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66話 決着は一瞬で

「うおおおおおぉっ!!!」


 男が裂帛の気合を吐きながら、地面を蹴る。

 すぐに斬りかからないで、こちらの隙を探るかのように、僕の前後左右を駆ける。


 「すごい速さだ」「なにが起きているのかわからない」「どれだけの技術があれば、あのようなことが可能なんだ?」


 ……なんていう周囲の声が聞こえてくるのだけど。

 そこまで驚くようなことなのかな?


 右、後ろ、左、後ろ、左、前、右、前、右……

 全部、見えている。


 たまに男が攻撃に転じようとするから、そちらを見ると、


「っ!?」


 男は驚いたように目を大きくして、攻撃を中止して、再び撹乱に戻る。


 パーティーの来場者達は男の動きに驚いているみたいだけど……

 僕は、驚くことはない。

 ソフィアという規格外が身近にいるから、この程度はなんてことはない。


「フェイトも、十分に規格外ってことを自覚しなさいよね」


 僕の心を読んだかのように、頭の上のリコリスが、どこか呆れた様子でつぶやくのだった。




――――――――――




 なんだ、コイツは?

 いったいどうなっている?


 男……ゼロスは混乱と困惑を同時に覚えていた。


 ゼロスは、石を砕く腕力に自信があった。

 空を翔けるような跳躍力に自信があった。

 姿が消えてしまうと言われている脚力に自信があった。


 それなのに、ドクトルの客人として招かれたフェイトは、いとも簡単にゼロスの限界値を超えた。

 聞くと、まだ余力があるという。


 ありえない。


 ゼロスはプライドの高さ故に、その事実を認めることができず、直接勝負でフェイトを叩きのめそうとした。

 超高速の移動。

 フェイントを何度も織り交ぜて、致命的な隙を作り、必殺の一撃を叩き込む。


 この戦術で、ゼロスは今までに全て勝利を収めてきた。

 対応できる者なんていない。

 いないはずなのに……


「くっ……!?」


 攻撃をしようとすると、必ず、フェイトと目が合う。

 あなたの動きは全部見えているよ?

 そう言っているかのようだった。


 事実、見えているのだろう。

 そして、対応するだけの反射神経も持ち合わせているのだろう。


 ありえない。

 ありえない。

 ありえない。


 ゼロスは心の中で絶叫した。

 フェイトの力を認めず、否定した。


 そうしなければ、彼のプライドは粉々に砕けていて……

 刃を交わす前に負けていただろう。


「俺は……こんなガキに劣っているはずがねえ、最強なんだっ!」


 ゼロスは、己の過去の輝かしい戦歴を思い返した。

 全てに勝利した。

 格上と言われていた相手も、地に這いつくばらせることに成功した。

 負けなんて一度もない。

 エリートと言っても過言ではない。


 それなのに……


「剣聖の称号に乗っかっているだけのガキなんかに……!!!」


 絶対に負けられない。

 自分より上なんて認められない。


 ゼロスは奥の手を使うことにした。


 こんなこともあろうかと、袖の内側に、毒針を射出する機構が備え付けられている。

 死に至らしめるものではないが、直撃すれば、数日はまともに動けなくなる強力な毒だ。


 射出速度は速く、至近距離ならば、さすがに避けられないだろう。

 あるいは、もしかしたら避けられ、カウンターを食らうかもしれないが……

 そこは賭けになる。


「……よし」


 ゼロスは覚悟を決めた。

 リスクなしにリターンを得ることはできない。


 何度かフェイントを繰り返して……

 今まで通りの行動と思わせて、思考のミスリードを誘い……そして、針を射出する。


「っ」


 フェイトは針に反応した。

 高速で射出されて、数センチしかない小さな針を見逃していなかった。


 なんていう動体視力。

 ゼロスは恐ろしさを感じるものの……

 しかし、ニヤリと笑みを浮かべる。


 フェイトは針を視認していたが、避けず、受け止めた。

 おそらく、避ければ後ろにいる観客に当たると思ったのだろう。


 お人好しの馬鹿め。

 ゼロスは、内心でほくそ笑む。


 毒は即効性。

 これで勝利は確実だ。

 ゼロスは、トドメを刺すために真正面から突撃する。


 しかし、それは彼の油断と慢心以外のなにものでもない。


 今までのように注意深く観察を続けていれば、気づいただろう。

 毒針を受けたはずのフェイトは、倒れることなく……

 足元がふらつくことも、まったくないということに。


「これで終わりだぁあああああっ!!!」

「それは僕の台詞だよ」

「え?」


 二人が交差して……

 そして、決着は一瞬。


 ゼロスの腹部に強烈な衝撃が走り……


 それを受け止めることも受け流すこともできず、ゼロスはそのまま意識を手放した。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ちょっかいかけられたくないなら直接乗り込んで脅すとか公開処刑するとかそこまでやらないと無理だと思うけどね
2021/03/19 18:46 退会済み
管理
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