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72話 最悪の想定が現実に

「それはどういうこと!?」


 アイシャを見つけた、というウソの報告はしたものの……

 本当にアイシャがドクトルに捕まってしまうなんて。


 さすがに、この展開は予想していなかった。


 驚きと焦燥と……そして、疑念。

 思わずクリフを睨みつけてしまう。


 僕だけじゃなくて、ソフィアとリコリスもクリフに厳しい目を向けている。


「すまない……連中がこれほどまでのバカだなんて思わなかった」

「それは、どういう意味なのですか? なにが起きたのか、詳細に説明してください」

「うん、もちろんだ。説明をする責任があるし……それと、あの子を助ける義務もある。その話もさせてほしい」


 申しわけない、ともう一度頭を下げた後、クリフは事の経緯を説明してくれた。


 クリフは、アイシャを絶対に信頼できる相手に預けていたらしい。

 右腕といえるような存在で、仕事の能力も戦闘能力もどちらも長けていて、また、長年の親友であるとか。


 クリフは表に立って色々と動かないといけないため、アイシャの保護は難しい。

 しかし、親友ならば……と思い、彼にアイシャの保護を依頼したらしい。


 ただ、ここで問題が起きた。


 ドクトルの仲間、ファルツ・ルッツベインが動いたのだ。

 聞くところによると、ファルツは、ここ最近は失敗続き。

 なんとか汚名返上しようと焦っていたらしく、起死回生の策を考えていたという。


 そして……


 クリフの右腕である親友を襲撃するという、無謀でメチャクチャな計画を思いついた。

 親友を失えばクリフの力は大きく削がれるだろう、と考えてのことだろうが……

 そんなことを理由なくすれば、いくら冒険者協会の幹部とはいえ罰は免れない。


 ただ、ファルツはそんなことも考えられないほどの愚か者らしく、計画を実行に移してしまった。

 結果、親友は大怪我を負い、アイシャはさらわれてしまった……とのことだった。


「本当にすまない! あの子のことは、しっかりと保護すると約束したというのに……謝って済むことじゃないのはわかっているんだけど、それでも、本当にすまないっ!!!」

「それは……うん。クリフのせいじゃないよ」

「私も同意です。話を聞く限り、クリフは万全の体勢を敷いていたみたいですし……」

「バカがバカすぎたから、バカを予想できなくても仕方ないんじゃない? っていうか、そこまでバカの行動を読めたとしたら、その方がおかしいわよ」


 リコリスの言う通りだ。

 そこまで後先考えない行動に出るなんて、普通は考えない。

 逆に、そこまでの可能性を考えて警戒している方が、ちょっとおかしいと思う。


 だから、クリフに非はないと思うんだけど……


「とにかくも、誰に責任があるとか、そういう話は後にしよう。今は、アイシャのことを考えないと」

「そうですね。このままだと、アイシャは奴隷として売られてしまいます。それだけは、防がないといけません」

「うん。それは絶対にダメだよ……そんなこと、許せるわけがない!」


 自分の境遇と重ねているのかもしれない。

 だから、アイシャのことが気になる、放っておけない。


 クリフが顎に手をやり、考える仕草をとる。


「僕が言えるようなことじゃないが、のんびりはしていられないね。すぐに準備をして、それからドクトルの屋敷に突入した方がいいかもしれない」

「そんなことをして、大丈夫なのですか?」

「……よくはないね」


 クリフは苦い顔をするが、言葉は止めない。


「突入しても、すぐに制圧できるわけじゃない。ドクトルは証拠を処分、あるいは隠すだろうし……最悪、逃げられるね。そして、後で反撃される」

「そうなると、クリフ的にはまずいんじゃないの? ドクトルってヤツを叩きのめすのが目的なのに、まったく正反対の結果になっちゃうじゃない」

「そうだね。望ましくはない。だから、確実にドクトルを叩き潰せる時まで待ってほしい」

「それは、いつ?」

「オークションが開催される日だね。現場を抑えることができれば、これ以上ないほどの証拠になる。それ以前に叩いたとしても、証拠不十分だったりトカゲのしっぽ切りで、ドクトルの完全失脚までは狙えない。また力をつけて、再びアイシャを狙うかもしれない」

「……」


 クリフの言うことは正論なのだけど……


「でも、その間にアイシャは酷い目に遭うかもしれない」

「……」

「別のルートで売られないとも限らない。そのことを考えると、時間はあげられないよ。今すぐに助けに行く」


 それが僕の結論だ。

 ドクトルが再び狙ってきたとしても、今度は、僕達が守る。


「いや、待ってくれないかな? アイシャの安全については問題ない」

「それは、どういう?」

「密偵からの報告で、アイシャは奴隷とは思えない好待遇を受けているみたいなんだ。なにかしら暴力を受けている、という報告もない」

「それは……」

「どういう……?」

「普通、奴隷にそんなことしないわよね?」


 みんなで首を傾げる。


「正直なところ、僕もよくわからないんだよね。アイシャは、てっきり、高値がつく獣人族だから狙われているんだと思っていたんだけど……もしかしたら、それだけじゃないのかもしれない。ドクトルは、彼女を奴隷として売るためじゃなくて、別の目的で探していたのかもしれない」

「その理由は?」

「それはわからないかな。ただ、ドクトルはアイシャに危害を加えるつもりはないよ。売り飛ばすこともないと思う。その点については、今度こそ絶対の絶対だね」

「……」


 どう思う? とソフィアを見る。


 考えるような間の後、信じてみてもいいのでは? という感じで頷いた。


「……うん、わかったよ。クリフを信じる」

「ありがとう」

「ただ、アイシャに関する情報は毎日提供して。それで、少しでも彼女に危害が及びそうなら、その時は、即座に動くから」

「わかった、それで構わないよ。元々、無理を言っているのはこちらだからね。その時は、僕も全力で支援すると約束しよう」




――――――――――




 作戦会議を終えた後……

 クリフは下準備をするため、別のところへ。


 僕達はドクトルの屋敷へ戻った。

 そして、彼の執務室を訪ねる。


「戻りました」

「あぁ、キミ達ですか」


 僕達の姿を確認したドクトルは、一瞬、鋭い目になる。


 ファルツからアイシャを確保したと連絡を受けているのだろう。

 僕達の説明と若干、食い違う点が気になり、怪しんでいるのだと思う。


 なので、決定的に怪しまれる前に手を打つ。


「アイシャのことで、少し報告しておきたいことがあるんですが……」

「うん? どういうことですか?」

「どうも、僕達が想定していたよりも早く街についてきたみたいで。迷子になり、冒険者ギルドを訪ねたみたいですが、その後の行動がわからず……」

「ふむ、なるほど……そういうことなら、心配はいりませんよ。私の友人が、さきほど、アイシャを見つけてくれたので」

「そうなんですか? それならよかった」

「どちらにしても、お二人がいなければアイシャを迎えることはできませんでした。深く感謝します」


 ドクトルは笑顔でそう言う。


 僕達に小さな疑いは抱いたけど、でも、それはまだ決定的なものじゃない。

 どうとでもごまかせる範囲……そう感じた。


 これなら、まだなんとかなるかもしれないな。


「なら、依頼完了ということで。次の仕事はありますか?」


 ここで、オークション関係の仕事を頼まれるのがベスト。

 別の仕事なら、適当にこなすフリをしつつ、オークションの情報を探る。

 仕事がないなら、やはり情報を探る。


「そうですね……実は、数日後に少し大きな仕事が控えていまして。ただ、私が掴んだ情報によると、その仕事を邪魔しようとする不届きな輩がいるらしいのです」


 その不届きな輩というのは、クリフのことだ。

 クリフが動いていますよ、とあえて情報を流してもらい、ドクトルの警戒心を煽る。

 そして……


「なので、仕事を手伝っていただけませんか? 主に警備ですね」


 僕達に仕事が回ってくるようにする。

 それが目的だ。


 クリフは、Sランク以上の力を持つ。

 そんな敵を作るとしたら、きっと、ソフィアを頼りにするだろうと踏んでのことだ。


「わかりました」

「私達でよければ」


 今のところ、作戦は順調だ。


 アイシャ……すぐに助けるから、待ってて。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 捕まっていることが確定で、しかも密偵が所在を掴んでいるのならば、前話ラストは、「捕まってしまった。」の方が良いのでは?
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