76話 一緒にいるよ
「はぁっ!」
こちらに向かう私兵を薙ぎ払う。
剣を棍棒のように使うという荒業。
一応、ここにいる全員は捕まえて、きちんとした裁きを受けさせなければならない。
なので、できる限りは命はとらないようにしていた。
身体能力はともかく、僕の剣の技術はまだまだ拙い。
そんな僕が、大勢を相手に手加減をできるというのはリコリスのおかげだ。
「フェイト、次、五秒後に部屋から出てくるわ!」
「了解!」
妖精だけが使える魔法で、リコリスは、いつどのタイミングで敵がやってくるかわかるらしい。
いわば、ナビだ。
そのおかげで、奇襲を受けることはないし、逆に奇襲をしかけることができる。
本当に頼もしい。
敵を打ち倒して。
障害を排除して。
ぐんぐんと突き進む。
そして……
「ここ……かな?」
地下の最奥の部屋。
そこに、一際厳重な扉が見えた。
一部、扉に窓がついていて、中の様子を確認できるようになっている。
そこから中を覗いてみると……
「アイシャ!」
「……ふぇ?」
ベッドで膝を抱えるアイシャの姿が見えた。
窓一つない部屋。
ただ、ひどい扱いは受けていないみたいで、傷はないように見える。
「ふぇい……と?」
アイシャは信じられないものを見るような顔に。
たぶん、僕に見捨てられたと思っているのだろう。
そして、今更なんでここに? と疑問を抱いているのだろう。
胸がズキリと痛む。
幼い彼女の信頼を裏切るようなことをしてしまうなんて……
もう二度と、そんなことはしない。
誰にも踏みにじらせない。
固く誓った。
「アイシャ、危ないから扉から離れて」
「え……?」
「大丈夫、怖いことはなにもないから」
「えと……う、うん」
アイシャは戸惑った様子を見せつつも、部屋の奥に移動してくれた。
よし。
これで、遠慮なくおもいきりやれる。
「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!!!」
何者も寄せつけないような頑丈な扉だけど……
ソフィアが教えてくれた剣術に敵うことはなくて、一気に吹き飛んだ。
ゴォッ! という轟音。
埃が舞い上がる。
「アイシャ、おまたせ」
「おま……たせ?」
部屋に入り、奥にいるアイシャの前へ移動する。
やはり、彼女は不思議そうにしていた。
「なんの、こと……?」
「ごめんね、こんなことになって。信じてもらえないかもしれないけど、僕達はアイシャを見捨てたわけじゃなくて……いや、これは言い訳だね。とにかく、ごめん。怖い思いをしたよね?」
「ふぇ……」
「でも、今度こそ大丈夫だから」
アイシャの小さな手をそっと握る。
「もう、絶対に離さないから」
「……」
アイシャのつぶらな瞳が僕に向いた。
次いで、繋いだ手を見る。
「……一緒に、いてくれる?」
恐る恐るという感じで、小さな声で問いかけてきた。
「わたし、一人ぼっちで……イヤ、だから……一緒にいてほしいの」
「もちろん」
「……っ……」
「今度こそ約束するよ。一緒にいるから。絶対にこの手を離さないよ」
「ホント……?」
「本当」
じっと見つめられる。
僕の言葉の真偽を確かめようとしているかのようだ。
じーっと見つめて……
それから、おもむろに顔を近づけてきた。
すんすんと匂いを嗅ぐ。
「アイシャ……?」
「本当の匂い……それに、落ち着くの」
アイシャは元の位置に戻ると、
「……でも、やっぱりわたしは」
アイシャは、
「幸せになったらいけないの……」
今にも泣き出しそうな顔をしつつ、そんなことを言うのだった。
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