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61話 囚われの……

 ボスを倒せば、後は大したことはない。

 リコリスと協力して、残りを倒して……

 そして、身動きができないように捕縛する。


 斬り捨てた方が早いのかもしれないけど……

 でも、できれば殺しは避けたい。

 甘いと言われるかもしれないけど、盗賊も一人の人間だ。

 もしかしたら、更生する人がいるかもしれない。


 戦闘時など、どうしようもない時はためらうつもりはないのだけど……

 動けない相手、投降した相手をわざわざ斬り捨てたくはない。


「よし、これで全員かな」


 捕縛完了。

 全員を連れて行くことはできないから、一度ギルドに戻り、応援を要請しよう。


「ソフィア、そっちはどう?」

「えっと……」


 大きな声を飛ばしてみると、戸惑うような声が返ってきた。


 なんだろう?

 リコリスと顔を見合わせる。


「フェイト」


 ほどなくしてソフィアがやってきた。


「そちらは……片付いたようですね。これだけの人数を相手にして、問題なく解決してしまうなんて、さすがフェイトです」

「リコリスに助けられたおかげだよ」

「ふふーん、その通り! この天才無敵美少女妖精リコリスちゃんに感謝なさい!」

「フェイトのおかげですよね?」

「え?」

「フェイトのおかげですよね?」

「いや、あの……」

「フェイトのおかげ……で・す・よ・ね?」

「ハイ」


 なにやらとてつもないプレッシャーを受けた様子で、リコリスがカタカタと震えつつ、小さく頷いた。

 よくわからないけど、リコリスを脅すのはやめてほしい。


「ソフィアの方はどうだった? 捕まっていた人達は?」

「基本的に問題ありません。怪我を負っている人もいましたが、重傷ではないので、応急処置でなんとかなりました。ただ……」

「ただ?」

「ちょっと来てくれますか? どう対応していいか、わからないところがありまして……」


 ソフィアが対処に困るなんて、どういうことだろう?

 緊張しつつ、牢へ向かう。


 途中、救助した人達からお礼を言われつつ、さらに奥へ。


「こちらの牢です」


 最奥に小さな牢があった。

 扉はすでに斬られていて、牢としての機能はなくしている。


 ソフィアがやったのだろう。

 鍵じゃなくて、扉ごと斬り飛ばしてしまうのは、さすがというかなんというか。


 牢の隅に人影があった。

 膝を立てて床に座り、くるっと体を丸めている。

 見た感じ、子供だろう。


「この子は?」

「わかりません。何度も声をかけたのですが、反応はなくて……ただ、気絶しているとかそういうわけでもなくて……どうしたらいいか、わからなくて対処に困っていたのです」

「なるほど」


 盗賊は全員、捕縛した。

 牢も壊した。


 この子を傷つけるものはないはずなのに、なぜか、まだ怯えているように見える。


「って……あ、そういうことか」


 この子からしてみれば、僕達が冒険者なのか盗賊なのか見分けがつかない。

 大丈夫だよ、と声をかけられても、それを信じることができない環境にいる。


 そのせいで、未だに怯えて、こうして縮こまっているのだろう。


 僕達が敵じゃないということを、どうやって証明しよう?

 少し考えてから、僕は、うずくまる子供の頭をそっと撫でる。


「大丈夫だよ」

「っ……!」

「大丈夫、僕達は盗賊じゃないよ。盗賊を捕らえて、あと、キミ達を助けに来たんだ」


 敵じゃないと、できる限り優しい声で語りかけた。

 そんな想いが伝わったのか、子供が恐る恐る顔を上げる。


「あなた達は……誰なの?」


 女の子だ。

 普通の子供じゃなくて、犬耳がついていた。

 よくよく見てみると、尻尾も見えた。


 獣人族だ。

 人間の知恵と獣の力を持つ種族で、個体数は少ない。


 獣人族は長寿故に繁殖能力が低く、子供はさらに珍しい。

 そのせいで盗賊に目をつけられて、囚われの身になったのだろう。


「僕は、フェイト。彼女はソフィアで、こっちは妖精のリコリス。キミは?」

「……アイシャ……」

「そっか、アイシャっていうんだ。かわいい名前だね」

「……」


 にっこりと笑いかけると、少しだけアイシャの警戒心が解けたような気がした。

 でも、僕の言葉を全部信じた様子はない。


 たぶん、こうして囚われるまでに、色々とひどい目に遭ったのだろう。

 だから人間不信に陥っていて……


 なんとなくアイシャの境遇を想像することができて、どうにしかして助けないと、という使命感のようなものが湧き上がる。


「僕達は、ここにいる盗賊達を退治するためにやってきたんだ」

「……本当に?」

「うん、もちろん。嘘なんてつかないよ」

「……」


 疑いの目を向けられる。

 でも、それには気づかないフリをして、笑顔を続ける。


「もちろん、アイシャのことも助けるよ」

「……どうして? わたしのことは、赤の他人なのに……」

「そうだけど……でも、他人事とは思えないんだ。実は、昔、僕も似たような境遇だったんだ」

「え?」

「悪い連中に騙されて奴隷にされて……まあ、今は自由だけど、色々とあったんだ。だから、アイシャのことが他人事とは思えなくて」

「……」


 アイシャの瞳から、少しずつ疑念の色が消えていく。

 似た境遇だったという話は、思っていた以上に彼女の心を解きほぐしてくれたみたいだ。


「本当に……助けてくれるの?」

「うん」

「わたし……もう、痛い思いをしなくていいの……?」

「もちろん」

「……ふぇ」


 気が緩んだのだろう。

 みるみるうちに、アイシャの瞳に涙が溜まり……


「うぇ、えええええっ……! うあぁ、ひっく、えぐ、うあああああっ!!!」


 僕に抱きついて、アイシャは思いきり泣いた。


 今は、とにかく泣いて、暗い感情を吐き出してしまった方がいい。

 そして、少しでも安らいでほしい。

 そう願いつつ、僕はアイシャをしっかりと抱きしめ返して、その頭を撫でた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] アイシャの獣人族はカナデの種族と同じ感じなのかな?
[一言] この天然たらしめ…この子まで仲間入りしたらソフィアさんのストレスが更にたまりそう…
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