戦国オカン 7
降りしきる雨の中、六角定頼が臣従を誓った。
今川軍一万を迎え撃とうとした六角軍一万八千は、神雷によって立ちすくみ、恐怖し、降り出した豪雨によって完全に戦意を喪失する。
そこにもってきて、家康の宣言だ。
「我らは天軍(神の軍勢)である! 我らに背くは天意に逆らうことと知れ!」
だってさ!
とんでもないこといってるよね、あいつ。
「まるでペテン師だよなぁ」
「ネルネルだって似たようなことやったけどねぃ」
俺の呟きに、すかさずサリエリがツッコミを入れる。
つっこむチャンスは決して見逃さないのだ。
ともあれ、フレアチックエクスプロージョンってものすごい轟音と閃光、衝撃波だからね。
予備知識なしで見ちゃったら失神ものだ。
じっさい六角軍のアシガルたちだって、何十人も倒れちゃった。
天が割れたか地が裂けたかって状況の後に、いきなりキノコ型の雲が湧き上がって激しく雨が降り出すんだもん。この世の終わりかって思っても不思議じゃない。
神の怒りだと言われたら、普通に信じちゃうだろう。
「定頼どの、余は戦国を終わらせ平和な世を作りたいと思っている。それこそが神の御心だとな。力を貸してもらえぬか?」
「御意」
義元の言葉に禿頭を下げる定頼だった。
こうして、両軍とも一人の戦死者も出さないまま南近江は今川に降伏する。
そして、敵対行動をとったダイミョウはそれで終わり。
大和の筒井家はむしろ積極的に麾下にはせ参じたし、実質的に京を支配していた三好家も、すんなりと道を空けて今川軍を通した。
「まあ、当たり前の結果だけどな」
「どんな流言をまいた? イエヤス」
「バレてたか。逆らったら天の使いは普通にお前らに向けて神雷を放つぞ、とな」
「今川軍は天の使いを怒らせないように機嫌を取ってるんだぞって感じか」
半眼を向けてやると、家康は肩をすくめて見せた。
母さんの目はごまかせないな、と。
だれが母さんやねん。
「戦わないで勝てるならそれが一番だって教えてもらったからな」
笑う家康だ。
死んだり腕や足を失った兵士は、もう畑を耕すことはできない。
死んだ馬は、もう仔を産まない。
戦とは消費のみが大きくて、まったく生産に寄与しないのである。
家康は俺との付き合いの中で、戦う苦労より戦わない苦労の方が背負う価値があると思ったようだ。
その判断はすごく大変だけど、俺は評価する。
戦わない方がしんどいんだよね。
ちなみに、今川軍の戦闘部隊は一万だけど、その後ろを約十万の荷車隊がついてきている。
食料だの薬品だの酒だのの物資を満載してね。
もちろん行く先々の宿場や町で配るため。
戦が続いて人心が乱れているから、それを安定させるためって名目だけど、一番の目的は人気取りだ。
今川がヒノモトを支配したら、こんなに豊かになるよってアピールすることによって、民草は自然と今川を受け入れる。
これはカゲトゥラのインディゴ軍の常套手段でもあるよね。
あいつらは物資の他に、大量のプリーストたちも引き連れて救恤にあたるから、さらに効果的だ。
ともあれ、行く先々で人気を集め、京の町まで進軍した俺たちだけど、二条城の城門前に立ち塞がる人影があるという報告を受けた。
「しかも、現征夷大将軍の足利義輝公だそうだ」
「なんでそんな御仁が?」
「天の使いとの一騎打ちを所望している。真の天意を象徴しているなら武によって自分を打ち倒してみよ、とな」
「よっしゃ! 出番きた!」
家康と俺の会話に割り込み、アスカがぱんと手を拍った。
あー、もう、やる気満々じゃん。
「やっていいよね! 母ちゃん!」
このバトルジャンキー娘は……。
「なるべく殺さないようにしろよ」
「負けるなよ、という激励ではないんだな」
呵々大笑する家康だった。
それは無駄な心配だよ。アスカに勝てる剣士なんて、そうそう滅多にいないって。
で!
「ま……参ったっ!」
義輝が降参する。
それでも十合は打ち合えたんだから、頑張った方だと思うよ。
最初の一合で力量差がはっきり判ったのに、諦めずに戦い続けたのも賞賛に値するって。
「惜しい場面はいくつかあったね!」
地面にどっかりと座り込んだ義輝に、アスカが手を差し伸べた。
「闘神アスカとはよくいったものだ。俺のところの平八でも、たぶん勝負にならないだろうな」
「剣で勝とうとすると大変だけど、遠距離から十人くらいで矢を射かけたら倒せるぞ。鉄砲とかでもいいや」
「ネル……」
「なんで可哀相な動物を見るような目で見るんだよ」
なにもいわず、ふるふると首を振る家康だった。
なんだよ。
いいたいことがあるならはっきり言えよ。
「ともあれ、現将軍も敗北を認めた。これで、名実ともにお館さまの天下となるな」
こほんと咳払いして、家康が言う。
あとは帝から義元がそれなりの地位をもらい、天下に号令すれば良いだけだからね。
「だが、それでは困るのだ」
荘厳な声が降ってくる。
聞き覚えのある声だな、と思った瞬間、二条城が光に包まれた。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




