94話 おとーさん、おかーさん
「……というわけで、今日から、アイシャちゃんは私達の娘です!」
突然、ソフィア達が僕の部屋にやってきて……
そんなことを言う。
ぼーっとする僕を見て、ソフィアが不安そうな顔に。
「もしかして、フェイトは反対ですか……?」
「いや、そんなことはないんだけど……」
あまりに突然のことだから、ちょっと驚いているだけ。
とりあえず情報を整理した後、アイシャを見る。
かがんで目線を合わせる。
「アイシャは、僕達の子供になりたいの?」
「……うん」
アイシャは迷うことなく、コクリと頷いた。
どこかすがるように、こちらを見る。
「……一緒にいたい……」
庇護欲がそそられるというか。
同じく、一緒にいたいと思うというか。
ダメだ。
無条件でアイシャの言うことを聞いてしまいそうになる。
でも、その前に確かめておかないと。
「答えにくいことを聞くよ? アイシャの……本当のお父さんとお母さんは?」
「……」
アイシャは無言で首を横に振る。
「そっか……僕は、アイシャの里を探して送り届けようと思っていたんだけど、里は?」
「……」
再び、無言で首を横に振る。
今のアイシャは、なにもない……ということか。
「うぅ……かわいそうです……」
「苦労してきたのね……」
後ろの方で、ソフィアとリコリスが泣いていた。
気持ちはわかるけど、雰囲気が台無しというか、大事な話をするのだからというか……うーん。
でも、僕達はこんな感じでいいのかも。
相手のことを考えて、心に寄り添い、同じ想いを抱く。
そうやって一緒にいることは、たぶん、とても大切なことだと思うから。
「ごめんね、辛いことを思い出させて」
「……ううん」
「でも、そういうことなら僕は歓迎するよ」
「あ……!」
ぱあっ、とアイシャの顔が明るくなる。
「ただ、僕の方が不安というか……アイシャは、僕なんかが親でいいの?」
「うん」
またの即答。
ちょっとうれしい。
「そっか。じゃあ……おいで」
「んっ!」
両手を広げると、アイシャが勢いよく飛び込んできた。
甘えるつもりだったのだろうけど、加減がよくわからないのだろう。
少し押されてしまうのだけど……
でも、これくらいで倒れてしまうほど弱くはない。
日頃からソフィアに鍛えてもらっているし……
なによりも、倒れたらアイシャを怪我させてしまうかもしれない。
腕の中のアイシャを抱きしめて、次いで、頭を撫でる。
アイシャは気持ちよさそうに目を細めて、犬耳をひょこひょこと動かして、尻尾をぶんぶんと左右に振る。
「じゃあ、今日から、アイシャは僕達の娘だ」
「うん」
「よろしくね、アイシャ」
「うん!」
アイシャの満面の笑み。
それを見ると、なんだか不思議な気持ちに。
心が温かくなるというか、際限なく幸せになるというか。
自然と笑顔になる。
「えっと、えっと……」
「どうしたの?」
「……おとーさん」
「うぐっ」
上目遣いに、アイシャがそんなことを言う。
ものすごくかわいい。
かわいすぎて、なんかもう、心臓がどうにかなってしまいそうだ。
「おかーさん」
続いて、アイシャはソフィアを見て、そう言い……
「はうっ!?」
ソフィアは失神しそうになっていた。
剣聖を失神させかけるなんて……
アイシャは、実はとんでもない子じゃないか?
「えっと……」
アイシャは、リコリスを見て迷っていた。
お父さんは俺。
お母さんはソフィア。
なら、リコリスは?
「あたしのことは、リコリスお姉ちゃんと呼びなさい!」
「リコリス……お姉ちゃん」
「ふぎゃ!?」
胸の辺りに手をやり、リコリスがふらふらとなり、そのまま墜落した。
アイシャのかわいさは、妖精にも通用したらしい。
「ど、どうしたの……?」
俺達の様子を見て、アイシャが慌てる。
それはそうだ。
呼んだだけで次々と倒されていくのだから、不安にもなるだろう。
「大丈夫……うん、大丈夫。ただちょっと、アイシャがかわいすぎるだけだから」
「そうですよ、問題ありません。むしろ、これから、こんなにかわいいアイシャちゃんにおかーさんと呼んでもられるなんて、幸せしかありません」
「ふっ、うふふふ……お姉ちゃん、リコリスお姉ちゃん……くふっ」
「ふぁ……?」
傍から見ていれば、かなりよくわからない光景になっていたのだろうけど……
とにもかくも、僕達は、この日家族になった。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




