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85話 本気

 さきほどよりも早く、鋭く踏み込む。

 二倍……いや、三倍くらいだろうか?


 それくらいの速度でドクトルに迫る。


「はぁっ!!!」


 剣を縦に振り下ろす。

 自分でも、これはかなりものだ、と思えるくらいの一撃。


 しかし、ドクトルには届かない。

 体を軽く動かすだけで、絶妙なタイミング、間合いで回避されてしまう。


 反撃は……ない。


 ドクトルはニヤニヤと笑うだけで、回避に専念していた。

 たぶん、バカにしているのだろう。

 お前の力なんてたいしたことはない、その剣が届くことはない。

 だから、諦めてしまえ。


 そんなところだと思う。


 でも、絶対に諦めてやるものか。

 その余裕、慢心が失敗だって教えてやる。


「ほらほら、どうしたのですか? 私を倒すのでは?」

「倒してみせるよ!」


 何度も何度も剣を振る。


 縦に。

 横に。

 斜めに。

 真正面に。


 ありとあらゆる角度から斬撃……時に、突きや薙ぎを織り交ぜて叩き込む。

 剣筋はデタラメなのだけど、手数は相当なものだと思う。

 これを防ぐことができる人物は、身近ではソフィアしか思い浮かばない。


 それなのに……届かない。

 ドクトルは全ての攻撃を防いでみせる。


「ふむ、悪くない」

「くっ」

「ただ、まだまだですね。その身体能力は恐ろしいとさえ思うが、しかし、技術がまるで伴っていない。なればこそ、この私と魔剣の力に届くことはない」

「……それはどうかな?」

「なに?」


 確かに、僕の技術は拙い。

 ソフィアは身体能力を褒めてくれたけど、剣技については、まだ合格をもらったことがない。


 だから、手数で攻めるしかない。

 がむしゃらに剣を振るうしかない。


 ただ、それだけで勝てるなんて勘違いはしていない。

 手数を増やしても足りないことはわかりきっていたことなので、一つ、罠にハメてやることにした。


 その罠というのは……


「なっ!?」


 ドクトルの驚きの声。

 壁面に設置された巨大な灯りが、ドクトルに向けて倒れてきた。


 僕は、ただ単にがむしゃらに剣を振っていたわけじゃない。

 数撃に一度の割合で、こっそりと壁面に設置された灯りを支える台を傷つけていた。


 そして、ドクトルをそちらへ誘導。

 タイミングを見計らい、台を破壊して奇襲へ導いた……というわけだ。


「この!」


 無論、こんなことで倒せるなんて思っていない。

 ドクトルは魔剣を振り、自分の体ほどもある巨大な灯りを粉々に砕いてみせた。


 なんていう威力。

 なんていう技量。

 素直に恐ろしいと思う。


 ただ……今は隙だらけだ!


「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!!!」


 今の僕が持つ、最大最強の技を叩き込む。


 ゴガァッ!!!


 強烈な破壊音。

 衝撃波が撒き散らされて、土煙が舞う。


 これならば……と思うのだけど、すぐにその考えを捨てた。

 ドクトルは、元凄腕冒険者。

 おまけに、魔剣という得体のしれない力を手に入れている。

 これで終わってくれるような簡単な相手じゃないだろう。


 僕は後ろへ跳んで距離を取る。

 剣を構えて、いつでも動けるように、ドクトルがいた場所を睨みつける。


「……」


 ほどなくして土煙が晴れて……

 無傷のドクトルが姿を見せた。


「うそぉ……」


 あれで終わりとは思っていなかったけど、それでも、多少のダメージは与えたはずと思っていた。

 思っていたんだけど……


 まさか、まったくの無傷だなんて。


 これは……やばい。

 ゾクリと背中が震える。


「……やってくれましたね」


 ドクトルの声には怒りが満ちていた。

 ダメージこそないものの、僕にしてやられたことで、プライドがひどく傷ついたらしい。


 こちらを睨みつけてくる。

 その瞳は殺気が乗せられていて、気の弱い人ならそれだけで失神してしまいそうだ。


「今のは危ないところでした。魔剣の力がなければ、私はキミにやられていたでしょう」

「……できれば、そのままやられてほしかったんだけど」

「それはできない相談ですねえ。しかし……惜しい、実に惜しい」


 ドクトルの怒気がさらに強くなる。


「キミならば、私の片腕となれたかもしれないのに……そんなキミを殺さないといけないなんて」

「くっ……!」

「この私に、一瞬でも恐怖を与えた罪は重いっ!!!」


 僕は勘違いしていた。


 ドクトルは……まだ本気を出していなかった。

 犬や猫を相手にするように、遊んでいただけだった。


 ドクトルの姿が消える。

 あまりの速さで、僕では視認することができない。


 なにもできないまま、なにもわからないまま、僕はドクトルの凶刃を受けて……


 ギィンッ!


「大丈夫ですか!?」


 死角からの攻撃を、咄嗟に割り込んできたソフィアが受け止めた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ソフィア登場! 最近は割と自己解決する物語が多いですが、こちらの主人公は自分に技術が足りてないとか実感してるのよいですねえ!
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