99話 門下生
アクセルとリナは、ソフィアを見て驚いている。
ソフィアもまた、二人を見て驚いていた。
「知り合い?」
「はい、そうですが……それよりも、まずは後始末を優先しましょう」
「あ、そうだね」
ソフィアに言われて、魔物の死体をそのままにしておいたことを思い出した。
焼却処分などをしておかないと、他の魔物を誘い出してしまうし……
最悪、アンデッドになって復活してしまう。
そうならないように、きっちりと処分しておかないと。
「あたしも手伝うわ」
「ありがとう、リコリス」
魔物の死体を一箇所に集めて……
そして、リコリスが魔法を使い燃やしてくれる。
威力は抜群。
周囲の気温がいくらか上がるくらい盛大に燃えた。
これならアンデッドとして蘇ることは絶対にないだろう。
その後は、怪我人の治療。
それと、念の為に周囲の探索。
それらを一通りこなした後……
僕達は、トンネルの途中に設けられている休憩所へ移動した。
そこで改めて自己紹介をした後、ソフィアとアクセル達の関係を問う。
「お嬢さまは、お嬢さまだな。あと、俺の恩人でもあるぜ」
「すごく強くて、ホントに同じ人間なのかしら? って疑う時があったわね」
と言う二人の説明に、
「あのですね……そのような説明では、なに一つ、理解できませんよ」
ソフィアが呆れていた。
うん。
二人には悪いのだけど、関係性がさっぱりわからない。
「ソフィア、どういうことなの?」
「まったく、私が説明するのが一番ですね……えっと、私が使う剣の流派は覚えていますか?」
「神王竜剣術、だよね?」
「はい。神王竜は各地に継承されていて、我が家、アスカルト家もその一つです。お父さまが免許皆伝となり、『剣王』を名乗ることを許されました」
『剣王』といえば、確か、『剣聖』の一つ下の称号だ。
単独でドラゴンを討伐できるほどの実力がなければ、与えられることはない。
「そして、お父さまはリーフランドで神王竜の道場を開いて、剣を教えることにしたのです」
「なるほど」
「娘の私も自然と剣を習うようになり、色々な方々と肩を並べて競い合い、切磋琢磨してきました。その中で、共に剣を学んだのが……
「俺と」
「私、っていうわけ」
「なるほど」
同じ言葉を繰り返して、ようやくソフィアと二人の関係性を理解することができた。
同じ道場で同じ剣を学んだ。
門下生。
ただし、師匠はソフィアのお父さん。
だから、お嬢さま、って呼んで敬っているわけか。
まあ、ソフィアのことを敬うのは、ただ単に師匠の娘だから、っていう理由だけじゃないだろう。
彼女が剣の道をほぼほぼ極めて、『剣聖』の称号を得るに至ったからだろう。
剣の道に触れて間もない僕だけど、ソフィアが成し遂げた偉業のすごさは理解できる。
「まさか、こんなところでお嬢さまと再会できるなんてなあ」
「うんうん、思ってもいなかったわね」
「私もです。てっきり、アクセルとリナは、まだリーフランドにいると思っていたのですが……免許皆伝に至ったのですか?」
「まさか。俺らは、お嬢さまみたいな天才じゃないからな。まだまだ修行の途中さ」
「師範から、各地を旅して武者修行をしてくるように言われたの。それで、不本意だけどアクセルと組んで旅をしていた、っていうわけ」
「おい、なんで俺と組むのが不本意なんだよ?」
「不本意に決まってるでしょ。ガサツで気遣いゼロ。猪突猛進で考えなし。何度、私が苦労させられたか」
「ぐっ……」
あからさまなため息をこぼすリナ。
しかし、アクセルは反論できない。
きっと、それなりに心当たりがあるのだろう。
「ケンカはダメ……だよ?」
アクセルとリナを見て、おろおろとした様子でアイシャがそう言う。
実際には軽口の応酬なのだけど、アイシャはケンカしているように見えたらしい。
出会ったばかりの二人のことを気にするアイシャ。
うん。
僕達の娘はすごく優しいな。
「親ばか」
僕の考えていることを見抜いた様子で、リコリスがため息をこぼした。
「おぉ……安心してくれ。俺らは、別にケンカしてるわけじゃないんだよ」
「そうそう、これはいつものことっていうか……とにかく、お嬢ちゃんが気にするようなことじゃないわ」
「そっか……よかった」
安心したらしく、アイシャがにっこりと笑う。
その笑顔に癒やされた様子で、アクセルとリナもほっこりとした笑顔に。
次いで、はたと気がついた様子で問いかけてくる。
「ところで……その子は?」
「もしかして、お嬢さまの娘さん?」
「ははっ、まさか。そんなわけないだろ」
「そうよね、そんなことあるわけないわね」
「「あはははっ」」
二人は笑い、
「アイシャは、私の自慢の娘ですよ」
「「……」」
ピシリ、と二人は石化した。
そのまま固まること五分。
「「娘ぇ!!!?」」
同時に我に返り、二人は大きな声で叫んだ。
驚いたらしく、アイシャがビクリと震える。
そんな娘を見て、ウチのアイシャを驚かせないでくれますか? と、ソフィアが殺気混じりに睨みつける。
「す、すんません……いや、でも、まさかお嬢さまに娘ができていたなんて……」
「思いもよらなかったから、さすがに驚いて……えっ、もしかして、相手は毎日のようにのろけていた幼馴染?」
「フェイトが相手……なのか?」
「うん、僕が父親かな。でも、僕とソフィアの血を引いているわけじゃないんだ」
簡単に話せるようなことじゃないので、詳細は省くものの……
アイシャを義理の娘として引き取ったことを説明した。
「なるほど、そういうことか……驚いた。めっちゃ驚いたわ」
「よくよく見れば、その子、獣人ね。お嬢さまもフェイトも普通の人間だから、二人が産んだ子供じゃないのは明白か」
「確かに、アイシャは私が産んだ子ではありませんが……でも、そんなことは関係ありません。出会ってからの時間も関係ありません。アイシャは、大事な大事な私の娘です」
「んっ」
ソフィアがアイシャを抱きしめる。
それをうれしそうに、アイシャが微笑む。
そんな二人は、紛れもない親子だと断言できた。
微笑ましい光景に、アクセルとリナは笑顔になり……
しかし、すぐに顔を曇らせる。
「どうしたのですか?」
「いや、お嬢さまに娘ができたことはうれしいんだけどさ……」
「師匠に知られると、かなり厄介なことになりそうだな、って……」
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