第337話 臨時司令のおかあさん
えらいことになった。
天空から巨大な岩が降ってきて、ガイリア城が吹き飛んじゃったよ!
街の方からすっごい音が聞こえたなーと思ってたらギルドから早馬があり、慌ててジークフリート号でガイリアシティに駆けつけたら大騒ぎになっていた。
普通にやばいって。
「ジェニファ。王城の様子は?」
冒険者ギルドの外で、いろんな指示を飛ばしていたジェニファに声をかける。
いちいち中で決済なんかしてられないからね。
すべて外で簡易契約だ。
「瓦礫のせいで救助活動が難航しています。ギルドからも人は出していますが」
「了解だ。俺たちもいく」
「お願いします!」
ジークフリート号に駆け戻れば、アスカとサリエリが協力しながら、車両の座席をすべてベッドに組み替えていた。
さすが、判ってらっしゃる。
馬車よりも速く、そして揺れが少ないのがフロートトレインの強みだ。
積載量もすごいので、こいつを臨時治療院として使うことができる。
「司祭様たちを連れてきたスよ!」
そうこうしているうち、メグとメイシャが戻ってきた。
こいつらも判ってるな。
俺がギルドに行っている間に至高神教会に走って渡りをつけてきてくれた。
「お城の東側は瓦礫がすごくて近づけそうもありません」
「では西から侵入します。多少の瓦礫ははね飛ばしていきますから、衝撃に注意してください」
観測手席のユウギリと操縦席のミリアリアだ。
俺は車長の席に飛び乗り、発車の指示を飛ばす。
「全速前進!」
「ヨーソロー!」
ミリアリアが応え、ジークフリート号が滑り出した。
想像以上にひどい状態で、結論からいうとロスカンドロス陛下は助からなかった。
至高神教会の大司祭様も手を尽くしてはくれたんだけどね。
他にも死者が百十七名、重傷者は二百二十名に及んだ。
カイトス将軍とキリル参謀は、ぎりぎり回復魔法が間に合い一命を取り留めた。重態で入院加療が必要だけどね。
ともあれ、ガイリア王国の首脳部が一瞬でもっていかれてしまったのである。
空から降ってきた岩ひとつで。
未曾有の危機というやつで、頭を失った王国は一気に瓦解してもおかしくない。
そうならなかったのは、ロスカンドロス陛下が後継者をちゃんと決めていたからだ。
主席秘書官のジーニカ。
なんと彼女は、噂通りロスカンドロス陛下の隠し子だったのである。
伯爵時代の大恋愛の末に生まれた子供で、陛下は妻にはできなかったその女性のことを心の底から愛していたから、最後まで独身を貫いた。
陛下にそんなロマンチックな面があるとは知らなかったけど、後継者の指名がちゃんとなされていたのは助かる。
重臣たちだって胸をなで下ろしていることだろう。
「と、思っていた時期が俺にもありました」
なんと、とうのジーニカ女史が玉座に着くことを固辞したのである。
「私は王の器ではありません。何度も一緒に仕事をしているライオネル氏ならご存じかと思いますけど?」
重臣たちからも頼まれ、幾度も仕事をしたことのある俺が説得したんだけど、返ってきたのはにべもない言葉だった。
短くした茶髪と理知的な一重の黒い目がクールビューティって感じの女性で、物堅い為人なんだけど、けっこうお茶目な部分もあったりする。
で、王の器かと正面切って問われると、さすがに返答に困るな。
もちろん有能な人ではあるよ?
新興のガイリア王国を統べる首脳部の一人として申し分のない能力がある。
ただ上に立つというより、どっちかっていうと副官としての才能なんだよな。だから秘書ってポジションが最高だった。
彼女が体調不良で休暇を取ったりすると、王国政府の事務処理効率が一割二割低下するっていわれてたくらい。
「血統だけで治められるほどガイリアは安楽な土地ではないですよ。ライオネル氏」
「それはたしかに……」
独立して三年しか経ってない。
周囲の国々にはリントライト動乱の爪痕が色濃く残っている。
宗主国であるマスルとの外交だって、ただイエスマンのように頷いていれば良いってわけでもない。
爆発的に増えつづける人口と治安対策、爆発的に増え続ける仕事先と人手不足対策。
やるべきことは山積みで、重臣たちによきにはからえって丸投げするわけにはいかない。
ついでに投げるべき重臣も、何人も死んじゃった。
この状況でトップに立つのは、ぐいぐい周囲を引っ張っていくタイプか、ものすごいカリスマがあるか、そういう感じの人が望ましいだろう。
ジーニカは、そういうキャラじゃない。
「とはいえ、誰かが至尊の冠を頭に乗せないと、どんな話も始まりませんよ。ジーニカさん。ちゃんとした人選をするのは後日にしてもね」
「……わかりました。状況が状況ですから、わがままを言い続けるわけにはいきませんね」
重ねて説得することで、ようやく折れてくれる。
いまはロスカンドロス陛下の遺児、というのが最高の正当性だ。
統治機能のの回復だって、その名前だからできる。
「そのかわり、次の王座について、いろいろ相談に乗ってもらいますからね。ライオネル氏」
「俺、ただの冒険者にすぎないんですがね」
ため息をつきつつ頷いた。
ここが妥協点だろうからね。
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