507話 門
「フェイト、あれ、見て!」
レナが慌てた様子で山の頂上の方を指さした。
雪崩を起こしたことが影響しているのか、天候がそれなりに回復して、視界が晴れている。
というか、あの悪天候はアイスゴーレムのせいだったのかもしれない。
もしかしたら聖域に至る道の門番?
それらを全て掃討したから、頂上へ続く道を確保することができた。
「そう! つまり、ボクはそこまで考えていたのさ!」
「レナ?」
「えっと、いや、その……」
「レナ?」
「……ごめんなさい」
レナは、再び反省した。
まったく。
いい子なんだけど、調子に乗りやすいところが困ったところだ。
馬車まで戻り、ソフィアに呼びかける。
「道は確保できたよ。また吹雪かないとも限らないから、今のうちに急ごう」
「わかりました。もう少し、馬にはがんばってもらいましょう。少し揺れるかもしれませんが、アイシャちゃん達もがんばってくださいね」
「がんばる!」
「ワフッ!」
「ニャンッ!」
アイシャ達も頼りがいのある立派な返事をしてくれた。
「……あれ? あたしは?」
「リコリスは、問答無用でがんばってください」
「ひど!?」
「聖域に着けば、この極寒の地から抜け出せるかもしれませんよ。きっと、温かいところですよ」
「よっしゃ! あたしも魔法で援護するから、突っ走りましょう!」
とてもわかりやすい子だった。
リコリスって、本能だけで生きているのかな?
「じゃあ、出発!」
――――――――――
猛吹雪は収まったけれど、降った雪が消えるわけではない。
雪崩である程度の雪は払えたものの、まだまだ、たくさん残っている。
それらを剣や魔法で、どうにかこうにか処理して、馬車を進めていく。
幸いなのは、馬車が通ることができる道ができていることだ。
傾斜は多少急だけど、進めないことはない。
自然のものではなくて、人工的に作られた形跡がある。
やっぱり、この先になにかがあるのだろう。
そんな確信を抱きつつ、とにかく必死に前に進んで……
「着いた……」
やっと頂上に到着した。
頂上は広く平坦になっていた。
ちょっとした村が収まるほどに広い。
それと、雪がまったく積もっていない。
寒さは変わらないものの、土が見えていて、花などが咲いている。
まるで別世界に来たようだ。
そして……
「あれが門……なのかな?」
中央の景色が不自然に歪んでいた。
蜃気楼を見ているかのように、妙な違和感がある光景になっている。
「おー、これはすごいわね」
いつの間にかリコリスが隣を飛んでいた。
「リコリスは、あれがなにかわかるの?」
「あれ、転移門よ。周囲の光景と同化するように偽装されているけど、長い年月が経っているせいか、綻びが生じているわね。でも、まだパッと見はわからないようになっている。これだけの転移門を作り出すなんて、なかなかできることじゃないわ」
「へー。キミ、魔法のことに関してはアホじゃないっぽいね」
「アホじゃないっぽいとか、どういうことよ!? 天才みたいだね、とか、もっと違う褒め方があるでしょ!?」
レナのたぶん悪気のない一言に、リコリスは烈火のごとく怒った。
それはともかく……
「フェイト」
「うん、わかっているよ」
僕とソフィア、それとレナは剣を抜いた。




