508話 絡みついてくる悪意
「……」
「……」
「……」
どこからともなく黒装束が現れた。
一人、二人、三人……どんどん増えていく。
気がつけば、僕達は数十人の黒装束に囲まれていた。
「馬車は任せなさい!」
リコリスは、なんだかんだ、とても賢い。
すぐに状況を理解すると、馬車に戻り、アイシャ達を守るために防御結界を展開した。
リコリスの魔法を簡単に突破することはできないだろう。
ひとまずは、アイシャ達はリコリスに任せてよさそうだ。
僕達は……黒装束達の相手だ。
「あなた達は?」
いきなり斬りかかるのもどうかと思い、一応、問いかける。
とはいえ、もう正体はわかっているのだけど。
「案内、ご苦労。お前達の役目は終わりだ」
「聖獣を渡して、全てを忘れて引き返せ」
「おとなしく従えば命は助けよう」
会話になっているようで、まるで会話になっていない。
一方的な要求を上から目線で押しつけてくるだけだ。
「そのような要求に、私達が従うとでも?」
「無理矢理にでも従ってもらう」
黒装束達も武器を構えた。
両手に短剣。
皆、武器を統一していて……
存在をコピーしたかのように、動きも一致していた。
連携を確実なものとするような訓練を受けているのだろう。
「はー、やれやれ。力付くで言うことを聞かせようとするとか、深淵ってのは、そこらのチンピラと変わらないねー」
レナが煽る。
そう……黒装束達は、『深淵』だ。
彼らの力は落ちているらしいが、壊滅したわけじゃない。
水面下に潜み、聖獣を得る機会を窺っている。
そんな彼らにとって、僕達は絶好の得物だ。
アイシャがいて、スノウがいて、マシュマロがいて……
さらに、聖域に繋がる門を探している。
うまくいけば大量の聖獣をゲット!
なんて、邪なことを考えていたに違いない。
放置すれば、後々、大きな問題になるかもしれない。
だから、あえて誘い出すことにした。
尾行されているのは気づいていたけど、気づいていないフリをして……
こうして、門の前まで誘い出した。
「あんたらって、あれね。あの口にも出したくない、黒いヤツと一緒ね。隅っこにひそひそと隠れてて、見たくない時に現れるし。ボク、大嫌いなんだよねー。見つけ次第、叩き潰すようにしているんだ」
「貴様っ、我らを虫と一緒に語るか!」
「同じじゃん。力が欲しいから他者を害するー、とか。小物の考えることじゃん」
「人は他者を犠牲にすることで力を得て、進化してきた。それは生命の真価であり、世界の理でもある。我らは、より正しい進化を遂げるために……」
「あー、そういう自分語りはどうでもいいから。一ミリも興味ないし。結局のところ、ボクにとって君達は、虫と同じくらいどうでもよくて、目障りなんだよね」
レナはニヤリと笑い……
その状態で殺気を放つ。
登山がメインで全力で暴れることができていなかったから、ストレスが溜まっていたみたいだ。
「僕は、レナほど過激じゃないけど……」
刃を黒装束達に向ける。
「敵対するのなら容赦しないよ。君達は、自分が正しいと思う主張を持っているだろうけど、それは僕達も同じ」
「その通りです。大事な人を守るために、私の剣はあるのですから」
「だから、僕達は戦うよ。それと……」
古い時代から続いていた因縁を終わらせよう。
深淵。
聖獣の力に見せられた彼らは、ある意味で、黎明の同盟と似た存在だ。
彼らの残党のようなものだ。
なればこそ。
これ以上、存在してはいけない。
身勝手な大義を振りかざして、他者を踏みにじる。
世に混乱をもたらすだけだ。
その悪意を。
その怨念を。
「ここで断つ!」




