第340話 聖女二人
「ライオネル。それは少し増長というものですよ」
崩壊したガイリア城のがれきの上にすっくと立った人影が音楽的な声で告げる。
「カトレア司祭様!?」
ガイリアの至高神協会でも五本の指に入る高司祭だ。
「活躍のしすぎで、主人公にでもなったつもりなのでしょう」
「マリクレール様!」
驚きの声はメイシャから。
カトレアの隣に立つのは『固ゆで野郎』のマリクレール。在野のままビショップの称号を得たほどの人物で、この人の前例があったからメイシャもまた在野でビショップになった。
つまり偉大なる先達というわけだ。
「時間を稼ぎます」
「長くは保ちませんのであしからず」
口々に言って錫杖をかざす二人。
「大空よ、我は御身の姿を描く」
「父なる神よ、万丈の光もて裁きを賜らん」
「「ホーリーサンダー! インフィニティ!!」」
声が重なり、何十何百もの雷がアザトースを打ちのめす。
複数のプリーストが、神気の満ちている空間でのみ発動させることができるという神聖魔法唯一の攻撃魔法だ。
ていうかいま神気なんか満ちてないよね。
自分たちの力だけで、無理矢理発動させたのかよ。
しかも一条ではなく何条も。
無茶苦茶にもほどがあるなぁ。
「すごい……さすがカトレア様とマリクレール様……」
メイシャまで唖然としている。
けど、アザートスは小揺るぎもしない。
邪神ダゴンなんか、一発でグロッキーになったのに。
レベルが違うってことか。
「わかってはいましたが」
「たいして効いていませんね。先輩」
断続的に降り注ぐ雷の中、聖女二人が笑う。ちょっと迫力ありすぎですね。
「母ちゃん! 何の騒ぎ!!」
そうこうしているうち、復旧作業を手伝っていたアスカが駆けつけてきた。サリエリやユウギリと一緒に。
「騒ぎの中心にむかえばぁ、そこにはネルネルがいるのだぁ」
サリエリが余計なことを言う。
あながち外れてないのが腹立つわ!
「見てるだけで鳥肌がたつ悪魔スね。なんなんスかこいつ」
いつの間にか隣に立っていたメグが言った。
『希望』全員集合である。
「まずは避難誘導を頼む。メグ、ユウギリ」
正気を失っている魔法使いたちを強制的に退去させるのだ。
今のところアザトースは彼らに興味を示していないが、近くで恐怖や絶望をまき散らしていたら、それだけ敵が強化されてしまう。
とっとと後送して、プリーストたちの治療を受けさせるべきだろう。
「母さん。すみませんでした」
茶色い瞳に正気の色を戻したミリアリアが言った。
よかった。回復したようだな。
もろにアザトースと目を合わせちゃったからね。メイシャがいうところの一時的な狂気に陥っていたんだ。
「アスカとサリエリで、あれの注意を引いてくれ。ミリアリアは小技で目くらまし、メイシャは前衛の回復を最優先で」
矢継ぎ早に出した指示に娘たちが頷く。
「こちらもそろそろ退避します」
見れば、カトレアに肩を貸したマリクレールが、城の方へと退避を始めていた。
たぶん、かなり無理をした魔法行使だったんだろうな。
時間稼ぎのためだけに。
あるいは天啓とかあったのかもね。
「感謝です! ふたりとも!」
俺は片手をあげて謝意を示しアザトースに向き直った。
「いくよ!」
七宝聖剣を掲げアスカがぎゅんぎゅんと距離をつめる。
恐怖を感じていないわけがないが、勇気がそれを上回っているようだ。
当代の英雄、闘神アスカは伊達じゃない。
アザトースが無数の目をわずかに細めた。
無造作としか思えない動きで、触手とも腕ともつかないものを振る。
いや、でも速い!
「おっも!」
そしてそれを危なげなく受けるアスカが異常すぎだよ。
逆らわず右に大きく飛ぶ。
見た目には吹き飛ばされたように見えるだろう。
けど違うんだ。
アスカを弾き飛ばした触手は、そのすぐ後ろを走っていたサリエリの前に、ただ無防備に現れた格好になる。
「とうりゃ~」
まったく気合いの乗ってない声とともに振り上げられた気合い充分の炎剣エフリートが、一丈(約一八〇センチ)もあるような太さの触手を切り飛ばした。
断面から炎が吹き上がる。
「ぉっけぇ、切れば切れるよぉ」
のへーっと告げる。
当たり前のことを言っているようで、じつはけっこう大きい事実だ。
こちらの攻撃が目に見える形で通じるというのは、精神衛生上とても大切なのである。
「よっしゃあ! それなら遠慮なしだね!」
すちゃっと着地したアスカが再び突進する。
戦闘衝動に、青い目をらんらんと輝かせて。
そこに人間の腕っぽい触手が正面から襲ってきた。
手のひらをがばっと広げるように。
「必殺! ぶった切りモード!!」
そうとう怖いと思うんだけど、小石一個分のおびえすらみせずアスカは大上段から斬りかかった。
ハサミで紙をすーっとまっすぐに切るみたいに、アザトースの触手が左右に切り裂かれていく。
見事としか言い様がない。
メグやユウギリに促されて避難していく魔法使いたちがわっと沸いた。
いいから、見てないでさっさと逃げなさいって。
戦いはまだ序盤戦にすら入ってないんだから。
「さっきは、よくも醜態をさらさせてくれましたね」
フェンリルの杖をかまえ、ミリアリアが低い声で呟く。
ちょっと怖い。
「その目、気に入りません。つぶしちゃってもいいですか? マジックミサイル! オールレンジマルチロック!!」
とっさに目算できない数の光弾が小さな大魔法使いの周囲に現れ、一斉に射出された。
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