第1話 また幕があがる
忙しい。
寝てもさめても忙しい。
それにつけても金のほしさよ。
「……なにやってんだ俺は」
無意識のうちに落書きしてしまったメモ用紙を丸め、くずかごに放る。
ランズフェロー王国の言葉遊びで、フレーズの最後に金のほしさよってつけると、なんとなく据わりが良くなってみんな納得してしまうというやつだ。
ただまあ、この俺、ライオネル・ガイリア一世というえらそうな名前のやつの場合は、忙しいのも金が欲しいのも事実だったりする。
邪神アザトースの分体が落ちてきたことにより、元々のガイリア城は大破してしまい今後の使用にはちょっと耐えない。
なので建設中だった新しい王城の『ガイリアの五芒星』に玉座を移したのだが、問題は山積みだ。
むしろその積んだ山を、一山いくらて売れるくらい。
そもそも人材が圧倒的に足りないのである。
先代のガイリア王であるロスカンドロス陛下を支えた重臣のうち半分以上が、戦争も政争もない世界へと旅立ってしまった。
行政府の首班である国務大臣のミクリは健在だけど、彼一人でガイリア王国をまわすことはできない。
結局、国王親政に近い形になってしまっているのだ。
早急になんとかしないといけないのだが、人材ってやつはそこらへんにぽこぽこ落ちてるもんじゃない。
「火消しから何人かヘッドハンティングするぅ? 心当たりあるよぉ」
恐ろしいことを言うのは、俺の正妃の一人であるサリエリね。
正妃が六人もいるっていう異常極まりない事態については、語るも涙聞くも涙の事情があるんで、あんまりつっこまないでくれ。
「勘弁してくれよサリエリ。戦争になっちまう」
マスル王国の特殊部隊である火消し。そりゃあ人材は豊富だろうさ、言動こそアレだけど知勇兼備で、俺の副将ともいえるサリエリをして「うちは普通レベルだよぉ」って言ってたくらいだもの。
けどさ、そんな人材を引き抜いたらどうなるかね。
人材収集欲が豊富な魔王イングラル陛下が、にこにこ笑って許してくれると思いますか?
恐ろしすぎるわ。
結局、在野の人材を探すと地道に育てるのを同時に進めるしかないんだよね。
これが、寝てもさめても忙しい理由な。
金のほしさに関しては『ガイリアの五芒星』の建築費用。ガイリアシティの復興費用。ガレキになってしまったガイリア城の解体費用に撤去費用。戦死者への補償。その他諸々。
いくら金満のガイリア王国でも、とても一時には購いきれない。
さらにこの前、応国軍参謀総長のキリルから厳重な抗議がきたんだよ。
「へーいか、うちのメリスとサイファが、ケイちゃんに取られたんですけどー? 二十代と十代の小隊長をー 取られたんですけどー?」
ってね。
「ごめんってキリル参謀。ケイには俺から説教するから許してって」
信じられるか?
王様になったのに、参謀長に手を合わせてぺこぺこ謝ったんだぜ?
そりゃあね。
軍学校時代には俺のライバルだったメリスと、カイトス将軍の子息で俊秀の名も高く、すでに小カイトスって異称をささやかれるサイファを引き抜かれたら、普通に怒るよね。
俺がキリルの立場だって怒るよ。
「ジェニファさん雇ったら?」
ある日の晩餐の席上、アスカが言った。
人材不足を嘆いている俺を気遣ってくれたのだろう。
メイシャとミリアリアも頷いている。
この三人は冒険者クラン『希望』の結成当時から冒険者ギルドで受け付け業務をしていたジェニファに世話になっているからね。
信頼感もひとしおだろう。
実際ジェニファは超優秀だしね。
ギルドのカウンターを任されてる時点で彼女の有能さは証明されてるようなもの。商会でいうなら番頭、国でいうなら官房長官っていう地位だから。
しかも在野の人物だから、ギルド長にさえ筋を通せば、あとは本人の気持ち次第だ。
「ううむ……ジェニファか……」
腕を組んでしまう。
能力的にも人格的にも信頼できる。人当たりも良いし官房長官あたりを任せたら最高のパフォーマンスを発揮すると思う。
思うんだけどね。
ちょっと俺とジェニファの関係って微妙なんだよ。
じつは即位する少し前に彼女から思いを告げられている。俺は立場上それに応えることはできないと断ったんだ。
気まずいだろ?
どの面さげて、俺の下で働いてみないかって誘うっていうのさ。
「ジェニファさんは母さんのこと好きですからね。誘ったらくると思いますよ」
「ですわ。愛人にしてあげるとか条件にしたら、入れ食いですわ」
ミリアリアとメイシャが口々に言う。
なんでお前らがジェニファの気持ち知ってるの?
あとメイシャ、結婚にともなって還俗したとはいえ、愛人とか入れ食いとかいわない。
お母さん、あなたをそんな蓮っ葉な娘に育てたおぼえはないわよ。
「ネルネルが固まってるねぇ」
「ジェニファさんの気持ちに気づいてなかったのは、ネルダンさんくらいのものスよね」
サリエリとメグの言葉に、ユウギリがこくこくと頷いた。
ちょっと、待ってくれるか。
俺が鈍いみたいな空気にしないでくれ。
「ジェニファさんなら、母ちゃんの愛人になっても文句ないしね!」
えっへんと胸を張るアスカ。
そうなの?
そういうもん?
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