510話 終わり
どうして?
どうしてこうなった?
なぜ、こんなことになっている???
深淵と呼ばれている、その男は、頭の中を疑問でいっぱいにしていた。
彼らは虐げられてきた。
弱者ということを理由に、強者に踏みつけられてきた。
抗うことはできず、理由のない暴力を振るわれて……
そして、その在り方を笑われてきた。
耐え難い屈辱と怒りだ。
だからこそ、それらの理不尽をはねのけるための力を求めた。
聖獣。
神に匹敵するであろう、その存在を手に入れることができれば、現状を変えることができるだろう。
一族の屈辱にまみれてきた歴史を変えることができるだろう。
愚かな為政者共を、逆に地に這いつくばらせることができるだろう。
だからこそ、男は力を求めた。
仲間を募り。
世界中に情報網を構築して……
力を求め続けた。
しかし、聖獣は幻のようなもの。
確かに存在するが、その確認はされていない。
男の代で聖獣を見つけることはできなかった。
だから、次代に託した。
その次代も失敗して……
さらに、その次へ。
次へ、次へ、次へ……
世代を重ねて、ひたすらに力を求めていく。
なんのために力を求めるのか?
その理由は誰もが忘れていたが、それでも、力が欲しいという欲求だけは消えることがなかった。
そして……
ついに、聖獣の存在を確認することができた。
正確に言うと、魔獣だ。
王都に魔獣が出現して、甚大な被害を及ぼす事件が起きた。
その事件は収束したが……
おかげで、聖獣が実在するという確信を得ることができた。
さらに、聖獣の子供を見つけることができた。
一匹、確保したのだけど、何者かに奪われてしまう。
男は怒り心頭で追いかけた。
すると、どうだろうか?
奪った相手の元に、さらに別の聖獣がいるではないか。
それと、聖獣と心を通わせることができる巫女もいた。
これぞ神が与えてくれた幸運に違いない。
男は、初めて神に感謝した。
そして、じっと様子を伺い、ひたすらに機会を見て……
ここぞというタイミングで攻撃をしかけた。
一族の長年の悲願だった聖獣を手に入れることができる。
これで、力が手に入る!
男は歓喜に震えていたが……
しかし、それが絶望に変わるのはすぐだった。
聖獣と一緒にいるのは、剣聖だ。
そして、剣聖を剣術大会で打ち負かしたという猛者もいて……
さらに、魔獣に仕えていたという組織の生き残りもいた。
なんだ?
なんだ、このでたらめなパーティーは?
なぜ、このような強者だけが集まり、聖獣を手にしている?
すでに力を持っているはずなのに、それなのに、なぜこちらに力を渡してくれない?
いいではないか。
すでに力を持っているのだから、こちらが聖獣を手にしてもいいではないか。
それこそが平等というものだろう?
男は必死に戦った。
仲間と一緒に、力を手に入れるために戦った。
しかし……届かない。
彼らは、あまりにも強い。
圧倒的な力だ。
男が欲していた力だ。
またしても、力の前に負けてしまう。
踏みにじられてしまう。
だから、男は……




