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79話 用心棒

「フェイト! アイシャ!」


 部屋を出て少ししたところで、ソフィアと合流することができた。


 僕とアイシャが手を繋いでいるところを見て、彼女はホッとしたような顔に。


「アイシャ、よかった、無事だったのですね……!」

「わぷっ」


 ぎゅうっと抱きつかれて、アイシャがあたふたと慌てる。

 ただ、イヤがっているという感じじゃなくて、どうしていいかわからなくて、照れているみたいだ。


「ごめんなさい、アイシャ……」

「どうして……謝るの?」

「怖い思いをさせてしまいました。不安にさせてしまいました。寂しがらせてしまいました。全部、私の責任です」

「僕達の、だよ」

「そうですね……はい。ごめんなさい、アイシャ」

「……ソフィアのせいじゃ、ないよ?」


 恐る恐るという感じで、アイシャがソフィアを抱き返した。

 小さな手が彼女の体に触れる。


「ん……ソフィアも温かいね」

「ふふ、私は基礎体温が高いので」

「えっと、その……」

「どうしたのですか?」

「……もっと、ぎゅうってしても……いい?」

「はい、もちろん」

「んっ」


 甘えるような感じで、アイシャがソフィアに抱きついた。

 アイシャは女の子だから、相手が女性だと、遠慮なく甘えることができるのかもしれない。


 犬耳がぴょこぴょこ。

 尻尾がフリフリと、うれしそうに揺れていた。


 これだけで、アイシャの心の負担を全部取り除けたなんて思わない。

 でも、多少は軽くすることができたはずだ。

 この調子で、いつか、アイシャの心からの笑顔を見ることができるように、がんばりたいと思う。


「アイシャ、抱っこしてもいいですか?」

「うん」

「では、失礼しますね」


 アイシャを抱っこするソフィア。

 その顔は、とてもうれしそうだ。


 ソフィア、かわいいものが大好きだからなあ。


「ところでソフィア、会場にいたドクトルの私兵は?」

「全員、斬ってきました。あ、殺してはいませんよ? ただ、今後の人生は、色々と諦めてもらわないといけませんが」


 恐ろしい……


 でも、こんなことをするドクトルに加担するような連中だ。

 後遺症が残ったとしても、同情する気にはなれない。


「ただ、地下の敵を一掃しただけです。地上からの援軍はあると思いますし、今のうちに逃げましょう」

「そうだね。アイシャは任せてもいいかな?」

「はい、任せてください。指一本、触れさせません」


 ソフィアがそう言うのなら、アイシャは絶対に安全だ。


 彼女が剣聖だからとか、そういうところは信頼するポイントじゃない。

 ソフィアは、世界で一番信頼できる幼馴染だ。

 その彼女が言うのだから、なにも問題はない。


「いきましょう」

「うん」


 僕は剣を抜いて、先頭に立つ。

 その後ろを、アイシャを抱っこしたソフィアが進む。


 会場へ戻った。

 すでに客は逃げた後らしく、誰もいない。


 いや。

 会場の端などに私兵が倒れていて、うめき声をこぼしていた。

 全員、ソフィアにやられたのだろう。


 見た感じ、敵はいない。

 ただ、どこかに隠れていないとも限らないし、地上からの増援と鉢合わせないとも限らない。

 ソフィアとアイシャを危険に晒すわけにはいかない。

 油断することなく、注意して進もう。


「……フェイト」

「うん、わかっているよ」


 もう少しで会場の外に出る……というところで、僕とソフィアは足を止めた。

 ピリピリと刺すような殺気がぶつけられている。


「そこにいるのは誰? 隠れているのはわかっているんだけど」

「……ちっ、勘の鋭いガキだ」


 姿を見せたのは、ファルツだ。

 それともう一人、黒尽くめの男がいる。


「ここまで好き勝手しておいて、そのまま逃げられると思っていたのか?」

「……それ、僕の台詞なんだけど」


 たくさんの人に酷いことをして。

 アイシャに酷いことをして。


 その悪事の片棒を担いだファルツを見逃すつもりなんてない。

 アイシャの安全が第一で、捕まっていた人達の安全が第二。

 それらを達成した今、心置きなく戦うことができる。


 ただ……


「……むう」


 黒尽くめの男から、イヤな気配しかしない。

 例えるなら、死神と対峙したような感じ。

 濃厚な死の気配をまとっている。


「あのガキを捕らえろ、下手に傷をつけるな。男と女は殺せ」

「わかった」


 用心棒、というところかな?

 それなりの実力者であることは間違いない。

 僕の力が通じるかどうか……


 なんて迷いを抱いていたら、ソフィアがアイシャをこちらに渡してきた。


「フェイト、アイシャを頼みます。あの男は、私が相手をします」

「……うん、了解」


 ソフィアがそういう判断をしたのなら、下手に出しゃばらない方がいい。

 アイシャを代わりにおんぶして、後は彼女に全部任せることにした。


「ソフィア、気をつけてね?」

「大丈夫です。私は、剣聖ですから」

「それでも、僕にとっては大事な女の子だから」

「……」

「ソフィアの顔、赤いね」

「し、仕方ないじゃないですか。フェイトからそんなことを言われたら、その、どうしても照れてしまいます」


 アイシャのツッコミに、ソフィアは照れ照れで答えた。

 かわいい。


「じゃあ、また後で」

「はい、また後で」


 再会の約束を交わして、その場を後にした。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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[良い点] ワクワクするし、砂糖も結構あるところ。 [気になる点] 特になし。 [一言] とても面白いです。文章力なくてすいません。更新、楽しみにしてます。
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