56話 番犬ケルベロス
「こいつは……!?」
歪な牙と三つの頭。
馬のように大きく、力は相当なものだ。
Aランクの魔物、ケルベロス。
歪な牙と三つの頭による攻撃は厄介で……
さらに、炎も吐くという多重攻撃。
かなりの強敵なのだけど……
「でも、今の僕なら!」
ソフィアに鍛えてもらったおかげで、それなりの自信を持つことができた。
偶然かもしれないけど、Sランクのフェンリルを倒すことができた。
なら、ケルベロスの一匹くらい……
「グルルルゥ……!」
「ガルゥ!」
「グァ!」
「……え?」
さらに、奥から三匹のケルベロスが現れた。
それだけで終わらず……
四匹、五匹、六匹……
数え切れないほどの数が現れる。
「ちょっ、これはさすがに……!?」
「フェイト、防御に徹してください! リコリス、フェイトの傍に!」
「りょ、了解!」
リコリスが慌てて飛んできて、僕の頭の上に乗る。
って、避難場所はそこなんだ……
「さあ、いきなさいフェイト! あたしを守るのよっ」
「むっ……フェイトに優しく守られるのは、私の役目なのですが」
ヤキモチを妬いてくれるのはうれしいんだけど、時と場所を選んで?
「グルァアアアッ!!!」
「くっ!」
ケルベロスが三つの頭で襲いかかってくる。
力、体格はフェンリルに比べると大したことはないのだけど……
頭が三つあるため、変則的な攻撃が多い。
さらに、時折、炎も吐いてくる。
なかなかに戦いづらい相手で、苦戦してしまう。
「いけ、そこよっ! 右、右! 左! そこ、まっすぐよ!」
「えっと……」
「今よ! 必殺のえっと、ほら……アレを繰り出しなさい!」
「……なんでもいいや」
頭の上でリコリスがあれこれと騒いでいるせいで、緊迫感というものがない。
ただ……
おかげで、初めての強敵と戦うことに緊張することなく、自分のペースで戦うことができた。
ある意味で、リコリスには感謝だ。
「ガルゥッ!!!」
「……そこっ!」
焦れた様子で、ケルベロスが全身の力を込めて体当たりを仕掛けてきた。
大きな体格とパワーを活かして、僕を押し倒そうとしたのだろう。
が、それは悪手だ。
逆にケルベロスの力を利用して、受け流して……
背負投げをする要領で、頭から地面に叩きつけてやる。
ギャンッ、というケルベロスの悲鳴が響いて……
体勢を立て直すよりも先に、その三つの頭部、全てを切り落とした。
「ふう……なんとかなった。大丈夫、リコリス?」
「だ、だだだ、大丈夫よ! 怪我はしてないし、こ、これくらいでビビるわけないし!」
「えっと……怖がらせてごめんね?」
「だからビビってないし!?」
カタカタと震えていることについては、触れないでおこう。
「ソフィアは……」
「はぁっ!!!」
ソフィアが剣を振る……ような仕草をした後、ケルベロスが両断された。
ような、と表現したのは、きちんと見えなかったからだ。
剣がすさまじく速い。
あの様子なら心配は必要なさそうだ。
さすが、剣聖……
「って、危ない!?」
「え」
最後の一匹が、死角からソフィアに襲いかかろうとしていた。
考えるよりも先に体が動いて、彼女の盾となる。
「ぐっ!?」
腕に噛みつかれて、激痛が走る。
「フェイト!? このっ……魔物ごときがっ!!!」
激高したソフィアが剣を振り……
瞬間的に、ケルベロスは細切れにされた。
それでいて、僕は巻き込まれることない。
相変わらず、すさまじい剣技だ。
「ふう……ソフィア、怪我はない?」
「それは私の台詞ですよ!? ああっ、そんなに血が出て……」
「僕は大丈夫。痛みには耐性があるから」
「そういう問題じゃありません! 確かに、フェイトには助けられましたけど……でも、私のせいでフェイトが怪我をするなんてイヤです! 絶対に許容できません!」
ソフィアは涙を浮かべていた。
それくらい心配したのだろう。
「ソフィア……ごめんね、心配をかけて。でも、それは僕も同じだよ。ソフィアが怪我をするなんて、絶対にイヤだ。だから、気がついたら体が動いていて……今はまだ頼りないかもしれないけどさ。でも、僕は、絶対にソフィアを守るよ」
「えっと……そ、それは……」
「ソフィア?」
「もう……そんなことを言われたら、怒れないじゃないですか。あと、その……フェイトの気持ちはとてもうれしいです。ありがとうございます……やっぱり、好きです」
「う、うん」
ソフィアの甘い言葉に、痛みを忘れて照れてしまう。
「はいはい、ラブオーラはそこら辺にしときなさい」
「リコリス?」
「とりあえず、それを治療しないと。ほら、手を出しなさい」
「うん」
「ほい、っとね」
リコリスが手をかざすと、ゆっくりとだけど怪我が治っていく。
以前にも治療してもらったことがあるけど、すごい力だ。
「それ、魔法だよね?」
「ええ、そうね。超絶天才美少女のリコリスちゃんは、魔法にも精通しているの」
「そっか。すごいね、魔法は」
「……フェイトは、剣より魔法の方がいいんですか?」
「ううん、僕は剣の方がいいかな? 性に合っていると思うし……なにより、ソフィアと一緒だから」
「フェイト……もう、もう。そんなうれしいことを言われたら、どうにかなってしまいそうですよ。私をどうにかして、フェイトはなにを企んでいるのですか? えっち」
「え、えぇ? 僕は別に……」
「……やれやれ、このバカップルは」
リコリスは呆れたように、ため息をこぼすのだった。
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