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55話 まずは依頼を請けよう

 クリフ曰く、数ある依頼の一部はドクトルが発行しているものだという。


 依頼をうまいこと利用することで、私服を肥やす。

 そのために、定期的に依頼を発行しているのだとか。


 その依頼を見つけて、クリアーして……

 報告の際、ドクトルと顔を合わせることができる。


 その際、有能であることをアピールすれば、向こうから声がかかるだろう……とのこと。

 気に入られれば、彼の懐に潜り込むことができる。


 なので、まずは、ドクトルが発行する依頼をこなさなければいけない。

 そんなことを言われたのだけど……


「これ……だよね?」

「これ……ですね」


 とある依頼発行書を手に取り、ソフィアと一緒に見る。

 僕もソフィアも首を傾げる。


 というのも、依頼内容は、大して難しくないものだからだ。


「街から少し離れたところにあるダンジョンを根城にしている、盗賊団の討伐」

「聞いたことのない盗賊団ですし、大した難易度ではなさそうですが……ふむ?」


 この依頼が、どうして私服を肥やすことに繋がっているのだろう?

 よくわからない。


「盗賊団を排除することで、地位を保つ……とか?」

「ありえないことではありませんが……それにしては、少しやることが小さい気がしますね。権力と金を目的とする人間は、おもいきった手を打つことが多いです」

「それは、ソフィアの経験則?」

「はい」

「なるほど……でも、クリフは、これがドクトルの依頼って言っていたから、間違いないと思うんだけど……うーん」

「盗賊、盗賊、盗賊……あぁ、なるほど」


 心当たりがある様子で、ソフィアは納得顔に。


「確かに、これは私腹を肥やすための依頼ですね」

「と、いうと?」

「盗賊の討伐となると、彼らが奪った金銀財宝があるでしょう?」

「そうだね。通常は、ギルドに返還して、被害者の元にいくらか返却される、っていう流れになっているよね」

「そこです」


 ソフィアが、ピンと人差し指を立てる。


「ドクトルは、盗賊団の財宝を己のものにしたいのでしょう」

「横取り?」

「ギルドが預かるフリをして、そのまま自分の懐に。長く活動している盗賊団ならば、それなりの財を持っていますからね。ドクトルにとっては、格好の獲物なのでしょう」

「なんていうか……許せないね」


 本来ならば、被害者に返金されるべきものだ。

 それを自分のものにしてしまうなんて……


「フェイト。わかっていると思いますが、今、彼を糾弾してはいけませんよ」

「うん、わかっているよ。そんなことをしても、尻尾切りで、誰か別の人が捕らえられるだけ。ドクトルの信頼を得て、もっと確実な証拠を手に入れなければいけない」

「はい、その通りです」

「でも……」


 ぐっと、拳を握る。


「一時的とはいえ、ドクトルの犯罪を見逃さないといけないことが悔しくて」

「フェイト……大丈夫ですよ」

「わっ」


 突然、ソフィアに抱きしめられた。


 温かいやら甘い匂いがするやら……

 それと、柔らかい感触がして……

 途端に顔が熱くなってしまう。


「そ、ソフィア? なにを……」

「そういうまっすぐな気持ちを持っているところ、素敵だと思います」


 ぎゅうっと、抱きしめてくる。


「そのまっすぐな心を、フェイトなら忘れることなく、ずっと持ち続けることができると思います。だから、大丈夫です」

「そう……かな?」

「そうですよ。幼馴染で、誰よりもフェイトのことを見てきた私が保証します」

「……うん、ありがとう」


 悔しい気持ちは薄くなった。

 代わりに、絶対に依頼を成功させて、ドクトルの不正を暴こうと決意する。


「それじゃあ、手続きをしてくるね」

「はい」


 その後……


 依頼を正式に請けた僕達は、いくらかの準備をした後、街を後にした。


 目的地は、街から少し離れたところにあるダンジョン。

 そこを根城とする盗賊団を壊滅させること。


「……あそこだね」


 街から一日ほど歩いたところに、ダンジョンがあった。

 事前の情報によると、地下三層の小さなものらしい。


「入り口に二人……見張りですね」

「その奥からも気配がするね」

「小さなダンジョンを根城にしているから、大した規模ではないと思っていましたが……これは、少し予想外ですね」


 十数人の中規模か……

 あるいは、数十人の大規模な盗賊団かもしれない。


 ソフィアなら、全員、まとめて叩き切ることは可能だろうけど……

 それでも、万が一という可能性もある。


 狭いと乱闘になるし……

 事故の可能性も高い。


「うーん、できれば安全策でいきたいよね」

「フェイトなら、全員、叩き切ることができると思いますよ」

「それ、僕の台詞」

「あんたら、ものすっごい物騒な会話してるわね……」


 後ろの方を飛んでいるリコリスが、顔をひきつらせていた。


「どうしましょうか?」

「うーん……見張りを誘い出して、生け捕り。尋問して情報を聞き出した後、問題ないようなら突入。厄介な問題が出てきたら、そこでまた考える……っていうことでどうかな?」

「行き当たりばったりじゃない」

「今のところ、それくらいしかできませんよ」

「なら、決まりということで」


 石を放り、見張りの注意を引いた。

 近づいてきたところで、ソフィアと同時に茂みから飛び出して、剣の腹で叩く。


 二人の見張りはそれぞれうめき声をあげて、地面に倒れた。


「ふふんっ、瞬殺ね。このあたしに逆らおうとするからよ!」

「リコリスは、なにもしていないではありませんか……」

「フェイトとソフィアはあたしの仲間。仲間の手柄はあたしの手柄。つまり、そういうことよ!」


 ものすごい暴論に聞こえるのは気のせいだろうか……?


 気持ちを切り替えて、見張りを縛り上げて、茂みの奥に引きずりこんだ。


「さてと……あとは、このまま尋問を……え?」


 ふと、刺すような鋭い殺気がぶつけられた。

 反射的に振り返り、剣を盾のように構える。


 ギィンッ!


 瞬間移動したかのように、目の前に歪な牙を持つ狼が迫る。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
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