515話 聖獣王
「そうなんだ……うん。わたしは……」
ちょっと先を行くアイシャは、たくさんの動物達に囲まれていた。
笑顔を浮かべて、動物達と話をしている。
僕は、動物達はにゃーとかわんとか、普通に鳴いているようにしか聞こえないけど……
アイシャは巫女だから、動物達の声がわかるのかな?
あるいは、感覚で理解しているのかもしれない。
「フェイト、この先から……」
「うん……わかっているよ」
動物達に導かれる先に、ものすごく巨大な気配を感じた。
「リコリス、アイシャ達をお願い」
「オッケー、任せておきなさい」
リコリスはアイシャのところへ飛んでいく。
なんだかんだ、リコリスは頼りになる。
彼女に任せておけば問題ないだろう。
「じゃあ……行こう」
僕とソフィアとレナは、気配のする方に進む。
一歩一歩、足を進める度にプレッシャーが強くなっていく。
水の中にいるかのような。
強風を受けているかのような。
そんな感覚。
でも、負けずに前に進んでいく。
「人間か」
「……」
思わず言葉を失う。
姿を見せたのは、ドラゴンだ。
どこにでもいる、というとドラゴンはどこにでもいないので語弊があるのだけど……
姿形、大きさは普通のドラゴンだ。
鱗は汚れ一つない綺麗な白。
全身は光のように輝いている。
なによりも特徴的なのは、その瞳だ。
赤、緑、青……時間と共に瞳の色が変わっていく。
様々な色が混ざり合い、同じ色が戻ることはない。
まるで万華鏡を見ているかのよう。
この輝きは、どんな宝石よりも綺麗だろう。
「どうした? なにを呆けている?」
「あっ……す、すみません!」
声をかけられて我に返る。
ついつい見惚れてしまったけど、呆けている場合じゃない。
このドラゴンは聖獣で間違いない。
話ができる相手と出会うことができたのだから、この機会をきちんと有効活用しないと。
「ここに人間が来るのは、いつ以来だろうか……あまりにも長すぎてもう覚えていない」
「あの……聞いてもいいですか?」
「うむ」
「ここは……聖域なんですよね?」
「そうだ」
ドラゴンは簡潔に答える。
えっと……もしかして、僕達、歓迎されていない?
「……あぁ、気にするな」
表情から考えていることを読み取ったらしく、ドラゴンが苦笑する。
「我の物言いは、単に性格によるものだ。お前達を歓迎していないわけではない」
「それは嬉しい話ですけど……僕達が悪人とか、警戒しないんですか?」
「お前達は正規の手順を踏んで聖域にやってきているからな。ならば、そのような者達が邪な心を持っているはずがない」
僕達は気づいていなかったけど……
悪い心を持つ人を弾くなど、そんな結界が展開されていたのかな?
だとしたら、ドラゴンの態度も納得だ。
「まずは、自己紹介をするか」
ドラゴンは己を誇示するかのように翼を広げた。
「我は、聖獣王と呼ばれている……聖獣達の王であり、この聖域の守護者である」




