からはあまり歓迎されないのだという。
というのも、インゴルスタとスペンシルによって祖国が滅ぼされたと思ってるから。
「侵略者が親切顔で手を差し伸べてくれるってか? ありがたいお話でございますね」
と、戯画化するとこういう感情になってしまうわけだ。
どこからどう考えても、悪いのはグリンウッド王国上層部だったあの戦争だけど、庶民はそんなこと知るよしもないからね。
インゴルスタとスペンシルの連合軍がグリンウッドを破り、王城を破壊して国王を殺し、国土を分割統治したという解釈になってしまう。
救恤活動のために両国の部隊が入っても、まあ歓迎されないよね。
そりゃあ現実問題として生活には困ってるだろうから支援物資は受け取るだろうけど、そこに感謝なんかない。
だって、こいつらのせいでこうなったんだって思ってるんだもの。
で、そういう態度を取られたら兵士たちだって面白くないさ。彼らはグリンウッド王国が鬼畜の所業をしたって知ってるから。
「難しい問題ですね。でも、なんでそこに俺が絡んでくるんです?」
ガイリア王国の名前で支援をおこなうってのは、さすがに短絡的だ。
フォリスタの民にとっての敵がふたつからみっつになるだけだろう。
「ですからガイリアではなく、お母さんに頼んでるのですよ」
にっこにこのピリムだ。
こいつひょっとして……。
「頼むといわれても何をどうすればいいのか」
「そこは天下の名軍師さまなら、なんとかしてくれると確信してます」
やっぱり!
無茶ぶりプラス丸投げのスーパコンビアタックだ!
「で、押し切られてしまったんですか? 相変わらずお人好しですね、母さんは」
苦笑しながらミリアリアがお茶を入れてくれた。
『氷華宮』の広大な敷地の中にある迎賓館。それが俺たちの宿泊場所である。
サロンがあり、一人一人に部屋が割り当てられた。
冒険者時代だったら、余計なことをって思っただろうね。何かあったとき、合流っていう一手間が増えてしまうから。
国賓なんで一人一人に世話係がつくという話だったが、これは娘たちが断った。俺の世話はみんなでしてくれるんだってさ。
「むしろ、私は母さんと同室でも良かったんですよ? ベッドはシングルで」
「狭すぎるでしょうが」
「愛を確かめ合った後、くっついて寝れば良いんですよ」
「ナニヲ、イッテルンダ、オマエハ」
思わず変な口調で返しちゃった。
旅先の、しかも友好国の迎賓館で、営みなんてできるわけない。
ミリアリアは賢い娘だけど、ごくたまにとんでもない発言をするよね。
普段から暴走してるアスカや、飯と下ネタが主な話題なメイシャとはなら、アホかで流せるんだけど、ミリアリアが突然壊れると、お母さん心配しちゃいますよ。
「冗談はともかくとして、どうするつもりなんですか?」
「思案中だ」
一口飲んだ紅茶のカップをソーサーに置き、俺は腕を組んだ。
結局、フォリスタの民の心を掌握をしないとどうにもならない。ガラングランの場合はグラッドストンっていう求心力のある指導者がいたから、彼を中心に再出発することができた。
しかしフォリスタにそういう人物はいない。
ただ侵略者に対する憎悪があるだけだ。
「スペンシルとインゴルスタは侵攻してきたわけじゃないって、民たちに教えればいいんじゃないですか?」
「ミリアリアは賢いから物事を順序立てて考えられるし、簡略化して要点を把握することもできるけどな」
ふふっと笑う。
多くの民衆はそうじゃない。
だから扇動能力の高い工作員を敵国に派遣して、世論を操ってしまうと軍略も存在するんだ。
あいつが悪だ! って大声で主張されると、それに乗っかって騒ぐ人間の多いこと多いこと。
「たぶんっていうか疑いなく、グリンウッドの上層部はスペンシルが悪であるって政治宣伝を民衆に浸透させただろうしね」
だから攻め滅ぼさなくてはならない、と。
戦争を仕掛けるときの常套手段だといっていいだろう。
「民衆にとっては、その悪の国家が正義のグリンウッド軍を負かして王都まで攻め上り、王様と王族を皆殺しにしたってことですか」
うへぇ、という顔をするミリアリア。
この認識をひっくり返すことの難しさに思いをいたしたのだろう。
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