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第146話 旗揚げ


 中央大陸からきた俺たちは知らなかったけど、シュクケイってのはかなり有名人らしい。


 弱きを助け強きを挫き、つねに民の味方をする放浪の軍師だ。

 圧政に苦しむ村々からの支持も高く、いつだって馳せ参じようって人も多いんだそうである。


 そりゃお尋ね者になっちゃうよね。

 ガイリアでたとえるなら、俺たち『希望』が王国政府や領主にダメ出しをしながら旅をしているようなもんだもの。


 うっとうしい奴らだ始末しろってならない王様は、たぶん支配者には向いてない。万民に愛を解く宗教家にでもなればいいんじゃないかな。


「このハクゲンをシュクケイ様の根拠地としてお使いくだされ! 物資も食料も山ほどありますぞ!」


 興奮状態のビャク村長だ。

 思わず俺とシュクケイは顔を見合わせる。


 地図上に存在しちゃってる村を根拠地にしたら旗揚げと同じじゃん。すなわち独立宣言ね。


 太守だろうが国軍だろうが、絶対に座視はできない。

 間違いなく鎮圧に動くだろう。


 そういう危険を回避するためにシュクケイは潜伏を続けていたはずなんだ。お尋ね者ってだけなら軍隊が派遣されることはないけど、独立勢力になってしまったら反乱と同じだもの。

 戦だよ。戦。

 この村長さん、判ってるのかね。


 いや、すべて判ってやってるのか。だから槍なんか持参して決意を表明したってことだ。

 くえないじじいだなぁ。


「あのなぁ。村長。戦になったら遊びではすまん。多くの人が死ぬんだぞ?」

「承知しております。ですが黙っていても死ぬのを待つばかり」


 ぐいっと顔を近づけてビャクが語る。

 税の重さを、反乱鎮圧などにかり出される兵役のつらさを、耐えきれなくなって逃げ出した者の末路を。


 なんかセルリカ皇国も、ひどい状態だな。

 リントライト王国ほどじゃないけど、二歩三歩手前って感じだ。


「勝てるとは限らないんだぞ?」

「シュクケイ様は勝ちまする。我ら百姓(ひゃくせい)が味方についておりますれば」

「あのなぁ」


 がりがりとシュクケイが頭を掻く。

 百姓ってのは庶民とか平民とかそういう意味。ようするに高級官僚や太守、貴族にどれほど嫌われたって、民草はみんなあなたの味方だよと言っているのである。


「戦で泣くのは女子供なんだぞ」

「女子供なれば、今泣いておりまするぞ。口減らしのために花街に売られ、あるいは子の食事を買うために身を売り」

「…………」


 まじか。

 そこまでの状況なの? セルリカって。


 東大陸で一番の大国で、絹の国なんて呼ばれるくらい富み栄えているって印象だったんだけど。


「それともシュクケイ様にとっての正道とは、目に見える範囲にだけ手を差し伸べることなのですかな?」

「……わかったわかった。そんなに煽るな」


 大きなため息を吐き、シュクケイは右手を挙げてビャクの熱弁を制した。


 彼は、負けるからダメとは言っていない。

 勝算は立っているんだろう。


 たぶん覚悟の問題だったんだ。追放されたとはいえ、自分が仕えていた国に弓を引くかどうか。


 重い決断だよな。たとえば俺だったら、ロスカンドロス王を打倒するかどうかって話だから。

 生半可なことではないと思うよ。もちろん俺たちの王様は愚かでも悪逆でもないから、そういう事態にはならないけどね。






「さて。盛り上がっているところに水を差しちゃ悪いし、俺たちはそろそろお暇しようか」


 そう言って席を立とうとした俺の肩に、とんとシュクケイが手を置いた。


「『希望』というのは冒険者だから、依頼があれば動くんだよな。ライオネルどの」


 すっごい爽やかな笑顔で話しかけられるけど、その目は「ぜってー巻き込んでやるからな」って語ってる。

 そうなるよなぁ。


「ていうか母ちゃん! ここまで話を聞いて、それでも困ってる人たちを見捨てる気だったの?」

「軍神ライオネルとも思えない怯懦だよね!」

『ねー!』


 アスカが言い、コウギョクが同調し、最後は声まで揃えている。

 酔ってるなぁ。

 気が合ってるなぁ。

 英雄は英雄を知るって解釈で良いんだろうか。


「大丈夫ですよ。アスカ。母さんは他国の民だって見捨てたりしません。ただ、ひねくれてるので素直に「協力させてくれ」なんて言えないんですよ」

「ネルネルはぁ、ツンデレさんだからねぇ」


 ミリアリアとサリエリが笑う。

 なんだよツンデレって。謎言語で罵るのはやめてくれよ。

 泣いちゃうぞ?


「わたくしの胸でお泣きなさいな。ネルママ」

「オレの膝でも言いスよ」


 メイシャとメグがこいこいと手招きする。

 お前ら、俺をどこに誘おうとしているんだよ。


「愛されているな。ライオネルどの。むしろ俺も母上と呼んだ方がいいのか?」

「あんた俺より年上ですよね。シュクケイどの」

「些細なことを気にするなよ。母上」

「本当に呼ぶんかい」


 ぐっと差し出された右拳に、俺も自分のそれを軽くぶつける。

 こん、と。

 そしてそのままシュクケイは右腕を振り上げた。


「セルリカの憂いを祓う! 民たちは俺の味方であり、そして軍神ライオネルも合力を約してくれた! 正義は我にあるぞ!!」


 朗々たる宣言である。

 シュクケイ陣営の面々も、村の人々も、そして『希望』の娘たちも、一斉に「応!」と気勢を高めて拳を突き上げる。


 やれやれ、ついに他所様の国で反乱のお手伝いですよ。

 俺たちの人生、ちょっと波瀾万丈すぎるよな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み返してます。 >ガイリアでたとえるなら、 そこは、リントライト王国で例えようよ(笑)
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 >そりゃお尋ね者になっちゃうよね。 >ガイリアでたとえるなら、俺たち『希望』が王国政府や領主にダメ出しをしながら旅をしているようなもんだもの。 >うっと…
[一言] 軍師二人、劇薬となるか起爆剤となるか。
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