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78話 温かい

「アイシャ?」

「……」


 アイシャはうつむいてしまい、こちらの手を取ろうとしない。

 怖かったはずなのに。

 寂しかったはずなのに。


 それなのに、なぜか我慢をしていて……

 震えながらも、一人で耐えようとしてしまう。


「わたしは……悪い子だから。こんなわたし……助ける価値なんて、ないの……」


 アイシャは、どんな想いでその台詞を口にしたのか?

 どんな背景があって、そんな台詞を口にするに至ったのか?


 彼女の気持ちがわかるなんてこと、簡単には言えない。

 わからない。

 わからないのだけど……


 それでも。

 確かに言えることが一つ、ある。


「大丈夫だよ」

「あ……」


 アイシャをそっと抱きしめた。


 幸せになったらいけない、とか。

 助ける価値がない、とか。


 そんなことはないんだよ、と伝えるように抱きしめる。

 頭を撫でる。


「僕は、そんな風に思わないから」

「でも、わたし……」

「アイシャがなにを考えているのか、わからないよ。でも、それが絶対、っていうことはないと思うんだ。勘違いしているかもしれないし、思い込んでいるだけかもしれない。だって……そうじゃないと、寂しすぎるよ」

「で、でも……」


 アイシャは、まだ迷いを振り切れないらしく、僕から離れてしまう。

 それも仕方ないと思う。

 この子は、僕が思っている以上に、重いなにかを抱えているんだと思う。


 僕にできることは、一緒に背負うか……

 支えて、楽にしてあげること。


「すぐに気持ちを切り替えるなんて、そんな無茶は言わないよ。ただ、覚えておいてほしいんだ」

「なに……を?」

「僕がいるよ」

「……あ……」

「僕だけじゃなくて、ソフィアもいる。リコリスもいる。アイシャが辛い時、悲しい時、隣に寄り添い、支えるよ。それくらいのことはできるし、させてほしい」

「……うぅ……」

「だから、おいで?」


 手を差し出した。


 アイシャは僕の手を見て……それから、自分の手を見る。

 迷っているみたいだ。


 でも、拒絶から迷いまで進むことができたのだから、あと一歩かもしれない。

 その一歩を、無理矢理に誘うことはできない。

 こればかりは、アイシャが決めるしかない。


 そうでないと、きっと、どこかで心にしこりが残る。

 やがて、それは大きくなり、後々の問題に発展すると思う。


 だから……


 アイシャ、僕の手を取って。

 心の中で強く祈り、願う。


「……っ!」


 五分ほどの迷いの後、アイシャは、そっと手を伸ばしてきた。

 恐る恐るという感じで、すごくゆっくりだ。

 でも、急かすようなことはしない。

 心の中で応援しつつ、彼女の勇気を見守る。


 そして……


 そっと、アイシャの手が僕の手に触れた。

 迎え入れるように、小さな手を優しく握る。


「がんばったね」

「……よく、わからないの。でも……」


 アイシャは、泣いているような笑っているような、そんな顔で僕を見る。


「フェイトの手……温かいね」

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[一言] >「わたしは……悪い子だから。こんなわたし……助ける価値なんて、ないの……」 そ・ん・な・事! 知るかぁぁあああああ!!
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