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80話 不可視の攻撃

 アイシャをおんぶしたフェイトが会場の外に出た。


「今は放っておけ」


 用心棒のどうする? というような視線を受けて、ファルツがそう答えた。

 その視線はソフィアから外れていない。


「あのガキの確保が最優先と言われているが……しかし、ここでコイツに背を向けるわけにはいかん。女だが、剣聖の称号を持つからな」

「女だから、というのは、今時遅れた考え方ですよ?」


 ソフィアは不敵に笑い、剣を抜いた。

 聖剣ではなくて、普段から愛用している剣だ。


 あなたごとき、これで十分。

 そんな挑発が込められているのだけど、しかし、用心棒は無反応。

 怒ることはなく構えて、与えられた任務を淡々とこなそうとする。


 ……厄介な相手ですね。


 ソフィアは心の中で苦い表情を作る。

 挑発に乗るような相手なら、簡単に倒せただろうが、そういうわけにはいかないらしい。


「殺せ」


 ファルツの命令と共に用心棒が動いた。

 蜃気楼のようにその姿が消えて、風のごとき速さで側面に回り込む。


 しかし、素早いだけでソフィアの目をごまかすことはできない。

 ソフィアは左足を軸にして、体を九十度回転。

 用心棒を真正面に捉える。


 剣を構えて、踏み込む。

 そのまま、人の目に視認できないほどの速度で突撃を……


「っ!?」


 しようとしたところで、ソフィアはゾクリとした悪寒を覚えた。

 このままだとまずい。


 直感に従い、突撃は中止。

 さらに後ろに跳んで逃げる。


 ピリッとした刺激が頬に走る。


 ソフィアは視線を前に向けたまま、指先で頬を拭う。

 いつのまに切れていたのか、血が流れていた。


「いったい、なにをしたのですか?」


 用心棒も剣を構えている。

 しかし、彼の間合いに入っていないし、遠距離攻撃をしかけられた覚えもない。


「俺の攻撃は不可視の斬撃……」

「不可視の?」

「今は、運良く避けられたみたいだが……果たして、幸運はいつまで続くかな?」


 用心棒は不敵に笑う。


 その様子を見て、ソフィアは違和感を覚えた。

 なにかがおかしい。

 そう思うものの、具体的な箇所を指摘することはできない。


 なんだろう?


 モヤモヤとした感を抱く。

 ただ、今はじっくりと考えている余裕はない。


 用心棒は急加速。

 風のように距離を詰めてきて、その手に持つ剣を横に薙ぐ。


 速い。

 並の冒険者なら、なにが起きたかわからずに死んでいるだろう。

 ベテランの冒険者でも回避することは難しく、ある程度の傷を負わされているだろう。


 しかし、ソフィアにとってはなんてことのない一撃だ。

 正確に剣筋を見極めて、体を安全な位置に逃がして回避。

 カウンターの一撃を……


「くっ……!?」


 再び悪寒を覚えた。


 カウンターの突きを中断。

 強引に体を捻り、横へ跳んだ。


 それが幸いした。

 さきほどまでソフィアが立っていた場所を、なにかが通り抜けるのをハッキリと感じた。


 ビシリ、と床に剣撃の跡が刻まれる。

 用心棒の言う不可視の斬撃が走り抜けたのだろう。


 確かに見えない。


 ソフィアは動揺することなく、冷静に事実を受け止めた。

 そして、攻撃は中止。

 回避に専念をして、分析を徹底する。


 用心棒が言うように、確かに剣は見えない。

 不可視の斬撃という言葉は正しい。


 しかし、見えないからといって、絶対無敵というわけではない。

 攻撃の予兆……

 空気を裂くわずかな感覚を察知することで、回避が可能。


 不可視の斬撃は特別速いわけではない。

 用心棒の剣速と同程度。

 また、攻撃範囲も変わらない。


 見えないというだけで、その他は、普通の剣となにも変わらないのですね。


 そう判断するソフィアではあるが、攻めていいものかどうか、判断に迷う。


 不可視の斬撃の効果範囲など、だいたいのところを推測することはできた。

 しかし、それが本当に正しいかどうか、それはまだ断定することはできない。

 ここぞというタイミングを狙うため、用心棒が出し惜しみしている可能性がある。

 あるいは、今は一段階目で、二段階目、三段階目の攻撃が残されているかもしれない。


 そう考えると、迂闊な行動に出るわけにはいかない。

 いかないのだけど……


「考えるだけ無駄ですね」


 慎重になることは必要ではあるが、時に、大胆に行動しないと勝てない戦いというものがある。

 今回がそのパターンだろう。


「そろそろ、私の番です」

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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