第5話 やつがくる
サリエリはガイリア王国の正妃なんだけど、謎の情報網を持っている。
謎っていうか、うん、判るんだけど深掘りはしたくない情報網ね。
奥さんなんだから、イングラル陛下やミレーヌさんとの付き合いをやめてね、なんて言えるわけないじゃん。わかってよ。
「インゴルスタでぇ、あれれんが暴れてるのぉ」
「は? なんで?」
あれれんというのはインゴルスタの猛将、豪腕アレクと異名をとるアレクサンドラのこと。
サリエリがつけるてきとうなニックネームに関しては今さら突っ込んでも仕方がない。
「結婚したいーって」
「……ちょっと待て」
一国の将軍が結婚したいと騒ぐとか、なんの冗談だよ。
ていうかアレクサンドラって独身だったんだな。
ドワーフ族の年齢って、見た目でぜんぜん判らないからなぁ。まあ、エルフ族もだけどさ。
サリエリとミレーヌさんってほとんど同年代に見えるけど、ミレーヌさんの方が百歳以上も年上だし。
「でぇ、結婚したい相手が、貧民街で拾った子供なんだってぇ」
「子供と結婚はまずいんちゃうかなぁ」
さすがに成人(数え年齢で十八歳)に達してない子供と結婚するのは、外聞が良くないと思う。
ただ、それだけなら他国の出来事であり、ガイリア王国が口を出す筋ではない。
「あれれんが家出しちゃったからなんとかしてくれーって、女王さまから泣き言の手紙がきたのぉ」
「……ちょっと、待ってくれるか」
両手を広げて前に出し、サリエリの言葉をストップさせる。
アレクサンドラが家出とか、温王ピリムが泣き言とか、俺の理解を簡単に超えていくなぁ。
「あんまり待てないのぉ。手紙の届いたタイミングからみて、そろそろくるのぉ」
「なにが!?」
「きっとくるのぉ」
そんなことを言いながら書簡を手渡してくる。
と、同時に廊下を走る音が近づいてくる。
猛烈に悪い予感しかしない。
「母ちゃん大変! アレクがきた!!」
飛び込んできたのはアスカ。
「ほらねぃ」
サリエリがのへっと笑う。
殴りたい。その笑顔。
とりあえずアレクサンドラには客間で待ってもらい、お茶とお菓子でもてなしておいて、俺は女王ピリムからの手紙に目を通した。
なにしろ事前情報が少なすぎるからさ。
それによると、アレクサンドラは十年ほど前にスラムで子供を保護したらしい。
戦災なのか飢饉なのか、それとも親をモンスターにでも食われたのか、とにかくひとりぼっちで泣いていたそうだ。
その少年は。
可哀想な話ではあるけれども、世の中を見ればいくらでもある。
気まぐれなのか同情なのか、その少年にアレクサンドラは手を差し伸べた。「いくとこがねえなら、あたしの屋敷にくるか?」とね。
わりと格好いい感じだけど、アレクサンドラだからなぁ。野良犬を連れて帰るくらいの気持ちだったんじゃないかと勘ぐってしまうね。
で、当時は推定五歳くらいだった幼子も成長した。
手紙によると、ドワーフ族ではなく人間みたいだね。
十五歳くらいといえば、アスカたち三人娘が俺と出会った年頃だ。
さすがに詳細までは手紙では判らないけど、その少年とアレクサンドラが結婚したいらしい。
異種族婚の問題と、年齢差の問題。さらには身分差の問題もあって周囲は強硬に反対する。
そりゃそうだ。
人間とドワーフというのは、人間とエルフほど種族が近くないので子供が生まれる可能性はかなり低い。長命種と降る刻のちがいに苦しむってのもあるしね。
アレクサンドラは二十代の後半。少年は推定十五歳。年齢差もまずいけど、一方がまだ成人に達してないのも大問題だよ。
出会ったばかりの頃、もし俺が三人娘に手を出していたら周囲からどう思われたかって話さ。
そしてこれが一番でかいんだけど、身分差な。
アレクサンドラはインゴルスタ王国随一の名将で、有力な貴族なんだ。
そんな人物が、スラム生まれで出自のはっきりしないガキを婿にできるかどうか、たぶん犬にだって判るだろう。
「……俺はどうしたらいいんだろう?」
「知らんって追い返すのがぁ、いちばん問題が小さく済むよぉ」
「できるわけないだろ。そんなこと」
のへーっと、最も現実的なトラブル回避の方法を提示してくれるサリエリに苦い笑顔を向ける。
他国の話である。
俺は本来、手も口も出せる立場じゃない。
アドバイスすることすら内政干渉にあたってしまうだろう。
けど、アレクサンドラには恩があるからさ。
ともにグリンウッドの野望をくじき、ともにカダノトーアや分体アポトースといった強大な敵を打ち破った仲だ。
助けるのに吝かじゃない。むしろ多少の無理をしたって救いの手を差し伸べるさ。
彼女との友誼は、そのくらい得がたいものだ。
「だけどなぁ、恋愛や結婚問題ってなぁ」
覚悟は横に置くとして、ものすごく、ものすごく不本意なんだよなぁ。
「マスルではぁ、他人の恋路に首を突っ込む愚か者にはケンタウロスの全力キックをお見舞いするべきって言葉があるんだよぉ」
「うん、それ死ぬね」
人頭馬身のモンスターの脚力はものすごくて、まともに食らったら十間(約十八メートル)も吹き飛ばされるってレベル。
もちろん地面に叩きつけられるときには、すでに死んでる。
ひどい格言だよ。
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