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84話 魔剣

 魔剣?

 ティルフィング?


 そんなもの聞いたことがない。

 名前からして、聖剣と似たようなものなのだろうか?


 よくわからないけど、警戒するに越したことはない。

 僕は剣をしっかりと構え直して、ドクトルの動きを注視する。


 注視していたのだけど……


「さあ、死になさい!」

「……え?」


 気がつけば、ドクトルが目の前に迫っていた。


 速いなんてものじゃない。

 時間を止められたかのように、気がつけば目の前にいて……

 彼の動きを目で追うことができない。


 ゴォッ! と斬撃が迫る。


 受け止め……ダメだ!

 そんなことをしたら死んでしまう。


「くぅっ!!!」


 僕は、咄嗟に予備の剣を抜いて、デタラメに、しかし全力で迎撃する。


 予想通りというか、持ちこたえられたのは一瞬だけ。

 予備の剣は負荷に耐えることができず、半ばからへし折れた。


 ただ、ドクトルの斬撃を一瞬ではあるけれど、遅らせることに成功。

 その一瞬で、僕は体を安全地帯に逃がした。


「このっ!」


 逃げに回っていたら、ドクトルを倒すことができない。

 それ以前に、ヤツの攻撃を止めないと。

 このまま一気にたたみかけられれば、そのまま押し切られてしまう。


 そう判断して、最後の予備の剣で斬りかかる。


「神王竜剣術・壱之太刀……」


 ありったけの力を込めて。

 今の自分にできる最大の技を叩き込む。


「破山っ!!!」


 殺してしまうかも、ということを考えている余裕はない。

 全力で挑まなければ、逆こちらが喰われてしまう。


 そんな死の予感があった。


 だから、全力を出したのだけど……


 ギィンッ!


 再び刀身が根本から折れて……

 それだけに終わらず、長年雨ざらしにしたかのように、ボロボロと崩れていく。


 いったい、なにが!?


 理解するよりも先に、ドクトルが動いた。

 口元に冷たい笑みを貼りつけつつ、魔剣と呼ぶ漆黒の剣を振る。


 一撃目は上体を逸らすことで回避。

 続く二撃目は、そのまま体を横に傾けて、倒れるようにして避ける。


 しかし、三撃目。

 こちらは体勢を完全に崩しているため、これ以上、体を逃がすことはできない。


 この剣でもダメだとしたら……!


 半ば祈るような思いで、雪水晶の剣を抜いて、ドクトルの魔剣を受け止めた。


 まるで巨岩を受け止めたかのよう。

 予想以上の圧に押し切られて、潰されてしまいそうだ。

 それでも踏みとどまり、全身の力を振り絞り対抗する。


「こっ……のぉおおおおお!!!」


 両足でおもいきり地面を蹴る。

 さらに上半身を前に倒すようにして、ドクトルの剣を押し返した。


 多大な負荷がかかっているはずなのに、雪水晶の剣はなんとか耐えてくれて……

 かろうじて、ドクトルの剣を弾き返すことに成功する。


「へぇ、なかなかやりますねえ。まさか、魔剣の力を弾き返すとは」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……その剣は、いったい?」

「ふふっ、おもしろいでしょう? 単に切れ味が鋭いだけではない。持ち主に絶大な力を与えてくれる、最強の剣なのですよ。そう、これこそが魔剣!」

「そんなものが……」


 なるほど、と納得する。

 ドクトルは元凄腕の冒険者というが、引退してそれなりの時間が経っているはず。

 日々、稽古をしていたとしても、これだけ戦えるのはおかしい。


 その魔剣が力を与えているのだとしたら、納得だ。


 とはいえ、そんなものがあるなんて、聞いたことがないんだけど……

 ソフィアが持つ聖剣でさえ、持ち主の能力を強化するなんてことはない。


「惜しむべきは、これでもまだ、本来の力を発揮していないところでしょうか」

「それだけの力がありながら、まだ不完全だって……?」


 恐ろしい。

 思わず体が震えてしまう。


 でも、それだけじゃなくて……

 なんとしても、ここでドクトルを止めないと、という気持ちが湧き上がる。


「フェイト、そんなヤツ、さっさとやっつけちゃえー!」


 リコリスの声援が飛んできた。

 不思議なもので、一人じゃないと思い、まだまだがんばろうという気持ちになる。


「ストレングス!」


 体が淡い光に包まれた。

 若干、体が軽くなったというか、力が湧いてくるというか……

 これはいったい?


「身体能力を強化する魔法をかけたわ! 大幅なパワーアップとはいえないんだけど、でも、ないよりはマシでしょ?」

「うん。ありがとう、リコリス」


 これならなんとかなるかもしれない。

 雪水晶の剣をしっかりと構える。


「準備は終わりましたか?」


 ドクトルは、万全の状態の僕を叩きのめしたいのだろう。

 わざわざこちらの体勢が整うのを待っていた。


 ニヤニヤとした笑みは、悪意に満ちている。


 負けてたまるものか。

 こんな男を野放しにしておけないし……

 なによりも、アイシャのために。


 彼女を自由にするため、今ここで、ドクトルの野望を打ち砕く!


「いくぞっ!」


 僕は気合を入れ直して、床を蹴る。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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