第11話 首脳会談
「ガイリア王ライオネル陛下、お久しぶりですね」
「ご無沙汰していました。インゴルスタ女王ピリム陛下」
玉座の間。
絵入り新聞の記者たちの前で抱擁し合う。
まあこれは政治パフォーマンスだ。
両国が仲良しだよってアピールするためのものね。
実際のところは、距離が離れすぎているため利害関係がほとんどないんだ。だからこそ友好国たりえるって言い方もできるけどね。
国境線を接していると、つねに幾ばくかの摩擦はあるものだ。
河とかが境界線になることが多いけど、こっち側では魚があんまり捕れなかったのに向こう側は大漁だったとか、こんなことくらいで戦争が始まったりする。
ガイリアとインゴルスタの場合は、スペンシル王国や新生ガラングラン、他にも都市国家がいくつも間に挟まってるからね。
直接交戦って話にはなりようがない。
距離ってのはそのまま防壁なんだ。
ケイの世界では『遠交近攻』という計略なんだってさ。世界が変わっても似たような軍略があるのが面白いよね。
「ガイリア王国とは、今後とも良き友でありたいと思っております」
「もちろん私もです。ピリム陛下」
記者たちに見えるように握手してみせる。
アピールが大事だからね。
会談が始まるまでぼけーっと窓の外を見ていたり、本を読んでいたりしたら、まあまあ悪く書かれるんだ。
会談の席上だけ真面目にやれば良いってもんじゃない。
だからガイリアの人間もインゴルスタの人間も会談が始まるまでの時間を使った、思い思いに談笑している。
うちの娘たちとニーニャ、リリエンはもともとも仲が良いけど、辣腕マイオールも、なかなか味わい深い人物だった。
「上司、同僚、とても個性的で魅力的な女性ばかりで、大変にやりがいのある仕事ですよ」
と、遠い目をして語っていたのが、ちょっと哀愁を誘うね。
苦労してるんだね。
種族を超えた同族意識を持っちゃうよ。
そして俺たちは別室に移動して、首脳会談がはじまる。ここからは非公開だ。結果についてはスポークスマンから記者たちに説明がある。
「大使館を置きませんか? ライオネル」
「それは良いですね。つぎアレクが逃げてきても、大使館に押しつけられる」
女王ピリムの提案に、俺は冗談めかして同意した。
互いの国に出先機関を置くことで意思疎通がしやすくなる。
ガイリアとインゴルスタの間に、とくに主立った交易や通商はないんだけど、将来は生まれるかもしれないしね。
「ライオネルには助けられてばかりです。もしガイリアに危急のことがあれば、インゴルスタの全力をもって援助しますよ」
「そういう事態にはならない方が良いですけど、全力とは大きく出ましたね」
国王が全力と言った以上、それは辞書的な意味での全力だ。
できる範囲で、とか、無理のないように、ではないのである。
縁起の悪いたとえになってしまうけど、もしガイリアで飢饉が発生したなんて場合には、国民に重税を強いてでも食料を届けますよってこと。
戦争があったときには、自国の防衛よりも優先して援軍を出しますよってこと。
無茶苦茶な話だからこそ、危急のことあればって前置きをするんだけどね。
「グリンウッドに併合される寸前までいっていたのですから。それを救ってもらった恩は、国を傾けてでも返さないと筋が通りません」
「でも全力は重いんで、半力くらいにしておいてください。ピリムさま。俺たちも、何かあったときは半力をあげてインゴルスタを助けますんで」
右手を握り合う。
利害が絡まない相手だけに、しっかりとした友情が結べるだろう。
アレクサンドラはマスルの魔王イングラルとも面識があるし、悪魔たちから世界を守るための四ヶ国同盟にインゴルスタが加入しても良いかもしれないね。
喜んで口添えさせてもらうよ。
「それで、大使なのですが、ロクシタンがぜひ自分を推挙してくれといってまして」
「あの御仁ですか」
思わず笑みがこぼれてしまう。
ピリム救出のためにグリンウッドの王都に潜入した俺たちに接触してきた人物だ。
彼は俺たちの実力を一目で見抜き、救出の依頼をかけようとしたのである。
じつは俺たちこそが救出に動いている『希望』だと知って、天を仰いで至高神に感謝していたっけな。
「あなたたちのことをいたく気に入ったようでしてね。あんな気持ちの良い連中の国で、残りの官僚人生を送るのも悪くない、と」
「ガイリアにだって、良い奴もいれば悪い奴もいる。現実の国ですよ」
理想郷ではない。
矛盾も不公正も、一山いくらで売れるくらいある。
俺の代に、ひとつでもふたつでも修正できたら良いなぁって感じだ。
最低限、捨て子は犯罪であると周知徹底したいよね。
生き残りたいなら強くなれ、弱者に生きる資格なしって考えは、たしかに一理あることはあるんだけどさ。
「大使館の件は了解しました。こちらでも人選を進めましょう」
人材足りないんですけどね!
どっかにいい人材落ちてないかなぁ。軍学校に当たってみるかなぁ。メリスみたいなど根性男がいたら、即スカウトするんだけどなぁ。
「ああそうだ。それとは別件で、お母さんに頼みたいことのがあったの」
「……いま、お母さんいいましたね?」
相好を崩し、ぽんと手を打ったピリムに、俺は半眼を向けた。
悪い予感しかしないよ。
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