511話 妄執は果てて……
「これで……終わりだ!」
ソフィアとレナが最後の一人を追い込んで、そして、僕が一閃を浴びせた。
男は声にならない悲鳴をあげて、地面に崩れ落ちる。
男は、なにかを求めるように手を伸ばして……
しかし、なにも掴むことはできず、倒れた。
そのまま……もう、動くことはない。
「……なんだろうな」
相手は、アイシャ達を狙っている。。
聖獣の力を我が物にしようとする悪人だ。
同情する要素は欠片もない。
ないはずなんだけど……
彼を見ていると、不思議と寂しい気持ちになった。
力を追い求めた慣れの果て。
それは、もしかしたら僕の未来の姿だったのかもしれない。
ソフィアと再会することができず。
リコリスやアイシャと出会うことがなくて。
レナに好意を寄せられなくて。
そんなことになっていたら、僕も、彼らと同じようになっていたかもしれない。
「せめて安らかに」
少しだけ、彼らのために祈った。
そして、すぐに周囲に意識を戻す。
「ま、こんなところだねー」
「これで全てのようですね」
レナとソフィアも終わったようだ。
彼女達の周りに男達が倒れていて、動くことはない。
やりすぎ、と言われるかもしれない。
手加減はできたと思う。
でも、こんな山頂で捕虜を確保しても、安全に街に連れて帰ることはできない。
ほどほどに加減して追い返したとしても、やはり、過酷な環境に倒れてしまうだろう。
なら、いっそのこと……
そんな風に考えているんだろうな。
「終わった?」
リコリスが、ひょいっと馬車から顔を出した。
「うん、もう大丈夫。気配は……しないよ」
「よし。さすがフェイト達ね、よくやったわ! 特別に、めっちゃ可愛いリコリスちゃん親衛隊の称号をあげる!」
「あはは、ありがと」
「って、なにをしているの?」
僕はスコップを馬車の荷台から取り出した。
地面を掘る。
幸い、土はそこまで固くなくて、すぐに人ひとり分の穴が掘れた。
そこに男を埋葬した。
墓石として、近くにある石を軽く削り、置いた。
「なんで、敵の墓なんて作っているのよ?」
「こんなところで、誰にも知られずに、っていうのは……寂しいかな、って」
「はー、フェイトはお人好しというかなんというか」
「ごめんね」
「謝る必要はありませんよ」
「ボクも一緒にやるよ」
ソフィアとレナもスコップを取り出した。
「確かに、敵ではありますが……せっかくなら、気持ちのいい終わり方をしましょう」
「自己満足だけどねー」
「うるさいですね」
「あはは。でも、ボクは嫌いじゃないよ?」
レナもせっせと男達を埋葬していく。
なんだかんだ、しっかり手伝ってくれるところが嬉しい。
そして、頼もしい。
……1時間ほどかかり、全員の埋葬が完了した。
穴を掘り、軽く整えた石を墓石の代わりにした。
簡易な墓。
力を求めた彼らが、その果てになにを得ようとしていたのか、それはわからない。
力に囚われた者の慣れの果てだけど……
でも、今だけは、死後を祈ろうと思う。
「どうか、安らかに」




