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90話 ひしっ

「リコリス、アイシャ。大丈夫? 巻き込まれたりしていない?」


 ドクトルを拘束した後、二人のところへ。


 見た感じ、怪我とかはしていないみたいだけど……

 骨にヒビが入っているとか、そういう怪我は見た目だけじゃわからないから、二人にそう聞いた。


「あたしは大丈夫よ。超絶天才可憐美少女妖精のリコリスちゃんが、こんなところで怪我なんてするわけないじゃない。ちびっこも、たぶん平気よ。ね?」

「ん……」


 リコリスの問いかけに、アイシャは小さく頷いた。

 我慢をしているとかそういう風には見えないから、大丈夫なのだろう。


「うぅ……んっ!」


 ひしっ、とアイシャが抱きついてきた。


「アイシャ?」

「んーっ」


 離してたまるものか、というような感じで、俺の腰に手を回している。


 どうしたのだろう?

 不思議に思うのだけど、すぐに理解する。


 彼女は小さく震えていた。

 怪我はしていない。

 でも、色々と怖い目にあって、大変な目にあって……

 緊張の糸が途切れたらしく、今、とても心細いのだろう。


「うん。もう大丈夫だよ、大丈夫」


 アイシャを抱き上げて、その頭をぽんぽんと撫でる。


「うぅ、うううー」


 犬耳をぴょこぴょこ。

 ふさふさで大きい尻尾をこちらの体に巻き付けてくる。


 それだけ不安で、離れたくないっていうことかな?


 これくらいならいくらでも。

 そう伝えるように、アイシャの頭をぽんぽんと撫で続けた。

 ついでに、ぎゅうっと抱きしめた。


「ふふっ」

「あら、意外な反応ね。ソフィアのことだから、てっきり、嫉妬するかと思ったんだけど」

「失礼なことを言わないでください。いくらなんでも、あんな小さな子に嫉妬しません」

「そうは見えないのよねー」

「まあ……否定はできませんが」

「やっぱり」

「ただ、アイシャに関しては、本当になにも思っていないのですよ? むしろ、フェイトとああしていると、とても微笑ましく感じられて……出会ったばかりですが、私もアイシャのことが好きなのでしょうね」

「ふーん……ま、その気持ちはわかるかもね。あたしも、あの子を見てると、なんかうれしくなるもの」


 そんな二人の会話が聞こえてきた。

 アイシャも耳にしているらしく、尻尾がぶんぶんと大きく揺れる。

 照れて、喜んでいるみたいだ。


「さてと……いつまでもこんなところにいないで、外に行こうか。ソフィア、他に捕まっていた人達は逃がしたんだよね?」

「はい、そうですね。きちんと安全は確保してあるので、たぶん、クリフが保護してくれていると思います」

「よし。それじゃあ、後はドクトルだけど……」


 ちらりと、倒れたままのドクトルを見る。


「あれもクリフに任せていいかな?」

「それで構わないと思いますよ。今回、私達は働きすぎましたからね。後始末くらい、きちんとやってもらいましょう」

「あはは、そうだね」


 そんな話をしつつ、地下を後にして地上へ。


 地上は……大混乱だった。


「くそっ、なんでこんなところに……離せっ、離しやがれ!」

「おとなしくしろ、もう逃げ場はないぞ!」

「逃がすな! 一人たりとも逃がすな!」


 クリフはしっかりと突入を実行してくれたらしく、あちらこちらで散発的な戦闘が起きていた。

 地上の敵はまるで排除していなかったから、苦戦しているらしい。


 安全な場所を求めて地上に出たはずなのに……

 これじゃあ意味がないな。


「まったく……これくらい、短時間で制圧してもらわないと困りますね。クリフは、今度、説教をしなければなりませんね」


 どこか冷たい顔をしつつ、ソフィアは予備の剣を抜いた。

 クリフを援護するというよりは、アイシャを危険に晒すことを嫌っているのだろう。


「フェイトは、アイシャとリコリスを頼みます。私は、すぐにこの辺りを静かにさせてきます」

「うん、がんばって。あと、一応、気をつけて」


 もしかしたら、ドクトルのように魔剣を持つ人がいるかもしれない。

 その可能性は限りなく低いと思うけど……

 あんな予想外の事態に遭遇した以上、気をつけるに越したことはないだろう。


「はい、任せてください。アイシャも、いい子にして待っているんですよ?」


 ソフィアはにっこりと笑い、アイシャの頭を撫でて……


「ん……がん、ばって?」


 アイシャもまた、ソフィアに応えるかのように、小さな手でそっと手を振る。


 その愛らしい仕草にハート撃ち抜かれたらしく、ソフィアがくらりとよろめいた。


「うぅ、なんてかわいらしいのでしょう……フェイト。後で、私にも抱っこをさせてください」

「えっと……アイシャ次第?」

「んっ」

「約束しましたよ? 必ず抱っこですからね!?」


 アイシャがコクリと頷くと、ソフィアがものすごい勢いで詰め寄る。

 アイシャがかわいいから、少し壊れてしまったみたいだ。


「さて……私の幸せのために、未だに抵抗を続ける愚かな人は、その罰を受けてもらいましょう」


 ソフィアは不敵に笑い、剣を構えた。


 その後……

 ソフィアは鬼神のような活躍をして、敵だけじゃなくて味方からも恐れられてしまうのだけど、それはまた別の話だ。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりの王道アイシャからめて頑張ってほしい [気になる点] アイシャはいぬ耳なのかねこ耳なのか
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