504話 自然の結界
「あー……ヒマだね」
「……うん」
猛吹雪で足が止められてしまい、今日で三日目だ。
依然として吹雪は続いていて……
これ以上激しくはならないものの、弱まる気配もない。
「まいったあ……いきなり、こんな風に足止めされるなんて思ってもいなかったかも」
「同意です。少し山というものを甘く見ていたかもしれませんね……」
「……んー」
僕とソフィアが困った顔をする中、レナは微妙な顔に。
「なーんか、妙な感じがするんだよねー」
「妙な?」
「この吹雪、魔力が混じっているような気がするんだ」
「えっ」
驚いて馬車の外を見た。
相変わらず、外は視界が塞がれるほど吹雪いていた。
魔力は……
ダメだ、よくわからない。
魔力は誰でも持っているけど、でも、僕は魔法を使うことはできない。
だからうまく感じるとることができないのかも。
「リコリスはわかる?」
「えっと……あぁ、言われてみればそうね。それなりの魔力を感じるわ」
「ということは……この吹雪は、もしかして、何者かによる妨害……?」
ソフィアが鋭い表情に。
ただ、その推理を否定するように、レナが首を横に振る。
「悪意は感じられないから、違うんじゃないかな? まあ、リコリスのような妖精にいたずらをされている、って可能性もあるかもだけど」
「ちょっと、妖精はそんなことしないわ。超々、優等生だもの!」
「「「……そっか……」」」
優等生という台詞に、みんな、リコリスに生暖かい視線を向けた。
「んー……」
ふと、アイシャが耳をぴくぴくと動かした。
「どうしたの、アイシャ?」
「なにか……なつかしい感じがするの」
「えっ」
「よくわからないけど……なんだろう、これ? あぅ……」
困った様子で、アイシャはうつむいてしまう。
自分の中にある感覚をうまく言葉にできない様子だ。
「懐かしい感じ、っていうと……もしかして、聖域とか?」
「……ありえるかもしれませんね。聖域に近づいているから、その気配を感じ取った? いえ、それにしては……もしかして」
とある推測を立てたらしく、ソフィアは、はっとした表情を作る。
「この吹雪は、聖域の影響を受けているのでは?」
「どういうこと?」
「この先に聖域に繋がる道があるのは、ほぼほぼ確定でいいと思います。どのような形をしているか、それはわかりませんが……その道から、聖域に満ちているであろう魔力が漏れ出ているとしたら? そして、それが周囲の天候に影響を与えているとしたら?」
「……それが、この猛吹雪の原因……」
「ただの推測なので、断定はできませんけどね」
「わりと良い線、いっているんじゃない? あたしも、ソフィアの意見に賛成よ」
意外というか、リコリスが真面目なことを言う。
……真面目な発言を意外と思ってしまうのは、もう、日頃の行いのせいだろう。
「あたしも妙な魔力を感じるわ。これが聖域、ってやつなのかもしれないわね」
「じゃあ、魔力が流れてくる方に進めば……」
「聖域に繋がる扉が見つかると思うわ」
「よしっ」
「でも……」
リコリスはため息をこぼしてみせた。
「まだ、それなりに離れているはずなのに、この猛吹雪。たぶん、近づけば近づくほど、もっと酷くなっていくわ」
「それは……」
「さながら、自然を利用した結界ですね」
「聖域から漏れる魔力が影響しているなら、止める方法はなさそうだね。これなら、誰かが悪意を持って邪魔している、っていう方がまだマシだったかも。それなら、そいつをぶっ叩けばいいだけだし」
ちょっとだけレナに同意してしまいそうだった。
外は猛吹雪。
この先に目的地があるはずだけど、近づけば近づくほど酷いことになる。
どうすればいい?
「って……こういう発言がダメなのかな。フラグ、っていうやつ?」
「え?」
レナは、壁に立てかけておいた剣に手を伸ばした。
それを見て、はっとなり、僕も剣を手に取る。
「……フェイト……」
「うん……敵だね」




