第3話 適材を適所に
「とんでもない情実人事なんですけどね」
「そうでもあるまい。適材適所だと思うぞ」
新しい人事に関して大将軍のカイトスに話すと、返ってきたのは全肯定の言葉だった。
「仮に某が王になったとしたら、近衛の頭はアスカしか考えられぬだろう。メイシャとミリアリアも同様だ」
「それはまあ、たしかに」
名声があり、それが誇張でないだけの実力と実績を兼ね備えた、いわば生きる伝説だ。
『希望』は文字通り人類の希望となったのである。
「そしてライオネル。汝を宰相に迎えるだろうな」
「キリルどのがいるじゃないですか」
「あやつは軍務、汝は政務。ダブル軍師でいくに決まっておろう」
決まっているらしい。
ひどい人事である。
「それはそれとしてだ、王よ。汝の妹がうちの若い衆を二人も引き抜いたらしいな」
「なんですか? 将軍まで抗議ですか?」
「返せと言ったところで無駄だろう。愚息もいたくケイを気に入ったらしいしな」
本当に困った妹である。
あの人たらしは、いったい誰に似たのだろう。
「なので、代わりの人材をよこせ」
「よこせて……」
俺は人材の湧き出す魔法の壺なんか持っていない。
むしろそんなのが売ってたら、多少高くても買っちゃうよ。
「ユウギリとメグが公務に就かなかったのであろう? 教官として貸すが良い」
「教官ですか?」
「斥候隊と弓箭兵部隊を強化する。おもいきりな」
「なるほど」
思わず頷いてしまった。
カイトス将軍の軍事構想は諜報・防諜戦と、遠距離攻撃である。
アザトース襲来のせいで激減した戦力をどう運用するか、正解の一つがこれだと俺も思う。
情報というのは、ときに命よりも重い。
だからこそ命がけで奪い合われるし、命がけで偽情報を流したりもする。
遠距離攻撃に関しては『ガイリアの五芒星』の特性を最大限に活かした戦法となるだろう。
鬼畜なキリル参謀長が設計したこの城は、なんとどの方向から攻めても十字射撃に晒されるのだ。
守備兵たちの弓の腕が、ユウギリに迫るくらいになったら、俺も攻略法を見つけられない『ガイリアの五芒星』は、ますます難攻不落になってしまう。
「そういうことでしたら二人にはかってみましょう。本人たちが嫌がったらそこまでですが」
「よろしく頼むぞ」
はたして、メグもユウギリも快諾してくれた。
一瞬だったね。
「王宮暮らしは窮屈でいけないス。ネルダンさんが寝室にくるときだけが楽しみなんて生活は、不健全スよ」
「正直、ガイリアの弓箭兵の弱さは懸念していました。良い機会だと思います」
メグの妄言はともかくとしても、ユウギリの指摘は事実だったりする。
ガイリア王国というより、中央大陸では弓箭兵部隊ってそんなに使わないんだよね。
というのも、接近されたら弓兵はしんどいから。
弓は両手で扱うものだから盾を持てないし、軽装で接近戦の武器はショートソードくらい。
そんな部隊が、たとえばカイトス将軍が率いる騎兵隊の突撃なんか受けたら、一撃で全滅コースだ。
接近させなければ良い、なんてのは頭の中でだけ軍略を組んでるやつの言い分だね。
一瞬ごとに迫ってくる敵を、しっかり狙って撃つなんて、よほどの胆じゃないとできないんだぜ。
だから使うとしたら、両軍の距離が充分に離れているときに、山なりの軌道で撃つ感じなんだ。
ところが、そんな山なりのへろへろ射撃は簡単に重装歩兵の大盾で防がれる。
戦況をどかんと変えるような力はないんだ。
じっさい俺も、弓箭兵部隊を作戦の要にしたことはない。
ユウギリに出会うまではね。
まさに蒙が啓いた。
弓って、運用次第では魔法部隊よりぜんぜん強いんだわ。
発射までのタイムラグが魔法に比べてずっと短いってのも強みだし、連射がきくし、軽装だからこそ移動が迅速。
そりゃあ一発の威力は攻撃魔法とは比べものにならないよ? だけど手数で勝負できるんだ。
五百人の弓箭兵の一斉射撃って、普通に戦況をひっくり返す力があったのよ。
一人で弓箭兵部隊みたいなことをやってのけるユウギリに出会って、俺はつくづく自分の愚かさを思い知ったもんだ。
「メグが斥候たちを鍛えて情報収集能力を高める。ユウギリが弓兵たちを鍛えて『ガイリアの五芒星』の守りを強固にする。うまくいけば何十年かの時間が稼げるだろうな」
「期待してくれていいスよ。盗賊ギルド流の密偵術をたたき込むス」
メグがどんと胸を叩いて見せる。
「盗賊ギルド流か。ふむ、なるほど」
密偵とかを育てるのは大変で、たとえばマスルの火消しみたいに専門の育成機関を作るケースが多い。
当然、お金も時間もかかる。
でも考えてみたら、忍び足や解錠や聞き耳なんかを生業にしている連中、いるじゃん。
「メグ。ナッシュに渡りをつけてもらえるか?」
盗賊ギルドの幹部の名前である。
「またネルダンさんが悪い顔になってるス。間違いなくなん悪だくみをしてるスね」
やれやれと肩をすくめながらも、メグは引き受けてくれた。
王妃になっても、ちゃあんと盗賊ギルドとのパイプを維持しているんですよ。
怖い怖い。
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