第342話 世に槍士は多けれど
あきらかに俺たちが押されている。
アザトースにダメージを与えられていないわけではない。そこそこの打撃は与えていると思う。
けど、それ以上にこちらのダメージが大きいのだ。
「反則だよな。何から何まで」
愚痴だってこぼれてしまう。
接近戦をおこなうアスカにしてもサリエリにしても、そう簡単にアザトースの攻撃を受けるほど遅くはない。
けど、クリーンヒットはなくてもかすることくらいはある。
アザトースが相手だと、それすらアウトなのだ。
「くっ!?」
触手がふくらはぎをかすめただけなのに、アスカがバランスを崩して転倒し、どす黒い血を吐く。
「くは……」
それでも次々と襲いくる触手を転がって回避し続けるのは、闘神アスカなればこそだ。
常人なら最初の一撃で死んでる。
擦過しただけで猛毒と死に至る呪いをもらってしまうのだ。
「祝福の水!」
死以外のすべてを癒やす光が降り注ぎ、アスカの体を輝かせた。
もちろんメイシャの奇跡である。
ロングヒールなどより遙かに高位のものであるため消耗も大きく、使った後はぐらりとよろめく。
すかさずメグが抱き留めて飴菓子を口に放り込んでやるが、いつまでも続けられるわけがない。
というより、すでにメイシャは限界が近いだろう。
非常に有能で高性能な分、燃費が悪いのだ。
「八つ裂きリング!」
「疾っ!」
高速回転する氷の輪と、間断なく降り注ぐ矢で、メイシャが回復するまでの時間を稼ごうとするミリアリアとユウギリ。
何本も触手が切断され、目が矢でつぶされるが、しばらくすると復元してしまう。
ここも反則くさいよな。
「よし! 元気いっぱい!」
「まってたのお」
回復したアスカが前線に復帰するタイミングで、サリエリがやや下がる。
彼女は攻撃の主体になっていない。
ひたすらアスカのサポートに徹している感じだ。
というのも、二人同時に前線から落ちるわけにはいかないから。もしそんなことになったら、後衛はそのまま全滅コースなのである。
のへーっとしていても明敏な彼女にはそれが判るため深く踏み込めないし、大胆な攻撃もできない。
アザトースの攻撃がかすりもしないよう、つねにバッファをとった戦い方になってしまうのだ。
そしてそれが結局、アスカだけが攻撃の中心にならなくてはならないという事態に拍車をかけている。
「じり貧だな……」
ミリアリアの魔力だっていつまでも保たない。
ユウギリの矢も数に限りがある。
このままでは、じりじりと削られて終わりだ。
「俺が前線に上がるか……ってあほか」
内心で考えて、できるわけないと落第点をつける。
アスカですらすべてをさばききれないほどの攻撃だ。俺ごときが前に出たら半瞬も保たずに殺されるだろう。
「せめてもう一枚、前線にカードがあれば……」
「待たせたな」
応えるものなどないはずのつぶやきに応えがあり、上空で何かがきらりと光った。
次の瞬間、アザトースの絶叫が響く。
あまりにも不快な声で、俺たちは思わず耳を覆ってしまった。
普通だったら大失態だ。
そのまま敗勢に転がり落ちても不思議じゃない。
そうならなかったのは、アザトースの本体が空から降ってきた十丈(約十八メートル)もありそうな長大な槍に貫かれ、大地に縫い付けられたからである。
「よう、お母さん。元気だったか?」
槍の上に立った人影がにっと笑う。
いや、人ではない。
背中に純白の羽があり、兜にも羽飾りがついている。
戦女神、オーディン神の眷属とされる神族だ。
「タティアナ!」
しかし、種族など知ったことではなく俺は叫んでいた。
見覚えのある顔と声。
ルターニャの元首、タティアナだったから。
「なんでヴァルキリーに……?」
「死んだ後、スカウトされてな。さほど未練があったわけではないが、こうしてお母さんを助けられたから、そう悪い二度目の命ではないだろう」
笑ってみせる。
姿は変わったけれど、うん、この豪快さは間違いなくタティアナだよ。
「オーディンの眷属ごときが乱入するか!」
罵声とともにアザトースが体を起こす。
槍の上に乗っていたタティアナが勢いよく飛ばされるが、空中で回転し危なげなく着地した。
「我が手に戻れ。グングニール」
アザトースを貫いていた槍が一丈ほどの長さになって、タティアナの手に収まる。
すちゃりと隙なく構える。
アザトースを、サリエリ、アスカ、タティアナの三人で半包囲するようなポジショニングだ。
「さあお母さん、命令をくれ」
「ヴァルキリーに指示を出す経験を、まさかすることになるとは、大神オーディンになった気分だよ。あと、お母さんはやめてね。いまさらだけど」
冗談を飛ばし、短期的な作戦を考える。
待望していた三枚目のフォワードだ。ただ、ミリアリアもメイシャもだいぶ消耗しているから、あまり長時間は戦えない。
となると、ここから短期決戦ということ。
なかなかしんどい状況なのは変わってないな。
「ライオネル! もうひとり召喚する!」
そのとき、上空から声が響いた。
「イングラル陛下!? なにやってんですかアンタ!?」
ピヤーキーの後席に、なんとマスルの国王イングラルがすっくと立っていた。
操縦席のミレーヌが、なんかすごく諦めきった顔をしている。
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