表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/520

97話 婚約者

「婚約……」

「者……?」


 僕とリコリスがぽかんとした。


「こん……やく?」


 アイシャは意味がわかっていない様子で、小首を傾げた。


「……」


 ソフィアに婚約者。

 なるほど……納得だ。


 ソフィアは剣聖。

 それだけではなくて、こんなにも綺麗で、性格は女神のよう。

 男は放っておかないだろう。


 でも……婚約?


「えええええぇっ!!!?」


 ようやくその事実を飲み込むことができて、僕は、ついつい驚きの声をあげてしまう。

 アイシャがビクッと震えてしまうものの、どうすることもできない。


「えっ、いや、えっ? ソフィア、結婚するの……?」

「ち、違います! 違いますからね!? フェイト、そういう勘違いはやめてください!」

「でも、その手紙には……」

「これは、あくまでもお父さまが勝手に決めたことです。私は、このようなふざけた話に同意なんてしていませんし、そもそも、今初めて知ったことです!!!」


 あたふたとソフィアが言う。

 ものすごく慌てているところを見ると、その言葉は真実なのだろう。


 というか、ちょっと涙目になっていた。


 その原因は……僕だよね?

 僕がソフィアを疑ったから。

 だから、彼女は傷ついて……


 うん、落ち着くことができた。

 というか、逆にひどく申しわけない気持ちになってきた。


「ごめんね、ソフィア……突然のことで慌てて、ソフィアを疑ったりなんかして」

「いえ……わかっていただければ、それで」


 ひとまず話を整理することに。


 ソフィアの知らないところで、勝手に婚約者が決められていた。

 ある程度話が進んだから、そろそろ家に帰ってこい、とのこと。


 ソフィアは僕達のことは知らせていないらしく……

 というか、それほど日が経っていないのでそんな機会はなくて、彼女の両親は僕達のことを知らない。

 だから、勝手に話が進められているのだろう、とのこと。


「そういえば……」


 おぼろげな記憶なのだけど。

 ソフィアのお父さんは、わりと強引な人だった。

 こうすることが教育に良い、と信じて、ソフィアに色々な無茶振りをしていたっけ。

 彼女が剣を習うことになったのも、ソフィアのお父さんの影響だ。


 そんな人だから、今回の件は不思議なことじゃない。


「なるほどねー、納得。ソフィアのパパって、頑固者なのね」

「まあ、そのような感じです」

「おかーさんのおとーさん……おじーちゃん?」

「そうですね、おじいさまになりますね。ただ……」


 ソフィアがとても苦い顔に。

 これからどうするのか、考えているのだろう。


「そうですね……うん。お父さまの勝手な妄言に付き合う必要はありませんね。行き先を告げていたため、今は私の居場所を知っているようですが、それもここまで。別の街へ移動してしまえば、後を追うことは難しくなるでしょう。誰かよこされても面倒ですし、さっそくこの街を出て……」

「それはどうかな、って思うよ」

「フェイト?」


 ダメ出しすると、ソフィアがなんで? というような顔に。


 別に、意地悪をしているわけじゃない。

 ソフィアと離れ離れになることを了承したわけでもない。


 ただ……


「そんなことをしたら、ソフィアは、二度とお父さんとお母さんに会えなくなるんじゃないかな?」

「それは……」

「別に、二人を嫌っているわけじゃないでしょ? 今回のことがなければ、ソフィアは、時々里帰りをするつもりでいたでしょ?」

「そう、ですけど……」

「なら、きちんと話をしないと。なにもしないうちから距離をとるなんて、ちょっと賛成できないかな」


 そう言ってから、僕は、チラリとアイシャを見る。

 その仕草、意図はソフィアにも伝わったらしく、唇を噛む。


 アイシャは、もう家族がいない。

 どれだけ会いたいと思っていても、決して会うことはできない。


 それなのに、無茶を言われただけで距離をとってしまうなんて、ダメだと思うんだ。

 アイシャのおとーさんとおかーさんである僕らだからこそ、そんな選択を取るわけにはいかない。


「……すみません。私が間違っていました」

「ううん、気にしないで。今の話はダメっていうだけで、きちんと話をするなら、僕達にできることはなんでも協力するから」

「あれ? あたしがいつの間にか数に加わってる?」

「協力してくれないの?」

「まあ、いいけどねー」


 気ままなリコリスだった。


「おかーさん」


 アイシャがソフィアをじっと見る。


「わたしも、がんばる。だから、おかーさんもがんばって」

「うぅ、アイシャちゃん……!」

「ふぎゅ」


 感極まった様子で、ソフィアはアイシャを抱きしめた。

 そのまま頭を撫でて撫でて撫で回す。


「ああもうっ、なんてかわいいんでしょうか! そして、なんて優しいんでしょうか! アイシャちゃん、天使です! 女神さまです!」

「あーうー」

「えっと……ソフィア? アイシャが困っているから、その辺に」


 力いっぱい抱きしめる、なんてことはしていないのだけど……

 どうしていいのかわからない様子で、アイシャはひたすらに困惑していた。


「あっ……ご、ごめんなさい、アイシャちゃん」

「んーん。おかーさんにぎゅっとしてもらえて、うれしかった」

「はうっ」


 アイシャの無垢な笑顔にやられた様子で、ソフィアは胸元に手をやる。


 そのまま倒れてしまいそうな勢いだけど……

 なんとか我慢して、話を元に戻す。


「と、とにかく……別の街へ移動して行方をくらませる、という方法はなしにします」

「うん、それがいいと思うよ」

「なので……直接、お父さまと話をして、今回の件を撤回してもらいます」

「直接、ってことはソフィアの故郷に行くわけ? そういえば、ソフィアの故郷ってどこなの?」


 リコリスが小首を傾げた。

 次いで、アイシャも小首を傾げた。


「私の故郷は、この中央大陸の南……山脈を超えた先にある、リーフランドです」


 草と花の街、リーフランド。

 そこがソフィアの故郷だ。

『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 96話で…私のすることなすこと、全部、反対してくるのです。剣を学ぶと言った時も、どれだけ反対されたか とあるのに 97話ではお父さんの影響で剣を習い始めたとあって んー??少し気になっ…
[一言] 相手は外面だけはいいゲス男なんだろうなぁと予想
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ