86話 二人で
「ソフィア!」
いつの間にかソフィアの姿が。
いつ、どのタイミングで乱入してきたのか、まったくわからない。
ただ一つ言えることは、彼女のおかげで命拾いしたということだ。
「ありがとう、助かったよ」
「いいえ。これくらい、なんてことはありません。それよりも……」
ソフィアは剣を構えて、ドクトルを睨みつける。
「アイシャをひどい目に遭わせるだけではなくて、フェイトまで手にかけようとするなんて……許せませんね」
ソフィアが駆けた。
風よりも……いや、音よりも速い。
その姿は幻のように消えて……
次の瞬間、ドクトルの真横に移動していた。
そして、剣聖による全力の一撃。
しかし、敵もやる。
ドクトルは魔剣を盾にして、ソフィアの一撃を受け止めた。
やや反応が遅れていたが、それでも、直撃は避けられた。
ゴ……ガァアアアッ!!!
轟音と共にドクトルが吹き飛び、奥の壁に激突。
クモの巣のように壁にヒビが入る。
「すご……」
後ろでリコリスが小さくつぶやくのが聞こえた。
ソフィアは、ちょっと自慢そうに胸を張る。
「もう大丈夫ですよ。あのような不届き者は、私が退治して……」
「いや……ソフィア、ダメだよ。まだ終わっていない」
「え?」
ドクトルは体を起こして、軽く頭を横に振る。
そして、小さな吐息。
「さすが剣聖ですね。今の一撃、なかなかに堪えましたよ」
「私の攻撃に耐えた……?」
「ソフィア、気をつけて。ドクトルは凄腕の冒険者っていうだけじゃなくて、魔剣っていう、恐ろしい力を手に入れている。その正体はよくわからないけど……ソフィアが持つ聖剣に匹敵する力がある、って言っていたよ」
「……なるほど。魔剣というのは初耳ですが、厄介な相手というのは理解しました」
そう言うと、ソフィアは剣を収める。
代わりに、聖剣エクスカリバーを抜いた。
それは、剣聖ソフィア・アスカルトが本当の意味で本気を出すということ。
「フェイトは……」
「もちろん、僕も一緒に戦うよ」
ソフィアの隣に並び、改めて雪水晶の剣を構える。
「ですが……」
「足手まといにならないように気をつけるから」
「……」
「一緒に戦おう?」
「……はい、わかりました。私の方こそ、お願いします」
「うん」
僕は弱いかもしれない。
ソフィアに比べたら、その力は取るに足らないのかもしれない。
でも。
一緒にいることで、サポートはできるはずだ。
それは、現実的な力の問題だけじゃなくて……
精神的な、心の問題のサポート。
思い上がりでもなんでもない。
あえて断言する。
僕と一緒に戦うことで、ソフィアは、さらにパフォーマンスを上昇させることができるはずだ。
それが、僕とソフィアの絆だ。
「二人でいきましょう」
「うん」
ソフィアと一緒に床を蹴る。
僕は右から
ソフィアは左から。
ドクトルを挟み込むようにして、突撃した。
「ふんっ、甘いですねぇ! 甘い甘い甘い!!!」
ドクトルは魔剣を真横に構えて、僕とソフィアの同時攻撃を受け止めてみせた。
僕はともかく、本気のソフィアの攻撃を受け止めるなんて……
これは、思っていた以上の強敵かもしれない。
厄介な相手という認識はあったけれど、まだまだ足りず……
もっと上方修正した方がよさそうだ。
一度、ソフィアと揃って距離をとる。
「ソフィア。ドクトルは、自分より上と考えた方がいいかもしれない」
「それほどの相手なのですか?」
「少なくとも、僕よりは圧倒的に上。あの魔剣がものすごく厄介で、とんでもない力をドクトルに与えているんだ」
「……わかりました。手加減抜き、本気でいきます」
「うん、がんばろう」
作戦会議といえば、それくらい。
細かい打ち合わせをしても、ドクトルほどの強者だとあまり意味がない。
予想外の攻撃が飛んでくるだろうし、とっておきの切り札を隠しているはず。
臨機応変に対応するしかないのだ。
「はぁあああ!!!」
最初にソフィアが斬りかかる。
剣聖の力を乗せて、さらに、聖剣エクスカリバーの痛烈な一撃だ。
さすがに、これを避ける術はない。
ドクトルは魔剣を横に構えて、ソフィアの攻撃を受け止めた。
そのタイミングで僕はドクトルの横に回り込み、脚を斬りつける。
ガッ!
手が軽く痺れる。
剣は鎧に弾かれてしまうが……
それでも、ある程度の傷をつけることができた。
致命傷でもないし深手でもない。
軽傷。
それでも、小さな痛みが動きを阻害することもある。
「フェイト、一緒に!」
「うん!」
ソフィアがドクトルを吹き飛ばす。
ソフィアは駆けて、追撃をしかける。
僕もそれに合わせる。
「神王竜剣術……」
「壱之太刀……」
同時に剣を繰り出す。
「「破山っ!!!」」
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