513話 失われた聖域
「ここは……」
扉を潜ると、そこは緑の世界だった。
温かな日差し。
広がる緑。
飾られるようにして咲いている花。
「すごい」
なんて綺麗なところなんだろう。
さっきまで殺風景な雪山にいたから、なおさらそう思えた。
「はへー……ここが聖域なのかしら?」
「おそらく、そうですね。このような場所、見たことも聞いたこともありませんから」
「すごいね。ボク、景色で感動するのって初めてかも……」
「わぁ♪」
みんな、綺麗な景色に心奪われている様子だった。
無理もない。
外の世界とはなにもかも違って……
子供が初めて外に出た時のよう。
世界の大きさを、広さを知り、驚く。
そんな感覚だ。
「とりあえず、散策してみようか」
たぶん、聖域らしきところに辿り着くことができた。
ただ、聖獣の姿は見当たらない。
単に場所が悪いだけなのか。
それとも……
それを確認しないと、話が進まない。
「これは……すごく綺麗な水ですね。底まで透明で、キラキラと輝いていますよ」
「この花、うーん……まったく知らないね。見たことない種かも? でも、すごく綺麗。花とか興味ないはずなのに、ボク、見惚れちゃうよ」
「やば、これ。あたし、ここに住みたくなっちゃいそう……マジやば。激やば。やばっす!」
みんな、あふれる自然に感動していた。
リコリスなんて、ちょっとおかしくなっていた。
しばらく歩くのだけど、この綺麗な景色が変わることはない。
ただ、やはり聖獣はおろか、生き物は見当たらなくて……
「オフゥ……」
「大丈夫」
こころなしか元気のないスノウを励ますように、その頭を撫でた。
マシュマロも背中に乗り、元気に、にゃんと鳴く。
これだけすごい場所なんだ。
生き物がいないなんてこと、ありえない。
単純に、もっと奥に行かないといけないのか。
それとも、なにか仕掛けが……
「あ、そうか」
ふと、閃いた。
聖域からしたら、僕達は、なんの知らせもなく突然やってきた来訪者。
普通、そんな怪しい人達の前に姿を見せるようなことはしない。
警戒して、遠くからそっと様子を窺うだろう。
たぶん、聖獣達も同じ。
どこからか様子を見ているに違いない。
なら、僕達が『安全』と思ってもらえればいい。
「スノウ、マシュマロ。ちょっと力を貸してもらえないかな?」
――――――――――
「アォオオオオオーーーーーンッ!」
「ニャーーーーーンッ!」
スノウとマシュマロの鳴き声が響いた。
ここの景色と同じように、澄んだ綺麗な鳴き声だ。
二人の鳴き声は風に乗り、遠くまで届いていく。
そして……
「キュッ?」
ひょこっと、うさぎが茂みから顔を出した。




