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87話 悪しき力

 この技は、さきほどは通用しなかったのだけど……

 でも、今回は違う。


 ソフィアがいる。

 それに、完璧なタイミングで攻撃を重ねてみせた。

 威力は数倍に引き上げられているはず。


 これでダメとなると、正直、お手上げだ。


「……やってくれましたね」


 ドクトルは左肩の辺りを血に染めて、少し体をふらつかせていた。


 よし。

 決定的なダメージじゃないけど、それでも、絶対無敵と思われていた防御を突破することができた。

 これは、かなりの希望だと思う。


「この私に、これだけの屈辱を与えるなんて……! 絶対に許せませんねえ。まずはその手足を切り落として、それから、泣いて殺してくださいと懇願するまで……」

「うるさいですよ」


 戯言を聞く必要はない。

 そう告げるかのように、ドクトルがあれこれと喋る中、ソフィアが動いた。


 その動きは超速。

 目に止まらぬ速さで、縦横無尽に戦場を駆ける。


「くっ、ちょこまかと……!」


 ソフィアは自由自在に駆け抜けて、前後左右と、ありとあらゆる角度からドクトルを斬りつける。

 僕もタイミングを見計らい、彼女の援護に回る。


 未だ、ドクトルに決定的な一撃を与えることはできていない。

 それでも、戦況は僕達に傾いてきた。

 この場を支配しているのは、僕でもドクトルでもない。


 ソフィアだ。


 さすが、剣聖。

 さすが、世界で一番信頼している幼馴染。

 彼女がいれば、なんでもできるような気がした。


「フェイト、このまま一気に押し込みますよ!」

「了解!」


 僕達は勢いづくが……


「このっ……舐めるなクソガキ共がぁあああああああっ!!!!!」


 ドクトルは目を血走らせながら、喉を震わせるようにして叫んだ。

 その雄叫びに呼応するように、魔剣に異変が生じる。


 刀身から黒い霧のようなものがあふれ出した。

 それは己の意思を持つかのように、ドクトルの体にまとわりついていく。


 まるで、主を守護する獣のようだ。


「これは……!?」

「フェイト、気をつけてください……すごく嫌な予感がします」

「うん、了解」


 僕でもわかる。

 ドクトルから放たれる圧が数倍に増して……

 それだけじゃなくて、彼がまとう気配は人のものではなくて、もはや魔物のそれに近い。


 殺気を何倍にも凝縮したかのような、ひたすらに黒い感情。

 そして、鋭く鋭く寒気がするほどの闘気。


「コロスッ!!!」


 魔剣の影響なのか、ドクトルは瞳を赤く輝かせながら突撃してきた。


 その速度はかなりのものだけど、ソフィアに比べると遅い。

 幸い、僕でも対応できるレベルだ。


 ただ……


「くっ!?」


 背中がゾクリと震えた。

 死の予感。


 僕はドクトルの魔剣を受け止めず、大きく距離をとって回避する。


 ドクトルは魔剣を振り抜いた。

 刃はなにもない空間を断つのだけど……

 近くにあった石の柱が両断された。

 まるでバターを切るかのように、あっさりと、なにも抵抗なく両断される。


「威力が上がっている!?」

「フェイト、絶対に受け止めないでください! その雪水晶の剣でも……いえ。私の聖剣でも、今のドクトルの魔剣を受け止められるかどうか」


 刃を交わしたら最後。

 そのまま、刃ごと斬られてしまうだろう。


 なんて厄介な。

 防御をすることができず、ひたすら回避に徹するしかないなんて。


 いや……それだけじゃない!?


「オオオオオォッ!!!」


 ドクトルの雄叫びに呼応するかのように、黒い霧が嵐のようにうごめいた。

 黒い霧は、刃と同じ性質を持つのだろうか?

 荒れ狂う黒い霧に触れた床や壁が、ガリガリと削られていく。


 近づけば、防御不可能の魔剣。

 距離をとれば、黒い霧で削られる。


 なんてヤツだ。

 こんなことができるなんて、完全に人間を辞めている。

 これが魔剣の力なのか。


「くうっ……!?」


 ソフィアは、ドクトルといくらかやりあい、戻ってきた。

 魔剣は真正面から受け止めず、刃を横にして、滑らせるようにして軌道を逸らす。


 そうすることで直撃を全て避けていたものの、しかし、その分動作が大きくなり、隙も多発してしまう。

 いくらかカウンターは叩き込んだみたいだけど、それ以上は難しい様子で、ソフィアは一度退いていた。


「これは、本当に厄介ですね……」


 そう言うソフィアの言葉からは、焦りが感じられた。

 彼女が焦っているところなんて初めて見る。


「……フェイト」

「なに?」

「いざという時は私が盾になるので、アイシャとリコリスを連れて逃げてください」

「それは断るよ」


 即答すると、ソフィアが怒るように言う。


「ドクトル……というよりは、あの魔剣は想像以上の怪物です。私でも、うまく対処できるかどうか……ですから、いざという時は」

「だから、それはダメ」

「どうして!?」

「僕は、もう二度とソフィアと離れたくないよ」

「そ、それは……」

「それに、諦めるなんてソフィアらしくないと思うな」

「ですが、相手は……」

「確かに、剣聖であるソフィアでも対処できないかもしれない。でも、二人ならなんとかなる」

「あ……」

「僕とソフィアが一緒になれば、できないことはないと思うんだ。それは、思い上がりとかじゃなくて……真実。僕は、そう思っているよ。大丈夫。僕とソフィアが力を合わせれば、倒せない敵はいない」

「……はい、そうですね。その通りですね。私としたことが、未知の敵を相手にしたことで弱気になっていたみたいです……ありがとうございます、フェイト」

「ううん、どういたしまして」

「では……」


 改めて、ソフィアが聖剣を構える。

 僕も雪水晶の剣を構えた。


「二人で一緒に……」

「戦おう!」

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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