王妹殿下と北の戦士 4
かがり火の向こうから人が近づいてくる。
大柄で筋骨隆々な男性だ。
無手のように見える。
「止まれ」
「私はイーリアス。貴殿らのいう山賊団の頭目だ。降伏するゆえ、私の命をもって手下どもを助けていただきたい」
シッファの声で足を止め、男が名乗る。
「ガイリアの王妹、ケイじゃ。苦しゅうないゆえ、近くで話そう」
ちょいちょいと床几の上から手招きするが、左右をメリスとサイファが固めており、さらにシッファが後ろに回り込み、つけいる隙はまったくない。
「お主とは会ってみたいと思っていたのじゃ。なかなかの用兵を見せてもらったでな」
対面に置かれた床几に腰掛けたイーリアスに対し、フレンドリーに話しかける。
「恐縮です」
「いかにして傭兵団『ゴッドファルコン』を掌握したのか、まずはそこから聞こうかの」
悪戯っぽい幼女の言葉に側近の三人が息をのんだ。
「そこまで読まれていましたか」
「当てずっぽうじゃ。じゃが確率が半分あれば言うことにしてるのじゃ。正解すると頭がよくみえるでな」
冗談めかした言葉に、シッファは実際は半分だと思っていたわけではないだろうな、と確信したが、口には出さなかった。
我が主君ときたら、とにかく計り知れないから。
「私は北方パーリンガー帝国で生まれました」
北の果てである。
北部事変の舞台となったグリンウッド王国よりもはるかに北。国交もないからどういう国なのかという情報すらない。
「王族の出なのですが権力争いに巻き込まれましてね、逃げ出しました」
「どこの国でもそのへんは変わらぬものじゃな」
「占い師に視てもらったところ、西に進めば英雄の道、南へ下れば凡愚の道と言われました」
「そこで南を選択するとは、よほど権力に倦んでいたのじゃな」
孤剣を携え流浪の旅を続け、グリンウッドの傭兵として敗戦を経験したり、新生ガラングラン王国で治安維持の手伝いなどもした。
そうして流れ着いたのがガイリア。
アザトース襲来の大災害で家を失い、職を失い、行き場をなくした人々が暮らす名もない集落だった。
「そんな人々からも護衛代と称してみかじめ料をとる『ゴッドファルコン』を懲らしめたわけですが」
「負けたものたちに懐かれてしまったというわけじゃな」
いろいろ繋がったのう、と、ケイが薄く笑った。
盗賊団などというものは存在しなかった。あったのは難民たちが暮らすキャンプだ。
しかしそれが『ゴッドファルコン』を抱き込んでしまったため、話がややこしくなってしまう。
五十名もの武装集団に脅威を感じないものがいるとすれば、それはそれ以上の兵力を持つものだけ。
アメニをはじめとした近隣の村々は普通に怖がる。
すわ山賊団かと。
しかも哨戒のために歩き回る者たちには『ゴッドファルコン』のメンバーもいる。
「やばいよやばいよ、となったわけじゃな」
楽しそうに笑うケイ。
そこからは、両陣営が最悪の事態を想定して動いたためどんどん話が大きくなってしまった。
周辺の村から陳情で動いた王国軍だが、イーリアス陣営にしてみればただ暮らしていただけなのに、いきなり二百もの軍を押しだされてはたまらない。
当然のように反撃する。
そして勝ってしまった。
今度は王国軍が、たったの五十で二百を撃退したなら、とんでもない敵だと考える。
総攻撃を仕掛けるか、と。
「王都ガイリアシティの中ならともかく、外に集落を作って悪いという法はない。民たちが罰せられる心配はなかろうよ」
「助かります」
「じゃがお主はそういうわけにいかぬ。その身、このケイが預かるぞ」
「王妹殿下のお心のままに」
深く深く、イーリアスが頭を垂れた。
一日、ことの次第の報告を受けた国王ライオネル・ガイリア一世は、海よりも深いため息をついた。
「それで、イーリアスをケイの幕僚とし、新設されたミルクロム村をケイの直轄領とする、と」
「ダメかの?」
「だめじゃない。話半分として聞いたってそのイーリアスの才幹は野に置くのは惜しい。ミルクロムだって王妹直轄領となれば周囲から邪険にもされないだろう。さすがの落としどころだと思うよ。ケイ」
そこまで言って、ちょいちょいと手招きするライオネル。
「ん?」
とことこと執務机まで近づいた幼女に、ぐいっと顔を近づけた。
「メリスとサイファがあなたの直属への転属願いを出してます。人たらしですか? ヨシモトさま」
「その名で呼ぶな。お母さん」
息がかかる間合いでぼそぼそとケンカする。
ケイの正体というか前世が今川義元という異世界の大名だということは限られた人しか知らないので、大声で言い合うわけにはいかないのである。
そのため、青年王と幼女王妹がものすごく顔を近づけているという、ある種危険な光景が展開されているわけだ。
「キリルどのからがっつり文句がきてます。小隊長クラスを二人も奪われたら当然ですよね。わかりますよね」
「指揮官育成には金と時間がかかるからのう」
戦国大名だったので、よく知っている。
一人前の兵士を育てるのは大変だが、優秀な指揮官を育てるのはもっとずっと大変なのだ。
「もう家臣団を形成するとかヨシモ……ケイは半刻もじっとしていられないんですか」
「お母さんも、アマテラスさまに同じことを言われていたしの。血は争えんということじゃ」
あんまりくっついていると誤解を生むぞ、などとふざけながら兄王の身体を押し返し、ケイはくすくすと笑った。
王妹ケイとその右腕のイーリアス。そして強力無比な家臣団による、弱きを助け強きをくじく快刀乱麻の活躍を描いたサーガ。
それを吟遊詩人たちがこぞって歌いだすのは、もう少し未来の話である。
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