第6話 急ぐじゃんそれ!!
「世話をかけてすまないな、ライオネル」
執務室に招き入れられたアレクサンドラが、悪びれた様子も見せずに笑った。
「一応、ピリム陛下からの手紙には目を通したけどな。何やらかしてんだよ、お前さんは」
身振りでソファを勧めつつ、俺も対面に座る。
「しかたないね。恋する気持ちは止められないってやつさ」
「国まで巻き込むのはどうかと思うんだけどな」
やれやれだよ。
そして、あんまり頼られたくなかった。
こうみえて恋愛の機微は苦手なんですよ。側室となったジェニファには、唐変木だの冷凍野菜だの、さんざん言われています。
「だいたい、なんで俺を頼るんだよ。他に適任っぽいのいっぱいいるだろうに」
「あんたほどの適任はいないって。十五、六の小娘を何人も囲って自分好みの女に育て上げたんだろ?」
「……よし、けんかだ。表に出やがれ」
言うに事欠いてなんてこと言いやがる。
「は! もやし軍師があたしとやろうってのかい? 教えてやるよ! 身の程ってやつを!」
「かかってこいや! 脳筋くそドワーフ!」
殴り合いは、お茶を運んできたアニータに引き剥がされるまで続いた。
「一国の王と一国の将軍が殴り合いの大げんかとか。お二人とも常識を持ってください」
と、お説教までされました。
並んで床に座らされて。
妻たちは誰も助けてくれなかった。
つらい。
アレクサンドラの養い子……いまは恋人か、そいつは蜂蜜色の髪と淡い青の瞳をもった甘いマスクの細っこい少年で、ミゲルって名前である。
年齢は数え十五歳(満十四歳)だけど、推定という言葉が入ってしまう。
アレクサンドラに拾われたとき、身元や年齢が判るようなものをなにひとつ持っていなかったから。
たぶん五歳くらいだろうって感じだったらしい。
「アレクサンドラの見立てだからなぁ。三歳でも六歳でも同じに見えたんじゃないかな」
「ケンカ売ってんのかい? ライオネル」
「ならお前、人間族の年齢ちゃんと見分けられんのかよ」
「魂で見るんだよ。魂で」
うん。
そんなこったろうと思ったよ。
じっさい俺たちたちだってエルフや魔族の見た目から年齢を推し量るのは難しいもの。
長命のドワーフから見たら、三歳も五歳も一緒だろう。
「ちょっと、ふたりともやめてください」
すぐにケンカという名のじゃれ合いに移行しようとする俺とアレクサンドラに、ミゲルがおたおたする。
なんというか、アレクサンドラと喋ってると、今はもうこの世にいない親友と喋ってるみたいで、思ったことがぽんぽんと口から出ちゃうんだよな。
変な感覚だ。
ともあれ、アレクサンドラとミゲルは手に手を取って駆け落ちしてしまったらしい。
もうね、ほんとね。
ちょっとは考えて行動してくれ。
一国の将軍、ガイリアだったらカイトス将軍が、自宅で養っている未成年の女の子と駆け落ちしたらどうなるよ。
表沙汰になったら、国の信頼ががた落ちだって。
「とにかく、インゴルスタに帰れよ、アレク」
「やだね。ピリム陛下と石頭のマイオールが謝るまで帰らないね」
いやあ、反対するでしょうよ。
国の大事ですよ。
むしろそこで諸手を挙げて歓迎する国王とか宰相がいたら見てみたいわ。
「ニーニャは賛成してくれたぜ。恋を貫くのも勇気だってな」
「まあ……あいつはな……」
温王ピリムに過ぎたるものって称えられる名臣が、インゴルスタには四人いる。豪腕アレク、辣腕マイオール、忠烈リリエン、鯔背ニーニャだ。
このニーニャという人物は、グリンウッドに捕らえられ虜囚の辱めを受けるピリムを、獄卒どもに自分の身体を提供してまで庇ったのである。
蓮っ葉な態度とは裏腹に、曲がったことが大嫌い。困っている人がいれば助けずにはいられない。
そんな女性だ。
恋を貫くのも勇気、くらいは言うだろうね。
「僕はべつに日陰者でかまわないんですが……アレクさまと一緒にいられるなら」
ぽつりとこぼしたミゲルの言葉に、アスカ、ミリアリア、メイシャの三人がこくこくと頷く。
いや、あんたらいつの間に執務室に入ってきたのよ。
サリエリは副将的な立場だからいるのは当たり前としてもね。
ともあれ、ミゲルとしては結婚というカタチにこだわるつもりはないらしい。
一緒にいられるだけで充分、と。
健気だねぇ。
「おまえを日陰者になんかするわけないだろ。あたしの婿として、国中にばばんと紹介してやるんだよ」
ふんすと鼻息を荒くするアレクサンドラ。
ミゲルを捨てた親を思いきり後悔させてやるって。
生きてるか死んでるかすらわからないじゃん、それ。
どうにもアレクサンドラは意固地になっているような気がするな。
はあ、と、ため息をついて善後策を考えてみる。
「事実上の夫婦、というのは嫌なんだな? アレク」
「あんただったらどうだよ、ライオネル。嫁たちを日陰者にしたいと思うのかい?」
正妃たちの中で出自がちゃんとしているのはサリエリとユウギリだけ。あとはみんな孤児だった。
孤児が王妃はまずいから囲うだけにしろ、なんて言われたら、さすがに立腹するよ。
「でもせめて、ミゲルが成人するまで待てないか?」
身分差もまずいけど、年齢差もまずいんだよ。
子供と結婚するとか、間違いなく非難の対象だもの。
「そいつは無理な相談だね。待ってる間に子供が出てきちまう」
豪快にアレクサンドラが笑い、自身の下腹をなでる。
かくん、と、俺たちの顎が落ちた。
え? 待って?
アレクサンドラって妊娠中なの?
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




