表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/520

8話 戻ってこいと言われても知らないよ

 翌日。

 目が覚めると昼だった。


 部屋を出て……当たり前だけど、部屋は二部屋とった……宿の一階に降りる。

 店主と挨拶をした後、メモを渡された。


『ぐっすり寝ているみたいだから、そのままにしておきました。たぶん、今までの疲れが溜まっているのだと思います。冒険者に関することは後日にして、今日はのんびりして休んでください。私は少し用事があるので出かけます。


 ソフィア』


「のんびり、と言われても……うーん」


 今までの五年間、のんびりできたことなんてない。

 毎日が仕事にあふれていて、休みなんて一日もない。

 病気になった時も怪我をした時も嵐の日も、奴隷としての仕事を続けてきた。


 だから、のんびり、と言われてもどうしていいかわからない。


「とりあえず、散歩でもしてみようかな」


 宿を出て、街を歩く。

 特に目的地は決めていない。

 気の向くまま、適当に街を散策する。


「散歩って、こんなに気持ちいいんだ」


 空は青く、降り注ぐ陽の光が気持ちいい。

 そよ風は心地よく、心まで綺麗にしてくれるかのようだ。

 街の人々の声が、一人ではないと認識させてくれて、明るい気持ちにさせてくれる。


「なんか、世界が変わったみたいに感じるなあ」

「よう、元気そうじゃねえか」

「……やっぱり、世界は暗いままだなあ」


 二度と聞きたくない声。

 とはいえ、無視したらどうなることか。


 仕方なく振り返ると、シグルドとレクターがいた。


 あれ? ミラがいない。

 三人はいつも一緒、みたいなイメージだったのだけど、どうしたのだろう?


「ちと話があるんだ、来いよ」

「イヤだ」

「そこに行きつけの店が……あ? 今、なんて言った?」

「ついていくわけないでしょ、常識的に考えて。自分達がしてきたこと、忘れたの? 僕からしたら、あんた達は救いようのない悪人なんだよ」

「このガキ……無能のくせに、俺達に逆らうつもりか!?」

「私達に逆らうことがどれだけ愚かなことなのか、調教し直す必要がありそうですね」


 二人は怒気をあらわにするが、僕は怯むことはない。


 ここは街中だ。

 いくらなんでも、こんなところで暴れるほどバカじゃないだろう。

 そんなことをすれば、憲兵隊に連行されてしまう。


「ちっ……ならここで話をするぞ」

「まさか、話すら聞こうとしない、なんてことはしませんよね?」


 威圧するように、二人に睨みつけてられる。


 正直、相手にしたくないのだけど……

 でも、無視したら何度も何度も構ってきそうだ。


 ため息をこぼして、二人に向き直る。


「まあ、いいけど……ところで、ミラは?」

「ミラなら、あの剣聖を呼び出して、適当に時間を潰させているところさ」

「なので、助けを求めようとしても無駄ですよ。ふふっ、これこそが私の策です」


 ソフィアは、ミラに呼び出されたのか。

 しかも、くだらない用事で。


 ミラ、斬られたりしないかな……?

 実は、幼馴染は短気なところがあるということを、僕は知っている。


 まあ斬られたとしても、それはそれで構わないか。

 こんな連中だから、同情することはない。


 あ、でも、ソフィアが憲兵隊に捕まるのはダメだ。

 やっぱり、ミラを斬らないうちに、ソフィアを探し出さないと。


「話っていうのは?」

「あなたにとって、とても良い話ですよ。きっと、泣いて喜び、私達に跪いて感謝するでしょう」

「話ってのは他でもない。お前を、俺達『フレアバード』の一員にしてやるよ」

「……はい?」


 シグルド達の言うことが理解できず、思わず間の抜けた声をこぼしてしまう。


 そんな俺の反応を好感触と判断したらしく、二人はニヤニヤと笑う。


「どうだ、いい話だろ? お前みたいな無能が、Aランクの『フレアバード』の一員になることができるんだからな」

「安心していいですよ。奴隷ではなくて、今度は、正式にパーティーメンバーとして迎え入れましょう」

「待遇も考慮してやるよ。今までは、ちと扱いが悪かったからな。これでも反省してるんだぜ? 悪かった」

「報酬も約束しましょう。あなたが戦闘の場に立つことはないため、私達よりは低くなりますが、きちんと分け前を渡すことを約束しましょう。どうですか、とても魅力的でしょう?」

「……」


 シグルドとレクターは、いったいなにを言っているのだろうか?


 俺達が悪かった。

 だから戻ってこい。


 そんなことを言われて、本当に戻ってくると思っているのだろうか?

 だとしたら、二人の頭は相当にめでたい。

 一度、真剣に治癒師に診てもらった方がいいと思う。


「はあ」


 ため息一つ。


 それから、僕は二人に背を向けた。


「おいっ、返事はどうした!?」

「しないとわからないの? 答えは、ノーだよ」

「なっ……なぜですか!? あなた程度の無能が、Aランクパーティーの『フレアバード』の一員になれるのですよ!?」

「今度は奴隷じゃなくて、正式なメンバーなんだぞ。文句なんてねえだろうが!」

「そんな台詞がぽんぽんと出てくるところを見ていると、ホント、救いようがないなあ、っていう感想しか出てこないよ」

「「なっ!?」」

「僕は、もうあなた達と一緒に行くことはない。それは絶対だ」

「いいから戻ってこい! 俺達が、てめえをうまく使ってやる! 俺達こそが、てめえを一番うまく扱えるんだ!」

「その通りです! あなたがいるべきところは、あの剣聖の隣ではない。我々の下につくべきなのです!」

「そんなことを今更言われても知らないよ」


 というか、それが誘い文句だなんて、壊滅的に頭が悪い。

 やはり、治癒師に頭を診てもらうべきだろう。


「じゃあ、さようなら。できれば、二度と会いませんように」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐシグルドとレクターを置いて、僕はその場を後にした。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] フェイトさw 治癒術氏に診てもらっても無理だからw お腹痛いw ねじ切れちゃいそうw
[良い点] 不本意ながらもこれまでの苦労が実になって力をつけてたこと。 剣技まであっさり身につけてるのは若干ご都合すぎる気がするので身体能力で突き抜けてもいいと思いますが。 [気になる点] どういう経…
[一言] これ本当に頭大丈夫?自分がはめてこきつかってきたやつに本当に好条件出してたとしても信用するバカいない というか、この程度の考えしか出来ないやつが考えた罠にかかったって奴隷にされてたと考えると…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ