第341話 本格開戦!
百を超える魔力弾はほとんど同時に着弾し、もうもうたる爆煙でアザトースを覆う。
「母さん。敵は回避行動をとりませんでした」
「だな」
淡々としたミリアリアの言葉に俺は頷いた。
あんな言い方をしていたけど、べつに彼女は復讐心によってマジックミサイル大売り出しをしたわけじゃない。
効果があるのかないのか。
アザトースにとって脅威か否か。
気にする必要があるのかないのか。
そういう部分を確認するために初級魔法を使ったのである。
魔法に対して回避行動をとらなかった、という事実によっていくつかのことがわかった。
たとえば人間だったらね、よけるんだ。
馬車にひかれそうになって絶対によけられないタイミングでも、よけようと動く。
生存本能ってやつだ。
でもアザトースはよけなかった。
理由はふたつ考えられるよね。ひとつは生存本能ってものがなくて、どんなダメージを受けても気にしないってパターン。
ゾンビみたいなアンデッドはそんな感じだ。
もうひとつは、顧慮するに足りないから回避しないってパターンだ。
当たったところで痛くも痒くもないならよけないだろ? まして戦闘中だったら、相手から目を離して体勢を崩してまで避けるわけがない。
「わかってはいましたが、マジックミサイル程度では何万発当てても意味がなさそうですね」
表情すら変えないミリアリアだ。
内心で動揺しまくっていたとしても、すべて計算通りって顔をしていろってのは何度も教えているからね。
「どういう原理なのかわかるか?」
「おそらく一定以上の威力をもった攻撃でないとダメージが通らないのでしょう。総和ではなく単体として」
「了解だ」
厄介だな。
手数で勝負ってのが意味をなさなくなってしまう。
とはいえ、七宝聖剣や炎剣エフリートは触手を切り裂いてるし、マリクレールたちのホーリーサンダーで足止めに成功している。
まったくなにも効かないってわけじゃないし、遠距離と近距離では与えるダメージも違いそうだ。
「さしあたり、避難する魔法使いたちに注意がいかないよう、適当に牽制してくれ」
「わかりました」
こくりと頷くミリアリア。
効果がないとわかっているマジックミサイルを、アザトースの周囲をハエみたいにうるさく飛び回らせたりする。
ただの嫌がらせだ。
「戦い方がネルダンに似てきたスね」
避難誘導中のメグがわざわざツッコミを入れる。
「最高の褒め言葉です」
そしてミリアリアもわざわざ答えてる。
あのなあおまえら、遊んでる場合じゃないんだよ?
相手は魔皇アザトース。至高神の取りこぼした欠片とはいえ、ものすごくやばい悪魔なんだからね?
アザトースが降ってきたことで、ガイリア城の西側は何にもなくなって、ただのだだっ広い平原になってしまった。
魔法使いたちが退避した今、戦うには絶好のフィールドといえるだろう。
なにしろ、これ以上壊れるものがなんにもない。
「さあ! そろそろ本気で悪魔退治としゃれ込もうか! 皓月千里!」
ぶんと月光を振れば、白い剣光が三日月型の刃となってアザトースに迫る。
ヤマタノオロチの首を切り飛ばす威力の技だ。
さすがに胴体でまともに受けるつもりはないらしく、触手で防ぐ。
相殺するかたちで、剣光と触手一本が消滅した。
「なるほど」
あの触手は武器であり防具であるというわけか。
となると、いくら壊しても無駄だな。
本体に攻撃を当てないと意味がない感じかな。いくらでも増やせそうだし。
「まーあ、いつものやつだろうねぃ」
俺が攻撃している間に本陣まで戻ってきたサリエリがのへーっと言った。
「そういうことだ」
にやりと笑えば、サリエリが剣を、ミリアリアが杖をアザトースに向ける。
「イフリートカノン~」
「アイシクルランス! スリーウェイ!」
放たれた魔法がアザトースの目の前で衝突した。
とどろく轟音。
半壊しているガイリア城がびりびりと揺れ、さらに破片が地上に落ちる。
そしてキノコ型の雲が湧き上がり、激しい雨が降り始めた。
『希望』の最大火力、フレアチックエクスプロージョンである。
「まあ、悪魔がこれ一発で消滅するなんて、甘いことは考えてないどな」
徐々に晴れていく爆煙のなか、アザトースは何割かの触手を失いつつも健在だった。
でもダメージは通ってる。
あとは、これを相手が動かなくなるまで続けるだけだ。
「よお。ずいぶんと男前になったな。アザトース」
にやりと唇をゆがめてみせる。
「なるほど。たしかにおもしろい」
無数の口が開き、大陸公用語を発する。
男とも女とも動物の鳴き声とも風の唸りとも金属のこすれ合うともとれる、生理的嫌悪感をもよおすような不気味な声だ。
喋れたのかよ。
いままで吠え声ひとつ出さなかったくせに。
恐怖に顔を引きつらせるミリアリアの肩を、ぽんとたたいて落ち着かせてやる。
「面白かったかい? お代はいらないんで、帰ってくれてかまわないぜ」
「そういうな、稀代の軍師」
無数の口が笑みの形にゆがむ。
次の瞬間。
轟と風がうなり、衝撃波が迫る。
本能的に触れてはいけない風だとわかった。
「させませんわ! ホーリーシールド! 花びら大回転!!」
メイシャが錫杖をかざし、五枚の聖なる盾が回転しながら呪われた力を受け止める。
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