509話 妄執に囚われた者達
「ここで断つ!」
地面を蹴り、前に出た。
先制攻撃だ。
そして、手加減は一切なし。
神王竜剣術、壱之太刀……
「破山っ!!!」
初手から最大火力を叩き込んだ。
これは、さすがの敵も予想外だったらしい。
回避が遅れて、一人、巻き込まれる。
当たれば御の字、のつもりで放ったので、一人だけでもまったく問題ない。
むしろラッキーだ。
で、僕の目的は……
「ソフィア! レナ!」
「任せてください!」
「ちょっと憂さ晴らしに付き合ってね?」
ソフィアとレナが駆けた。
それは、まるで風のよう。
気がつけば隣にいて、いつ、動いたのかまったく察知できない。
それでいて速い。
二人の剣が閃いた。
僕の攻撃から逃げようとした者が、まとめて四人、叩き落される。
この援護のために、初手から最大火力をぶつけたわけだ。
なんだかんだ、僕より二人の方が強い。
前の剣術大会では二人に勝ったものの……
勝負は時の運。
また勝てと言われても難しい。
ずっと負け続けるつもりはないけど……
10戦したら、8敗くらいしてしまうだろう。
それくらいの差があると認識してて……
同時に、二人の強さに信頼を置いていて……
だからこそ、僕が揺さぶりを担当して、本命の攻撃は二人に任せた、というわけだ。
そんな僕の考えを、なにも言わなくても察してくれる二人は、本当に心強い。
「ちっ……」
「こいつらは任せろ、他は聖獣を……」
「了解だ」
敵は二手に別れた。
半分は僕達に。
もう半分は馬車に向かう。
僕達を抑え込んでいる間に、アイシャ達をさらうつもりなのだろう。
でも、そんな考えを見抜けないとでも思ったのかな?
予測済みで、対策もバッチリ。
「さあ、聖獣を渡せ!」
「うっさいわね! 不躾な訪問はお断りよ!」
「ぎゃっ!?」
ひょい、とリコリスが馬車から顔を出して、魔法を放つ。
雷撃が敵の一人を打ち、ぶすぶすと煙を立てながら倒れた。
容赦ないなぁ……
まあ、同情するつもりはない。
できることなら命のやりとりはしたくないけど……
僕の大事なものに手をかけようというのなら、話は別だ。
……絶対に容赦しない。
「くそっ、邪魔な妖精が……!」
「させないよ」
「なっ」
加速。
馬車に近づく男との距離を一気に詰めて、剣を振り上げた。
ザンッ!
確かな手応え。
男は、服の下に軽鎧を着ていたようだけど、それをまとめて叩き斬る。
「く……そ」
男は最後にこちらを睨みつけて……
しかし、なにもできず、そのまま崩れ落ちていった。




