第288話 ダンジョン探索
ダンジョンのなかは仄明るい。
薄暗い、といった方が正確かな?
日が落ちてから、あたりが闇に包まれるより前。
なにかをやるには暗いんだけど、灯火をともすほどでもない。そのくらいの明度だと思ってもらえれば良いだろう。
「ランタンを使わなくていいのは助かるな」
「食べられるわけでもない油を買うのは屈辱ですものね」
俺の言葉にうむうむとメイシャが頷く。
ぜんぜん違うからね?
油代をケチるほど、いまの俺たちは貧乏じゃないよね?
俺が言ってるのは、持ち歩いている物資の消耗はなるべく少なくしたいって次元の話だよ。
当たり前だけどランタンをともせば油を消費する。
ダンジョンのなかで買うことはできないから、それは手持ちの物資から出すわけだ。
つまり、つねに残量を気にしながら探索しないといけないいってこと。
簡単に言うと、残量が半分になったら引き上げないとダメ。でもそれって本当にぎりぎりのラインね。
バッファを持たせるなら、残量六割で引き返さないと。
真っ暗闇でもまったく行動に影響しないよ、という人以外ならね。
人間って視覚にかなり頼ってるから、見えないってだけでものすごく不利になるんだ。
夜は人間ではなくてモンスターどもの世界だもの。
回廊を進む。
現状、情報はまったくないわけだからマッピングしながらだ。
小道も小部屋もけっこう多いね。
あと曲がり角が多いのも気になるな。
なんというか、遭遇戦が発生しやすい構造だ。
「洞窟熊、二体接近中ス。次の曲がり角で出くわすスよ」
すっと俺の横に現れたメグが、偵察の結果を告げる。
ほらやっぱり。
うちにはメグがいるから良いけど、斥候のいないチームはヤバいぞ。ここ。
「しかもケイブベアだと。大盤振る舞いだな」
「腕が鳴るね!」
「べぇつにぃ?」
やる気に満ちあふれた答えと、まったくやる気のない答えが前衛から返ってきた。
どこまでも対照的な二人である。
「援護は要りますか? アスカ、サリエリ」
ミリアリアの問いに不要と答えて、アスカとサリエリが駆け出す。
ばったり出くわす遭遇戦を、こちらの奇襲に変えるために。
曲がり角を敵に先んじて曲がり、まずは機先を制するのだ。
剣をかざして走ってくる戦士たちに気づき、洞窟熊が戦闘態勢を取る。
ひびく吠え声。
新人なら、まずこれでびびってしまうだろう。
咆吼によって精神的な優位に立とうとするってのは、モンスターだろうと人間だろうと変わらない。
「サリー! 右のはわたしがもらうよ!」
「ぅょーぃ」
一挙動で距離を詰めたアスカが、まず斬りかかる。
速度と力の乗った素晴らしい斬撃だったが、ぎりぎりのところでケイブベアの爪が弾く。
「やるう!」
感心するアスカ。
もともと熊ってのはすごく強い。
このあたりの山に住んでるやつらだって、素人が出会っちゃったらアウトってレベルの強さだ。
ましてケイブベアはモンスターだもん。
身体の大きさは二割増しだし、凶暴性は五割増しだ。
「パワーはすごい! でも! わたしの方が速いね」
巨大な爪と牙を紙一重で回避し、的確に攻撃をたたき込む。
まったく危なげのない戦いだ。
やがてケイブベアは防戦一方に追い込まれ、本能に従って逃げようとする。
勝てないと悟ってしまったのだ。
「それは悪手だ」
ぽつりと俺が呟いた瞬間、鋭く振り抜かれた七宝聖剣がケイブベアの首をはねる。
お見事。
退こうとしたスペースが、一瞬でアスカに埋められたのだ。
近接格闘戦の最中に逃げたいと思ってしまったら、それは敗北と同義なのである。
逃げを意識するなら、もうすこし距離を置いて戦わないと。
「アスカっちはつよいねぃ」
のへーっとサリエリが拍手する。
こいつはこいつで、すでにケイブベアを倒してしまっていた。
盛り上がりも何にもなく。
炎剣エフリートをケイブベアが受け止めた瞬間、ぶわっと炎が巻き上がってケイブベアの頭を消し炭に変えた。
それだけ。
身も蓋もなかった。
戦闘って呼べるようなモノですらなかった。
「道場じゃぁ、ないからねぃ。自分を高めようとかぁ、思わないのだぁ」
しれっと言ってるけど、こいつはギルドの鍛錬場にすらいかない。
試合を申し込まれても、のへのへ笑ってはぐらかす。
挑戦はすべて受けるアスカとは正反対なのである。
「サリーも剣だけで戦いなよ!」
なぜかぷんすかと怒るアスカだった。
「いゃぁ」
そして照れくさそうにするサリエリ。
褒めらていないと思うよ? きっと。
「むしろアスカはサリエリの戦い方を真似するべきですわ。いっつもいっつもバカみたいに正面から戦うんですもの」
メイシャがアスカに近づき回復魔法をかける。
軽傷ばかりだけど、こういうのを、このくらいならって放置してるとダメージの蓄積があとから響くんだよね。
治療できるタイミングで治療した方が良い。
「まあ、アスカに搦め手を憶えろというのも、酷な話だしな……」
うーむと俺は腕を組んだ。
猫に芸を仕込むようなもので、かえって長所を消してしまうような気がする。
アスカという剣客には、正面から大胆に、ダイナミックに戦うのが最も適したファイトスタイルだと思うんだよね。
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